確かな走行性能と使いやすさは、唯一無二のマルチパーパスカー
日本で”商用バン”といえば、まず思い浮かぶ姿はトヨタ・ハイエースに代表されるような、いわゆるキャブオーバー型のモデル。が、所変わってヨーロッパで目に付く商用バンといえば、乗用車の後部に四角い箱を括りつけたような”フルゴネット”と呼ばれる形態の方がむしろ今でも全盛だ。

そんなフルゴネットというタイプにカテゴライズされるモデルは、フォルクスワーゲンやフォードなど欧州の名だたるメーカーから多数送り出されているが、そうした中にあっても強い存在感を放つのがフランスの作品。特に、キャビン部分にも荷室と一体化した高さのあるボディを採用し、リヤにもスライド式ドアが与えられた1997年登場の初代モデルが大ヒットを飛ばしたのがカングーである。

ここに紹介するのは、2代目従来型からおよそ14年ぶりとなるフルモデルチェンジを受け、日本でも2023年3月に発売が開始されたばかりの3代目モデル。全長と全幅が4490×1860㎜で全高が1810㎜というボディのサイズは、従来型比で210㎜長く、30㎜広く、高さは同一という関係。一方、5.6mという最小回転半径が従来型の0.2m増しに留まったのは、前述のように大幅に増加した全長に対してホイールベースの延長は15㎜でしかないこととの関係が大きそう。



それでも、かつてのモデルが5.1mや5.2mといったデータを叩き出し、びっくりするほど小回りが効いたことを知る人からは、それなりに不満の声が挙がる可能性も考えられるもの。前2代のモデルに対してどこかキュートさを失った顔つきに対しても、同様の嘆き声が聞かれるかも知れない。
しかし、そんな新型カングーの驚きのポイントは意外なことに、そのフットワークのテイストが商用車ベースとは信じられないほどに上質なことだった。”空荷”の状態でも全く跳ねることはないし、高速クルージング時のフラット感の高さはまさに驚くべき水準。1.8mを超える全高にも拘わらず、コーナリング時に過大なロール感に見舞われることが無いのも特筆もの。ただし、横風には弱いことを発見してしまったのは、たまたま試乗の最中に強風が吹き始めたという運の悪さを恨むべきだろうか…。

特別に黄色いボディカラーが用意をされたり、乗用モデルには本来組み合わせのない黒色バンパーが設定されたりと、日本仕様に対して他のマーケット向けには見られない手厚い配慮が行われているのは、”カングージャンボリー”の名で知られる大規模なファンミーティングが定着しているなどと、もはやフランス本社にも一目を置かれる日本独自の”カングー文化”が芽生えているからこそ。

共にターボチャージャーを備える1.5リッターのディーゼルもしくは1.3リッターのガソリン4気筒エンジンは、いずれも必要にして十分な動力性能を提供してくれる存在だった。リヤの観音開きゲートからドカンと大量の荷物を積めて、どこまでも走って行きたくなる驚きのフットワークを備えた新型カングーは、やはり唯一無二のマルチパーパスカーと言えそうな内容の持ち主だ。
(河村 康彦)
(車両本体価格*:〈ガソリン〉384万円~400万5000円〈ディーゼル〉419万円~424万5000円 *受注生産車、特別仕様車を含む)