(本稿は新聞「週刊Car&レジャー」2750号(2020年9月)に掲載)
新型コロナウイルスの感染拡大による自動車産業への影響は、2008年のリーマン・ショック以上の減速傾向にあるとも言われている。同様にキャンピングカー業界もまた、実車をアピールする場であるショーや商談会イベントが軒並み中止。先行きが不安視されている中、業界最大手であるナッツRVの荒木賢治代表は「キャンピングカー業界は、コロナ禍がむしろ追い風になっている」と話す。そこで今回は、これまでとは趣向を変え、同業他社やサプライヤーとの親交が深く、業界全体についての見識を持つ荒木代表に「コロナ禍でも活況を呈しているキャンピングカー業界の現状と今後」を語ってもらった。
バックオーダーを抱える人気市場
荒木賢治氏が代表を務める「ナッツRV」(本社:福岡県遠賀郡)は、キャブコン(キャブコンバージョン)を中心に、フルサイズからバン、小型車ベースまで、キャンピングカーのフルラインアップを製造・販売するメーカーだ。
創業は1990年、キャンピングカー業界に参入後は、2002年に中国に渡り、2004年に法人登記をして大連工場を稼働、2014年にはフィリピン・セブ島、2015年には北九州市に敷地面積約4000坪の工場を新設。創立から30年で年間総生産台数1000台を目標に掲げる、国内随一の大手キャンピングカー企業へと躍進した。
今年は新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の発令等もあり、キャンピングカー業界も少なからず影響を受けていると誰もが思うところだが、同社の荒木代表は「むしろ追い風となっている」と話す。
その理由について、「ひとつは、キャンピングカーを製造する企業の多くが、半年から1年先まで、長期に及ぶバックオーダーを持っていることが挙げられる。新型コロナの影響で契約数が多少減ったとしても、生産ができる限り売り上げが落ちることはない」と話す。
同社も2021年のゴールデンウィークまでの生産分は、受注が入っているという。供給よりも需要が優っているこの状況は業界全体に言えることで、キャンピングカーの中古車市場を見ても、車両価格が高水準を維持している現状から推測できる。
また、近年はキャンピングカーが滞在できる施設が増え、車中泊も一般に浸透、そしてオートキャンプがメディアで取り上げられる機会が多くなったことで、よりキャンピングカーの注目度が増してきている。荒木代表も「すぐにキャンピングカーが欲しい、乗りたいという新規の来店客が増えてきたこともあり、これまで下取り車として保管していた車両や展示車等をリメイクし、台数限定ながら“即納車”として販売した。これも大きな売り上げの伸びにつながった」と語る。
今年5月には、キャブコン「クレソンボヤージュ(※1)」(2018年モデル)のリースアップ車50台の中から程度の良い車両を厳選し、「EVOLITE(※2)」仕様へのグレードアップを施すとともに、装備を充実させて販売するプレミアムアウトレット車を販売。車両価格600〜700万円、オプションを含め平均売価800万円のモデルが全て2カ月で完売した。この企画は第2弾、3弾と続き、いずれも好調なセールスを記録した。
※1 クレソンボヤージュ
ナッツRVの販売ボリュームゾーンを担うキャブコンで、今年1月末には「クレソンジャーニー」へとモデルチェンジ。先代ではFRP一体成型だったボディが、現行モデルでは断熱・耐久性にも優れる「エクシードシェル」へと変換。室内レイアウトも3タイプから選べる。
※2 EVOLITE
充電効率を最大限高めることで急速充電を実現した、ナッツRV独自開発の電装システム「EVOLUTION」の普及バージョンが「EVOLITE」。クレソンジャーニーに搭載グレードを設定。このシステムにより、3つのサブバッテリーを満充電にできる時間を8.5〜10時間と大幅に短縮。走行中は継続して家庭用エアコンを使用可能。アイドリング時もほぼストレスなく使える。
有事に頼れるキャンピングカー
二つ目の理由として荒木代表が挙げたのは、販売店への来店者数増加だ。4〜6月は一時的に減少したものの、7月からまた増加傾向にあるという。荒木代表は「キャンピングカーがレジャーとしての用途に加え、災害等の有事の際にも役立つクルマであることが広く知られるようになったことで、興味を持つ層が増えてきた」と分析。加えて「購買意欲が高く、景気にも左右されないある一定の富裕層も少なからず見受けられた」という。
さらに荒木代表は、「現在のコロナ禍では、公共交通機関より自家用車を移動手段として考える人は多い。キャンピングカーは、家族で“クルマ旅”に出かけられることも大きなセールスポイントとなっている。海外に目を向けても、フランスではロックダウンが解除された5月以降、キャンピングカーの売り上げが4倍にも伸びている。先日は取引のあるヨーロッパのパーツサプライヤー5社とリモート会議を行ったが、どの企業も今は大変な忙しさ。皆声をそろえて『5年先までにヨーロッパのキャンピングカー保有台数は現在の22万台から倍増する』とうれしい悲鳴をあげていた」と語る。
一方で、ポジティブな話ばかりではなく、ナッツRVも生産工場のある海外拠点のロックダウンで、資材の輸入がストップした期間もあった。この期間に約70台の生産が滞り、平均売価750万円としても5億円以上の売り上げ減となった。それでも「売上高は前年比を下回ることはなく、むしろこのコロナ禍で、よりキャンピングカーへの注目度は増してきている」と話す。実際にテレビメディア・雑誌媒体等の取材が7〜8月だけで7本もあったという。
対面式のテーブルで家族が食事でき、フルフラットのベッドで就寝。この“移動する家”とも言えるキャンピングカーは、災害時の一時避難場所としても十分役立ってくれる。そんな商品力の高さもまた、来店客の増加につながり、メディアにも注目される一因となっているのだろう。
今がチャンスと捉え、さらなる投資へ
このコロナ禍におけるキャンピングカーのニーズの高まりを受け、「業界にとっても今は好機と捉えている」と荒木代表。生産力を飛躍的に向上させるための大規模な設備投資とともに、超断熱コンポジットパネル生産工場の新設を昨年行ったばかりだが、現在もなお工場の拡張に向けた敷地・場所探しを継続。全国に7店舗を展開する販売網も増やしていく計画だ。
また、会社の規模拡大と並行して、同社は働きやすい職場環境づくりにも着手。今年は夏の賞与に加えて「新型コロナ特別応援金」として従業員約160人に一律10万円の特別賞与を支給。さらに、以前より荒木代表が「将来は長期の休暇を使って自社のキャンピングカーに乗り全国を巡る旅を楽しむ。そんな人生が送れるような魅力ある会社にしていきたい」と語っていた通り、1カ月の夏季休暇の実現を5年後に目標設定。加えて、従業員がいつでも借りて乗ることができる自社用キャンピングカー15台を、今年中に用意する計画だ。
そして最後に、この9月以降、キャンピングカー業界には追い風となる大型ショーイベントが多数控えていることを挙げた。開催を延期していた9月19日からの「東京キャンピングカーショー2020」をはじめ、10月に名古屋、11月に神奈川、福岡、大阪、12月に北陸でそれぞれショーの開催が決まっている。昨年、クルマ旅と車中泊の文化を創出し、根付かせていくことを目的に設立された一般社団法人「キャンプジャパン」も、遊びの提案としてキャンプイベントを計画していくはずだ。
荒木代表は、「加えて、Go Toキャンペーンといった地域活性化、ツーリズム需要を喚起させる施策も後押しとなり、キャンピングカー業界は今年後半に向けても、さらなる活況が期待できる」と締めくくった。