水戸インターを降りて、茂木のレース場に行く途中に長いこと放置してある英車がひと塊。少し離れた小屋でレストアしているようだが、仕事の片手間らしく、捗ってはいないようだ。

ボーグは日本のスタンザ/オースター/バイオレットなどと同様、三つ児である。とうとうルーツまでもが、と思ったものだが、ヒルマン・スーパーミンクス/ハンバー・セプター、そしてシンガー・ボーグと云う、三つ児なのである。
この商法は、販売チャネル毎に別名をいうのだが、店が変わればサギがカラスになるというのは如何なものか。いずれにしても1963年頃にデビューしたものだが、WB2565㎜のヒルマンと同じボディーに、直四OHV・1592cc搭載で登場した。
この三つ児、表向きは新型登場ということだが、裏を返せば、とどのつまり厳しくなる経営での合理化で、ユーザーの中にはソッポを向いた人も出ていたのは事実である。
もっとも、この双子や三つ児政策は、ルーツだけではなく、日本のように発展途上で増える販売チャネルに対しての対策ということでもあるが、いずれにしても、心ある人は納得いかなかったろう。
さて、この三つ児、ヒルマンとシンガーは、顔とお尻の姿が違うだけで、ほぼ諸元は同じだが、伝統的に前の2ブランドより高級ブランドだということで、同じエンジンでも圧縮比を8.3から9.1に上げ、キャブレターを二連装にして58馬力から82馬力と強力になったエンジン搭載で、スポーティーイメージを出し区別している。
で、最高速度もヒルマン&シンガーの130㎞から139㎞へと上昇しているし、内装も上等な仕上げになっていた。
日本では伊藤忠自動車が輸入販売権を持っていたが、当時の広告で見ると、その値付けはシンガーボーグ139万円、ハンバーホークは167万円とかなりな差を付けている。あいにくとヒルマン・スーパーミンクスの日本価格が手元にないが、英国での価格を見ると、ヒルマン615ポンド、シンガー685ポンド、ハンバー825ポンドが、それぞれの価格だった。
伊藤忠から借用して試乗したことがあるが、何の特徴もなく、変にアメリカナイズされたスタイリング、そして高性能でもなく魅力を感じる車ではなかった。ただシンガーが好きというユーザー、ブランド支持者向けの車という感じだった。

20世紀半ばまで、老舗ブランドがひしめき自動車輸出大国だった英国のRRやベントレイ、ジャガーなどの工場は稼働しているが、母体はドイツや中国や印度になり、淋しい限りで老自動車マニアとしては残念きわまりないのである。
車屋四六:1960年頃よりモーターマガジン誌で執筆開始。若年時代は試乗記、近頃は昔の車や飛行機など古道具屋的支離滅裂記事の作者。車、飛行機、その他諸々古い写真と資料多数あり。趣味はゴルフと時計。<資格>元JAFスポーツ資格審査委員・公認審判員計時一級・A級ライセンス・自家用操縦士・小型船舶一級・潜水士等。著書「進駐軍時代と車たち」「懐かしの車アルバム」等々。