日産・6代目ブルーバード(910型)試乗記 【アーカイブ】

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ライバルの存在は成長を加速させると言われるが、自動車も例外ではない。その代表例といえるのがトヨタ・コロナと日産・ブルーバード。ともにメーカーを代表する中型セダンとして熾烈な販売競争を繰り広げ、「BC戦争」と称されるほどであったが、60年代から日本のモータリゼーションを躍進させた原動力の一つとなったことは間違いない。

その中で、大成功を収めたモデルの一つが910ブルーバード。当時人気絶頂の沢田研二のCMキャラクター起用も話題になり、「ブルーバード、お前の時代だ」のキャッチコピー通りの結果となった。

<週刊Car&レジャー 1979年(昭和54年)12月20日号掲載>
「日産 ブルーバード」試乗記

11月2日に発売された新型ブルーバードは、おりから開催中の東京モーターショー、その後開かれた全国販売店での発表展示会の来場者に鮮烈な印象を与えた。「シンプル&クリーン」と呼ぶスタイルは、直線を基調として低く、広く、安定感にあふれているばかりでなく、走りそのものの素晴らしさを連想させる。「走る」という原点を見つめなおした発想が、このスタイルを生んだといえよう。

日産は54年に「シルビア、ガゼール」「セドリック、グロリア」に続いてこの「新型ブルーバード」を発売したが、一連のデザインポリシーをみてみると、80年代の美しさとは何かを明確につかんでいるようだ。

それを一言に表現すると「人間の使う道具には一種の美しさがある。その道具が優れ、機能的なほど美しい」ということになるようだが、日産は新型ブルーバードの開発にあたり、自動車に要求される基本的な機能「走る」「操縦する」「止まる」という三つの原点を見つめなおした結果、この新型ブルーバードが生まれたといえようか。

新型ブルーバードは1.8Lを中心に、経済的な1.6L、走りっぷりの良い2Lのシリーズで構成されている。2Lは従来のL20型(6気筒)を廃止し、Z型エンジンを採用した。「全シリーズをZ型4気筒に統一したため、過剰設計部分がなくなり、軽量化による燃費向上、操安性の向上など多くのメリットが生じた」そうだ。

その2L、1.8LにはEGI(電子制御燃料噴射装置)付きのものが用意されているが、その加速は実にパワフルで手応えがあった。豪快な走りを求めるのなら、やはりSSSということになる。ハードなサスペンションとワイドトレッドによりロール率が低く、かなりな鋭さでコーナーを駆け抜けられる。蛇足ながらハードトップで、しかも後席の居住性の良さに感心させられた。

ゼロスクラブの採用とハイキャスターのせいで直進安定性が大きく横Gを与えてからの回復力がすばらしい。ごく低速と大きな舵角での高速コーナリング以外、操舵力は見事に軽い。しかもラック&ピニオンだから応答性は当然ながらクイックであり、シャープだ。こうして走ってみるとかなりスパルタンで、スポーツライクな車だという印象が強かった。

3000回転以下で、エンジンの静かさは一級だ。ステレオ音楽がかなりなハイファイで楽しめる。

急速燃焼というが、2プラグによるマイルドな燃焼が静かなエンジンを作り上げたからだろう。風切り音なども、いたって少ない。ピラー周りの成形が上手になされた結果だ。

うれしいことにフロントは全車通気性が良好で冷却力が高いベンチレーテッド・ディスクになり、さらにSSS系はリヤもディスクという四輪ディスクだから、スポーツライクな重装備だ。効きは素直で吸い付くように止まるが、9インチという大型マスターバックの採用で踏力の点で、まったく心配はなくハイヒールで十分だ。

女性対象のファンシーGLは1.8Lのキャブレター付きだ。AM/FMステレオ、パワーミラーなどが標準装備だが、そのなかで本当に女性向きな点は、全体が高くなるシート、パワーステアリング、オートマチックのコンビによる取り回しの良さと運転のしやすさだ。乗り心地もマイルド、静かさという点でもピタリ女性向きだった。

大衆車よりも上級なファミリーカーとしての居住性は十分に満足できるものだ。7ウェイシートはチルトするスタリングとのコンビで、かなり変わりだねの体格でもフィットするだろう。オートマチック用のブレーキペダルも最近では左足で満足に踏めるようになった。

・大きな車体で低燃費

常に問題になる後席のレッグルーム、ヘッドルームともに上級車種としての実用性、ガマンを必要としないタノシイ居住性を持っていた。スマートなハードトップの後席でさえ問題はなかった。

ガソリンタンクが床下に移ったせいでトランクが浅くなったが、逆に広さが十分だから結果としては収容力が旧型より増大している。開口部が広いのがなによりだ。

車型は二種、4ドアセダンと2ドアハードトップとシンプルにまとめられ、価格は94.9万円から173.3万円。五速は2.5万円高、オートマチックは6.5万円高だ。多少、旧型より値上がりした感じもするが、車格、装備の向上から逆算すると専門家は実質的に値下げと評価を与えている。いずれにしてもこんなに美しくしかも良く走る車が、この価格で買えるなら結構なことだ。

ひとまわり大きくなった車体だが、軽量化が進んでいる。近頃の流行だが目的は省資源、省エネルギーで、ブルーバードもその例に洩れず、かなりな燃費を稼ぎ出している。各車、平均してL当り10から14キロぐらい走ってくれた。もちろん高速道路などで16キロというような例もあり、大きな車体から想像する以上に“小食”な車といえそうだ。

キャブレター型も含めてもエンジンのリッター当りの出力は60馬力前後なのだから、これが軽量ボディと組んで、パワーウェイトレシオがほとんど9㎏台というスポーティな領域に納まっているので、加速がいいのに、驚く必要もなければ、取り立てて感心する必要もないことなのかもしれない。

すべて4気筒に統一した広いボアによる強いトルクを生かし、加速はレッドゾーンより5000回転ぐらいでシフトアップした方が良い結果が得られるはずだ。

書いていると際限なく良いところが目につく車だ。キレイな車に乗っていると、なんとなく浮き浮きとしてくる。そして人の視線が自分に集中されるというのは、なんともいえずこれも良い気分なものだ。

CMキャラクターは当時人気絶頂だった沢田研二。「ザ・スーパースター’80」のキャッチも懐かしい。この頃、80年代は新時代到来というワクワク感に満ちていた。

<解説>

910ブルーバードが登場したのは80年代の幕開けを控えた79年秋。当時は「シャープ&クリーン」の直線基調デザインが流行しており、このブルーバードの他、同年に登場した430セドリック/グロリア、3代目シルビアなども直線基調、他社でも70系カローラなどが同様のデザインを採用している。

販売不振のため短命に終わった先代モデルから一転、すべてを一新したこの910ブルーバードは登場と同時に人気を呼び、名車といわれた3代目・510ブルーバード以来の大ヒットとなった。翌80年には先行したセド/グロに続いてターボエンジンも追加され、走行性能がさらに強化された。

83年に販売を終了。後継の7代目ブルーバードはFF化されたため、結果としてこの910型がブルーバードとしては最後のFRモデルとなった。また7代目より正式車名が日産ブルーバードとなったため、最後の「ダットサン・ブルーバード」でもある。

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