文・写真:岩田 一成(キャンピングカーライフ研究家)
快適な生活に欠かせない「電気」
「家と同じように電気を使いたい」「エアコンを長時間稼働したい」といったニーズの高まりを受け、ここ数年キャンピングカーの生活電源システムが大きな進化を遂げている。エンジンを停止した状態で使用できるこの「生活電源」は、キャンピングカーの快適性を左右する重要な要素だ。家での生活がそうであるように、「クルマ」と「家」を兼ね備えたキャンピングカーにおいても、快適な生活を送るためには電気が欠かせない。
キャンピングカーの車内には、照明、冷蔵庫、FFヒーター、テレビ、電子レンジなどが完備されており、駐車中に使用できるエアコンを備えたモデルも増えている。夜には車内の照明を点け、飲み物や食材は冷蔵庫で保管。テレビを見ながらゆったりと過ごし、暑い日、寒い日はヒーターやエアコンを活用する。車内のコンセントで、スマホやパソコンの充電や家電の使用も可能だ。
キャンプやクルマ旅において、「車内で電気が使える」ことのメリットは想像以上に大きい。万が一の災害時にキャンピングカーを避難用シェルターとして活用できるのも、電気が使えればこそだ。では、キャンピングカーの「生活電源」は、どのような構造になっているのか?
車内で電気が使えることを不思議に思う人も少なくないようで、「電気を使うときは、エンジンをかけたまま?」といった疑問もよく耳にする。
本記事では、キャンピングカーに興味はあるが詳しいことはわからないという初心者に向けて、キャンピングカーの「生活電源」の構造や進化について解説する。
サブバッテリーで車内の電気をまかなう
自動車には、エンジンの始動や灯火類の点灯、エアコン、オーディオなどを稼働するためのバッテリーが搭載されている。キャンピングカーには、それに加えて、車内での生活に必要な電気をまかなうバッテリーが搭載されており、自動車にもともと搭載されているバッテリーを「メインバッテリー」、生活電源として追加されたバッテリーを「サブバッテリー」と呼称する。
メインバッテリーが自動車の走行に必要な電気をまかなうのに対し、車内で生活する際に必要な電気はすべてサブバッテリーでまかなわれるため、エンジンを止めた状態でも電気を使うことができる。居住空間の照明や冷蔵庫、テレビ、電子レンジなどは、すべてサブバッテリーから電気が供給され、DC12VからAC100Vに変換するインバーターを介せば、車内のコンセントで家電の使用も可能だ。
もちろん、サブバッテリーの容量には限りがあり、電気を使用すればバッテリーの容量は減るが、駐車中はメインバッテリーとサブバッテリーが切り離されているため、万が一サブバッテリーを使い切ってもクルマのエンジンがかからなくなることはない。
3つの充電で使った分の電気を補填
自動車に搭載されているメインバッテリーは、走行中にオルタネーターで発電した電気を使って充電されるが、サブバッテリーの充電はどうなっているのか?
通常キャンピングカーのサブバッテリーには、3パターンの充電システムが組み込まれている。
1つ目は、メインバッテリーと同様にクルマを走行することで充電する「走行充電システム」だ。駐車中に車内で電気を使用してサブバッテリーの容量が減っても、走行すれば使った分の電気は充電されるので、停泊と走行を繰り返すことで、サブバッテリーの容量が底を尽くことなく電気を使用できる。
2つ目は、外部電源コネクターと家庭用コンセントを接続してバッテリーを充電する「外部充電システム」だ。使い方は、付属のコードの一方を車外のコネクターに接続し、もう一方をAC100Vコンセントに差し込むだけ。外部電源を接続すれば、車内のコンセントで家と同じように電気を使用することができ、同時にサブバッテリーも充電される。RVパークやオートキャンプ場など、ACコンセントが使用できる施設を利用すれば、長期滞在でもサブバッテリーの容量を気にせずに快適な生活を送ることが可能だ。
3つ目は、ソーラーパネルで発電した電気を、チャージコントローラーを介してサブバッテリーに充電する「ソーラー充電システム」。滞在中に使用した分の電気をソーラー充電で補うことができるのはもちろん、月極駐車場など外部充電ができない場所にキャンピングカーを保管している場合でも、常にサブバッテリーを満充電にしてくれる。
このように、キャンピングカーのサブバッテリーには3種類の充電システムが組み合わされている。これらの充電システムを効果的に組み合わせることで、限りあるサブバッテリーの容量を最大限に使えるように工夫されているのだ。
進化を続ける生活電源システム
「サブバッテリーでエアコンを稼働したい」「サブバッテリーで消費電力の大きい家電を使いたい」というニーズの高まりと共に、キャンピングカーのサブバッテリーシステムは大きな進化を続けている。
使用できる電気の容量を増やすため、シングル仕様が標準だったサブバッテリーは、ツイン仕様、トリプル仕様となり、一昔前までは80~120W程度だったソーラー充電システムも200~400Wがスタンダードとなった。中には、ソーラーパネルの電気だけで家庭用エアコンを稼働できる、1000W前後の大出力ソーラー充電システムを搭載したモデルもある。
最近では、軽量・高効率・長寿命などの利点を持つリチウムイオンバッテリーを採用する動きも加速し、各社が独自の技術を駆使して安全かつ大容量のサブバッテリーシステムを追求している。信頼性の高い既存の鉛バッテリーにも、リチウムイオンバッテリーに匹敵する高寿命と高効率を実現した製品が登場するなど、バッテリー自体の進化も加速中だ。
サブバッテリーの大容量化、ソーラーパネルの大出力化、リチウムイオンバッテリーの台頭に加え、最近では市販のポータブル電源をサブバッテリーの補助や生活電源として活用する新たな動きも。キャンピングカーの電気事情は、今後さらなる進化を遂げていくこと必至だ。
プロフィール
岩田 一成(キャンピングカーライフ研究家/ライター/HOT MIND代表)
1971年東京都生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業・ 8年間の出版社勤務を経て2003年3月に独立。同年4月より、編集工房『HOT MIND』代表として編集業務の請負を開始。ライター・エディターとして、自動車専門誌を中心に様々なジャンルの雑誌・ムック製作に携わる。取材・インタビュー経験は3000件以上。座右の銘は、『商人ではなく、常に最前線に立つ職人であれ!』。