文・写真:岩田 一成(キャンピングカーライフ研究家)
プライベート空間ごと移動可能
新型コロナの影響もあり、「完全なプライベート空間」ごと移動できるキャンピングカーの優位性に注目が集まっている。クルマでありながら、車内に生活用の装備まで備わったキャンピングカーは、まさに「動く家」。どんな場所でもプライベート空間を確保できるキャンピングカーのアドバンテージを生かせば、レジャーからホビー、ビジネス、防災まで、あらゆる用途でマルチに活用できる。
「車内で快適に生活できるクルマ」という普通車とは一線を画す優位性を実現するため、キャンピングカーには様々な装備が搭載されている。その筆頭が、「就寝設備」。普通車でもフルフラットにできるクルマはあるが、シートと兼用するため凹凸ができてしまい、就寝スペースとしては不完全なケースが多い。
対してキャンピングカーの就寝設備は「寝る」ことに特化しているため、表面に凹凸のない完全なフラット状態で、ゆったりと就寝できるようベッドのサイズやクッション性にまでこだわっている。「快適に眠れるベッドが装備されていること」。それが、キャンピングカーならではの大きな魅力のひとつだ。
快適空間を実現する装備の数々
キャンピングカーの車内生活の中心になるのは、ダイネットと呼ばれる生活空間。テーブルをシートで囲む構造になっており、食事や休憩、デスクワークまでマルチに使える便利なスペースだ。「炊事設備」が完備されているのも、「動く家」であるキャンピングカーならではの特徴。キッチンで自炊できるほか、給排水設備を備えたシンクで手洗いや洗顔、歯ブラシもOK。トイレやシャワールームを完備した車両なら、車内で生活のすべてを完結することも可能だ。
キャンピングカーの心臓部とも言える「生活電源」システムは、快適な生活の要。キャンピングカーには、エンジンを止めた状態でも車内で電気が使えるように、ベース車両のバッテリーとは別に生活用のサブバッテリーが搭載されており、使った分の電気は走行充電やソーラー充電、外部充電で補うシステムとなっている。近年では、バッテリーの大容量化や高性能リチウムイオンバッテリーの採用、ソーラーパネルの大出力化などが進み、より安心して長時間電気を使えるように進化を続けている。
1年を通して様々な用途で活用されるキャンピングカーでは、「空調設備」も大切な要素だ。車内の空気をクリーンに保ちながら暖めてくれる燃焼式のFFヒーターは、冬のキャンピングカーライフを支える暖房器具の定番。近年では、夏の暑さを克服するために、サブバッテリーの大容量化と併せて、家庭用エアコンを搭載する手法もスタンダードになっている。
様々な設備で、快適なプライベート空間を実現したキャンピングカー。どう使うか、どう遊ぶか、乗り手のライフスタイル次第で使い方の可能性は無限大だ。
冬こそ遊びのオンシーズン
一般的な感覚だと冬はレジャーや観光のオフシーズンだが、キャンピングカーにとっては冬こそがオンシーズン。FFヒーターがあれば、外は雪が降りしきる氷点下でも、車内はTシャツで過ごせるほどポカポカになる。その利点を活かせば、普通車ではできないような楽しみ方も可能だ。
冬遊びの定番は、やはりキャンプ。空前のキャンプブームでオンシーズンは予約を取ることも難しいほどの混雑ぶりだが、冬キャンプならそんな喧騒とは一切無縁。焚き火で暖をとりながら暖かいキャンプ料理に舌鼓を打ち、人の少ない静かなフィールドでキャンプ本来の醍醐味を味わえる。夏場と違って虫もほとんどいないので、防寒対策だけ気をつければあとは快適そのものだ。
アウトドア上級者のみに許される究極の遊び方「雪中キャンプ」も、キャンピングカーがあれば安心・快適。キャンプ道具を使って屋外にリビングスペースと就寝スペースを作るには知識と経験が必要だが、FFヒーターを搭載したキャンピングカーを生活の中心にすれば、初心者でもコテージに泊まるような感覚で雪中キャンプを楽しめる。
スキーやスノーボードなどのウインタースポーツも、キャンピングカーの冬遊びの定番だ。シーズン券を購入して毎週末にゲレンデ通いするようなヘビーユーザーの中には、「スキー&スノボのためにキャンピングカーを購入した」という人もいるほど。スキー場の駐車場に止めたキャンピングカーをベース基地にして、車内を着替え、食事、休憩、就寝のスペースにすることで、思う存分ウインタースポーツを満喫できる。
移動オフィスとしてビジネスに活用
ビジネスにも活用できるキャンピングカーの多様性に対して、今までキャンピングカーに縁のなかったユーザー層からも注目が集まっている。とくに、コロナ禍でテレワークが推進されるようになって以降、「キャンピングカーのビジネスユース」に対するニーズは高まる一方だ。
車内で快適に生活できるキャンピングカーは、「移動オフィス」としても十分な役割を果たす。ノートパソコンや小型プリンター、モバイルWi-Fiルーターを持ち込めば、アッという間に車内が快適なワークスペースに早変わり。ダイネットシートに腰かけ、テーブルにノートパソコンを置いて、窓から景色を眺めながらデスクワークにいそしむ。
サブバッテリーで電気も使えて、冷蔵庫でドリンクも保管できる。お腹がすいたらキッチンで自炊をして、疲れたらベッドで横になって仮眠をとる。景色のいい場所にキャンピングカーを止めれば、そこは自分専用の快適なオフィスだ。
万が一の防災に対する備えとして
レジャー以外の使い方として、防災シェルターとしての活用法にも注目が集まっている。万が一の災害時、避難所ではプライベートが確保できずにストレスがたまることが問題視されているが、キャンピングカーを避難所として活用すればそうした不安とは無縁だ。
キャンピングカーの車内には、家族がゆったり就寝できるだけのベッドスペースがあり、エンジンをかけずに電気を使えるサブバッテリーシステムもある。常に燃料を満タンにして、車内に水や食糧を備蓄しておくことで、万が一の災害時にも対応でき、普段からレジャーとして行っているキャンピングカーでの生活も、いざという時の訓練になる。
実際に、東日本大震災で被災したバンコンユーザーから「ペットを多頭飼いしているので避難所に入れず、しばらくペットと車内で避難生活を送った。冬だったので、FFヒーターのあるキャンピングカーがなければ、ペットは全滅していたかもしれない」という話を聞いたことがあるし、「東日本大震災の後に、災害時の避難スペースとして使えることを想定してキャンピングカーを購入した」というオーナーも多い。
普段は「キャンピングカー」としてクルマ旅やキャンプ、ホビー、ビジネスにフル活用し、万が一の災害時には「防災シェルター」として使用する。その多様性こそが、キャンピングカーの最大の魅力なのだ。
プロフィール
岩田 一成(キャンピングカーライフ研究家/ライター/HOT MIND代表)
1971年東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業・ 8年間の出版社勤務を経て2003年3月に独立。同年4月より、編集工房『HOT MIND』代表として編集業務の請負を開始。ライター・エディターとして、自動車専門誌を中心に様々なジャンルの雑誌・ムック製作に携わる。取材・インタビュー経験は3000件以上。座右の銘は、『商人ではなく、常に最前線に立つ職人であれ!』。