兄貴分に比肩する高出力ゆえ、公道でその実力を存分に発揮できないモヤモヤも
2022年10月にヨーロッパで発表され、日本でも2023年2月に受注が開始された、BMWのMシリーズの中でも最も底辺に位置するモデルが新しい『M2』。
もっとも、”底辺”とはいっても現在ではこのブランドのFRレイアウトをベースとした骨格構造は1種類しか用意をされず、すなわち事実上の兄貴分といえるM3/M4との血縁関係は、従来型の場合よりもずっと色濃いといえることもひとつの特徴だ。
実際、50㎜延長されて2745㎜となったホイールベースこそ、まだM3/M4よりも100㎜以上短いものの、ボディの全長/全幅は共に明確に拡大されて、率直なところもはや抵抗なく「コンパクト」とは形容しづらいサイズにまで成長。
4WDシャシーも用意するM3/M4に対し、後輪駆動オンリーに特化していることなどで弟分らしさ(?)をアピールしてはいるものの、フロントフード下にあるのは、やはりM3/M4系と共通する3リッターのターボ付き直列6気筒ユニットで、わずかに出力値を抑えながらそれでも最高460PSと、従来型のそれを遥かに凌駕する数値を発表する。
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ただし興味深いのは、同じ6速MT搭載のM4クーペの後輪駆動モデルと比較をした場合、M2はボディサイズが明確に小さいにも関わらず1710㎏という車両重量は同一であること。これは、車両価格ではピタリ400万円増しとなるM4の方が、その分軽量化への取り組みにもコストを掛けている、と暗にそのように読み取るべきか? いずれにしも、今度のM2はグンと兄貴分の方向へと寄り添うことになっていることが、このあたりからも読み取れるわけである。
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6速MTと8速ステップATが同一の価格で用意される新型M2だが、今回テストドライブを行ったのは後者。今や、よりきめ細かな駆動ギア比の設定でも、それに伴う動力性能の俊敏さでも、ADAS機能の充実ぶりでも、より本命と考えられるのはATの方。もちろん、それでもMTが設定される点には大きな価値があるという意見にも、大いに賛同ができるのは事実だ。
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それにしても、最高460PSのターボパワーを、後2輪のみへと伝達する新型M2の走りのテイストはなかなか鮮烈。幸いにして今回はドライ路面でのチェックになったが、これが濡れた路面であったならば、いかに優秀なトラクション/スタビリティ・コントロール機能の助けがあったとしても、なかなかスリリングなシーンの連続になりそうだ。
電子制御式の可変減衰力ダンパーを標準とする脚は、最もコンフォートよりのモードであれば、なかなかリーズナブルな乗り味…とスタート当初はそう感じられたものの、高速道路へと乗り込んでペースが高まったり、荒れた路面へと差し掛かるとちょっと跳ねるような挙動が目立ち始めるというのは、実は多くのMモデルに共通をして感じられる傾向。
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BMW M社謹製の直列6気筒ユニットは、相変わらずサウンドもフィーリングも素晴らしいものの、余りにパワフル過ぎてアクセルペダルを踏み込むと、たちまちとんでもない速度域に達してしまうために、もはやその快感を一瞬しか味わうことができないのが玉に瑕といったら贅沢に過ぎるのか。
しかし、より多くの走りのシーンでより長くゴキゲンなテイストを享受することができた、自然吸気エンジンの時代がちょっと懐かしくも思えてしまう最新のMモデルでもあったのは事実だ。
(河村 康彦)
(車両本体価格=958万円〈MT/AT同額〉)