文・写真:編集部
東京から長野まで鉄道で移動する場合、現在最も速いルートが北陸新幹線だ。並行して在来線の信越本線(しなの鉄道)も走るが、地図を見ると横川駅~軽井沢駅間が途切れている。このわずか1駅の空白区間には、旧中山道の頃から難所といわれて碓氷峠が横たわり、明治26年に開業した鉄道も、この峠を越えるには苦闘の連続だった。
鉄道は金属製のレールの上を金属製の車輪で走るため、急な斜面では車輪が滑り出して坂を登れなくなってしまう。しかも、碓氷峠越えの鉄路は、66.7パーミル(1000m水平に進むと66.7m標高が変わる*1)という急勾配。この難所を克服するため、アプト式鉄道*2と専用の蒸気機関車が採用された(横川駅~軽井沢駅所要時間:75分)。明治45年には、電化され電気機関車が走るようになった(同:49分)。アプト式鉄道は昭和38年まで使用され、以降はアプト式を使わない新ルートを峠越え専用の強力な電気機関車が列車を牽引した(同:17分)。こうして信越本線は、東京から長野~上越方面を結ぶ国内の主要鉄道ネットワークの一つになった。
平成9年、さらなる大量・高速輸送を可能にする北陸新幹線が長野まで部分開業し、信越本線の横川駅~軽井沢駅間は廃線に。往時の賑わいは消えたが、横川駅と碓氷峠周辺には急勾配を克服した鉄道技術の数々が史跡として残されている。特に明治時代に建造物は、近代国家として急成長を続ける当時の日本の姿を今に留めているようで、鉄道ファンならずとも訪れてみたい場所だ。空いていれば、都心から高速を利用して2時間弱、碓氷峠へとクルマを走らせた。
*1:現在、付近を走る北陸新幹線の安中榛名駅~軽井沢駅間の勾配は30パーミル前後。
*2:2本のレールの間に歯車のように刻みをつけたレール(ラックレール)を敷き、機関車も左右の車輪の間にラックレールと噛み合う歯車を持つ。機関車の歯車とラックレールが噛み合うことで、急勾配の登り/下りを安全に走行することができる。ラック式鉄道ともいう。
目次
・ 碓氷峠鉄道文化むら 大人から子供まで楽しめる鉄道のテーマパーク
・ アプトの道 66.7パーミルの鉄路を歩いて実感する
・ 碓氷第三橋梁(通称:めがね橋) 芸術的なレンガ造りの4連アーチ橋
・ ご当地ランチ 「峠の釜めし(おぎのや)」 旅情あふれるやさしい味
・ 旅グルマ紹介 マツダ・CX-30
碓氷峠鉄道文化むら
大人から子供まで楽しめる鉄道のテーマパーク
峠越えの鉄路を作り上げた人知の数々と、その“格闘”の変遷を詳しく知ることができるのが、JR信越本線・横川駅駅前、旧横川運転区跡にある碓氷峠鉄道文化むらだ。
鉄道資料館ではアプト式鉄道建設の貴重な資料や展示物、HOゲージの鉄道模型が走る一大ジオラマ等で知ることができ、実際に使われていた検査・修理用車庫(鉄道展示館)には、アプト式の専用電気機関車(ED42)が展示されている。このほか、屋外にはアプト式の専用レールの実物をはじめ、旧国鉄時代に全国で活躍した電気機関車や特急車両(189系)、客車を展示。中には乗り込める車両もある。
また、旧信越本線の下り線を利用したトロッコ列車(有料)が運行され、近隣の日帰り温泉施設「峠の湯」まで、ゆったりと“鉄道旅”も楽しめる。さらに、施設の外周を巡る蒸気機関車とディーゼル機関車の「あぷとくん(有料)」や、場内を巡る「ミニSL(同)」に乗ることで、平成生まれのお子さんも“蒸気機関”の鼓動や息づかいを体験することができる。
何より、この施設の特徴ともいえるのが、平成9年まで横川~軽井沢間で列車を牽引した碓氷峠専用の電気機関車(EF63)の運転体験ができること(学科講習も必要、要予約)。“峠のシェルパ”の異名を持つEF63をこの手で操れるのはマニア垂涎の体験といえる。