【車屋四六】フォード・サンダーバード強烈デビュー

コラム・特集 車屋四六

WWⅡが終わってからの20年ほど、米国の乗用車は大馬力化・巨大化の競争期だった。大衆車のシボレーやフォードですら、全長が5mを越え、全幅も2m越えというほどのエスカレート振りだった。

そんな時代の1955年に登場したのがフォード・サンダーバード…米国では珍しい二座席スポーツカーで、登場するとたちまち人気者になり、Tバードと愛称されるようになった。(写真トップ:初代フォード・サンダーバード。低く長く幅広く、実に格好良かった。もちろんトップはデタッチャブル)

もちろんスポーツカーとしては世界最大級だった。

Tバードは、米国人待望のスポーツカーだった。当時米国は、欧州駐留後の兵士軍属が持ち帰ったスポーツカーが増えて、其処ここでレースやジムカーナが流行っていた。

1958年のカリフォルニアで:日曜日飛行場に集まりレースに興じるSCCA/スポーツカークラブofアメリカの会員達。さあスタート…前列シボレーコルベットの後方にポルシェ356やジャガーXK-120が。

やがて欧州スポーツカーの輸入が増えるにつれ、愛国心強い米国スポーツカーファンにストレスが溜まりはじめた…世界一の自動車生産国なのに、自前のスポーツカーがないということなのである。

市場に需要があれば商品が生まれるのは世の常…で、1954年GMからコルベットが誕生する。そうなれば長年のライバル、フォードも黙ってはいない…で、Tバード登場ということだった。

明治神宮銀杏並木のTバードを羨望の眼で眺める日本人達。3Aナンバーで米軍兵士か軍属の車と判る

55年に登場したフォード製スポーツカーのTバードは、勿論デカかった。全長4460㎜・WB2590㎜、堂々のアメリカンらしいスポーツカーだった。

50年代の米国は、国土が戦場にならない戦勝国らしく、世界中の冨が集まったかのように裕福、乗用車はゴージャス化し、その心臓は力強さの象徴とばかりに、V型八気筒は気筒容積を増し強力に。

TバードのV8も4785ccもあり、198馬力と誇らしげだった。

そもそもV8は富の象徴、高級車のためのものだったが、1930年代初頭、フォードが大衆車に搭載して世間を驚かせ、以来V8はフォードの力強の象徴となったのである。

米国で評判のTバードは、すぐに日本にもやってきた。

外貨不足の貧乏国日本に日本人用正規輸入車はなかったが、進駐軍や外交官、第三国人が買ったのを、一握りの裕福日本人が買ったりして、日本の路上で見掛けるようになったのである。

55年=昭和30年は終戦から10年後だが、東京の街にはB29絨毯爆撃の焼け跡に、焼けトタンを拾い集めたバラック小屋が未だ散見できた時代だった。が、物品の統制令は有名無実となり、食券無しでも街の食堂で米のメシが食えるようになった頃だった。

いずれにしても、日本中が貧乏で、自動車といえばスクーターさえなかなか買えないのに「こんなデカイ車に二人しか乗れない」が、私達がTバードを初めて見た時の印象だった。

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