ガルウイングについて考える・ベンツ300SL

コラム・特集 車屋四六

ガルウイングとはカモメの羽だが、車業界では両側ドアを上に跳ね上げた姿から連想して、ガルウイングと呼ぶ。この姿、デザイナーには憧れのようで、ショーモデルや習作作品には良く見られる。が、夢を実現し量産販売した車もある。トヨタ・セラ、ランボルギーニ・カウンタック、デローリアン、そしてベンツ300SL。

カモメのように羽を広げたベンツ300SL/トヨタ博物館収蔵庫で

私の独断偏見で、トップ写真のトヨタ・セラとカウンタックは、ドアの前ヒンジを支点に跳ね上げた姿が、どう見てもカモメの羽には見えない。

セラはカモメと云うよりは可愛いテントウ虫で、カウンタックはバッタかカマキリの姿を連想してしまう。でもガルウイングを名乗るから嫌みを云うので、デザインとしては素晴らしいと思っている。

どう見てもカモメには見えないがガルウイングと呼ばれるランボルギーニ・カウンタック

結局、大空に羽ばたくカモメを連想出来るのは、デローリアンとベンツ300SLということになる。が、デローリアンは魅力ある姿の実現だが、300SLの場合は構造上の問題解決にあった。

1954年誕生の300SLは、軽量化を追求した結果、当時はレーシングカー専用だった鋼管フレーム構造を採用した。それは市販量産車では初めてのことだった。

その結果、異常に高いサイドシルで高く足を上げなくては乗降できない、それでドアを跳ね上げる必要が生まれたのである。
いずれにしても、高いサイドシルは若い女達に嫌われたが、それを眺める男共には好評だった。

で、気になる車重は僅か1300kgに仕上がった。300SLのネーミングは、この1300kgが由来という記事を読んだことがあるが、事実はエンジンの排気量からである。

ソレックスキャブレター三連装3L・SOHCエンジンは、圧縮比9.5・225ps/5300rpm。そのエンジン本体は、空力向上で生まれた、低くいボンネット内に納める必要から、傾けて搭載されている。

1966年、壁が出来て間もないベルリンに、親しいベルリンオペラの首席トロンボーン奏者オースト・ヘルグートを訪ねたら、300SLのオーナーを紹介してくれた。

「戦争中の愛機メッサーシュミット戦闘機の発動機に似ている」と自慢げに話し「乗っていいよ」と云ってくれたので、しめたとばかりにアウトバーンに向かった。当時の日本は最高速制限60㎞の頃…若気の至りで走る時速100㎞は猛スピードだから、公道で未知の200㎞オーバーには、えらく興奮したものだった。

300SLにはレーシングカーの300SLRがあり、それがサーキットでは連戦連勝したが、更に続くと思われた連勝だが、55年のルマン24時間レースの大惨事で、ベンツはレース活動から引退した。

300SLは、1400台が市場に送り出され、コレクターアイテムになり、バブル絶頂期には一台一億円を超え、現在日本にも数台が存在する。石原裕次郎に300SLが欲しいと依頼されたが、売り物がなかった。その後裕次郎はオーナーになり、死ぬまで大切にしていたようだ。

 

車屋四六:1960年頃よりモーターマガジン誌で執筆開始。若年時代は試乗記、近頃は昔の車や飛行機など古道具屋的支離滅裂記事の作者。車、飛行機、その他諸々古い写真と資料多数あり。趣味はゴルフと時計。<資格>元JAFスポーツ資格審査委員・公認審判員計時一級・A級ライセンス・自家用操縦士・小型船舶一級・潜水士等。著書「進駐軍時代と車たち」「懐かしの車アルバム」等々。

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