昨年12月にフルモデルチェンジしたダイハツの軽1BOX・アトレー。先代は2005年の発売だから、実に16年ぶりの一新となった。
新型も軽1BOXのスタイルはそのままだが、コンセプトが大きく変わったのが注目されるところだ。先代は、家族で過ごす時間を大切にするお父さんをターゲットに「家族みんなで楽しく使えるプレジャーサポーター」をコンセプトに登場し、キャッチコピーは「家族でヨロシク、あそボックス!」。これに対して新型のコンセプトは「使い尽くせるマルチBOX」。家、職場に次ぐ自分だけの「第三の居場所」を目指して進化したという。つまり一人で過ごすためのクルマである。結果として広々した後席は不要になったので、その分を荷室スペースの拡大に使うべく、5ナンバーの乗用車から4ナンバーの商用車に変更された。家族みんなで移動するためのクルマから、趣味や仕事に使える自分だけの専用スペースになったというわけで、時代の変化を感じさせるとともに、ある意味、とても贅沢なクルマといえるかもしれない。
ベースは同時にフルモデルチェンジした軽商用車のハイゼットカーゴで、これは先代までと同様。大きな違いは後席スペースで、大まかに言うと、後席を後方に下げて乗用ナンバーにしたのが先代までのアトレーで、ハイゼットカーゴのままにしたのが新型アトレーとなる。そして新型アトレーは、これに充実した快適装備や専用デザインを採用し、乗用車ライクに仕立てたものといえる。
ハードウェアとしての特徴は、まず骨格となるプラットフォームから一新されたこと。新開発のDNGAプラットフォームが商用車では初めて採用され、トランスミッションにはこれも新開発となるFR用CVTを搭載。試乗車は4WD車だったが、この4WDシステムもクラス初となる電子制御式4WDが採用されている。ハイゼットカーゴはNAエンジンや5MTモデルも設定されているが、アトレーは全車ターボエンジン+CVTの組み合わせ。駆動方式は2WD(FR)と4WDを選択できる。
試乗車は上級のRSグレードで4WD。今回は一般道から高速道路まで走ってみたが、走行性能、乗り心地とも不満のない仕上がりだ。試乗時は2人乗車だったが、発進から巡行域に至るまでパワー、トルクともに余裕があり、少し急な坂道や高速道路での合流も楽にこなせる。アクセルの踏み始めから滑らかに加速してくれるので、気を遣うこともストレスを感じることもない。
また、乗り心地も良好。足回りもしなやかで連続する細かな段差を超えてもショックは気にならず、この点でも不満のないレベルだ。ステアリングの感覚はソフトで、軽い操舵感も手伝って積極的にドライビングを楽しむタイプではないが、軽1BOXとしては上々。信号などで減速すると、かなり早めにエンジンをカットするアイドリングストップの制御には違和感がないわけではないが、これも慣れれば問題がないレベルである。
ただし、走行中の音はそれなりに大きく、ここはやはり乗用車との違い、あるいはキャブオーバーレイアウトの軽1BOXならではの難しさを感じる部分。フロントシート下にエンジンを搭載するので、この点では不利である。急加速時のエンジン音は大きく、また巡行時も路面からのノイズが大き目に室内に侵入する。といっても、これはあくまでも乗用車と比較した場合の話。軽1BOXとしてはかなり頑張っており、軽1BOXから乗り換えるユーザーなら静かになったと感じるだろう。
後席シートは畳んだ時が本領発揮
乗用ナンバーだった先代アトレーは、後席の居住性も重視し、厚みのあるシートやスライド機構も備えていたが、新型では後席居住性は必要最小限にし、折りたたんだ時にフラットかつ広大な床面となることを優先。このため後席は板のような硬く平板なシートになりスライド機構も廃止。実際に座ってみても後席のスペースは狭く、快適とは言い難い。特に足元は床下エンジンの張り出しがあって足を前に伸ばせないのが辛い。つまり後席は折りたたんだ時が本領発揮というわけだ。
したがって、ファミリーで使うのにはあまり適さない。助手席スペースも狭いから、2名以上で快適に移動したいというのならタントを選んだ方がいい。というよりも、タントがあるからこそ、新型アトレーは思い切った割り切りが出来た、ともいえるだろう。実質2人乗り、快適に使うなら1人で乗りたいクルマである。ボディタイプとしてはスズキ・エブリイが競合するが、実際の使い方としてはホンダN-VANが一番近い。
装備面は、先進安全装備も含めて充実。ウェルカムオープン機能付きの両側パワースライドドアやオートエアコンも装備、試乗車にはオプションのデジタルインナーミラーも装着されており、軽商用車とは思えないほど。全車速追従のACCやレーンキープ機能の制御も優秀で、スムーズに自然な感覚で走行することができる。
室内の収納も充実。合計17のユースフルナットを備えており、荷物や用途に合わせて多彩な使い方が出来るのはもちろん、フラットな床面を活かして長尺物を含めて大量の荷物を簡単に積み込むことが出来るのはいうまでもない。前席の頭上にはオーバーヘッドシェルフも備えているので、機能的に使うことが可能。もちろん車中泊にも最適だ。自分仕様のカスタマイズを想像するだけでワクワクする、楽しく便利なクルマである。(鞍智誉章)