シーラカンスという表現はふさわしくないかも知れないが、生きているクラシックカーと云いたいのである。
平成6年だから94年だが、東京晴海クラシックカーショーに行った。初代クラウンやベレット、ジャガーXK120、ムスタング。60年代、60年代内外の懐かしい車の中に値札が付いたものもある。
そんな値札付きのモーリス・オックスフォードを見つけた。素晴らしいコンディションだが、これほどにレストアしたクラシックカーで198万円は安すぎる。(写真トップ:46年誕生のモーリス・オックスフォードが、インドで生きていた。言うなればシーラカンスだ。10年ほど前だったろう栃木佐野インター近くの中古車屋で228万円)
「レストアではなく新車です」と、係員の言葉に二度ビックリ。話を聞くと、オックスフォードではなくて、車名がヒンダスタン・アンバサダーで、なんとインド製だと云うのだ。
ガンジー、タージマハル、カレーライス、釈迦、等々我々にとりインドは身近で知識豊富のつもりで居たのだが、それではと云われると、知らないことが沢山有ると気がついた。
プロも知らなかったインドの自動車メーカーはヒンドスタン・モータース。で、製品の名がアンバサダーなのだ。が、何処から目をこらして見ても、姿は懐かしいオックスフォードである。
よく聞けば、ヒンドスタン・モータースは、WWⅡ終戦の翌46年に創立して、ノックダウン生産を始めたライセンス契約先が英モーリス社。製品がオックスフォードだったのである。
経験のない乗用車生産にあたりライセンス契約でノックダウンから始めるのはいすゞヒルマンと同じだが、いすゞは学習を終えると自社開発に移行するが、ヒンダスタンは、そのまま作り続けたのが、シーラカンス誕生の原因だった。
ちなみにイギリス本家でオックスフォードの生産終了は59年だが、WWⅡ後の新型として登場したのが46年だから、いすゞ同様スタート時点では最新鋭だったということになる。
考えれば、新車の46年型オックスフォードが、タイムスリップして私の目の前にあり、その気になれば買うことが出来る、こいつは嬉しいことだと思った。
インドのオックスフォード、いやアンバサダーがオリジナルと少し違うところは、ラジェーターグリル程度で、インテリアは昔の記憶通り。が、当時エアコンは無かったが。
さてアンバサダーの諸元は、全長4312×全幅1676×全高1600㎜、ホイールベース2446㎜。車重1100kg。エンジンは二種類。BMC開発の直四OHV、1489cc、56馬力。4MTコラムシフトと、直四、1817cc、80馬力がSOHC?と感心したら、いすゞ製で5MTフロアシフト。二種共にキャブレター仕様のまま。
前輪Wウイッシュボーン、後輪リジッドアクスル+リーフスプリングはオリジナルのまま。当然四輪ドラムブレーキ。インドではバイアスタイヤだが、日本ではラジアルを履くという。
乗ってみたら、加速は悪い、音はうるさい、と云っても今の車と比べてだから不公平きわまりないが、高い車高の広キャビンで、昔の乗り味を楽しむ、これも一興と納得した。
通常、クラシックカーを持てば道楽息子を持つのと同じだが、こいつはメインテナンスに金がかからずにクラシックが楽しめるのだから、貴重な車の発見だと思ったものである。