文・写真:編集部
東京都の東隣り、千葉県はいろいろな風景が見られる。幕張新都心等の高層ビル群や多くの人々が暮らすニュータウン、一転して山あいに田んぼや畑が広がる“日本の原風景”といえる里山、そして内房・外房の街には潮の匂いがある。
中でも、外洋(太平洋)と内海(東京湾)に囲まれた房総半島部は、どことなく懐かしくほっとできる里山の風景にあふれ、山と海の自然に触れ合える。
特に、東京湾アクアラインが開通してからは、房総半島との距離と時間が一気に縮まり、クルマで都心から1時間半も走れば房総半島の中央部へ。目の前に広がる景色の激変に、人間が追いつけない感すらある。
その房総半島に絶景を求め、クルマを東京湾アクアラインに向けた。
目次
・ 養老渓谷滝めぐり マイナスイオンに包まれ自然が作り出した絶景をめでる
・ 鋸山 足がすくむ地獄のぞきと、伊豆大島や富士山も望む絶景
・ ご当地ランチ 「ザ・フィッシュ」 オーシャンビューで名物のアジを心ゆくまで
・ 旅グルマ紹介 マツダ・Mazda2
養老渓谷滝めぐり
マイナスイオンに包まれ自然が作り出した絶景をめでる
外房に近い大多喜町にある麻綿原(まめんばら)高原を水源に持ち、蛇行しながら北上し高滝湖~高滝ダムを経て市原市・五井海岸で東京湾に注ぐ養老川。水源に近い大多喜町には侵食により、川の流れが深く刻まれた“養老渓谷”があり周囲の木々の変化に合わせ、紅葉や新緑といった美しい景色を作り出している。
また、渓谷周辺には長い歳月と水の流れが作り出した自然の造形が点在し、悠久の大自然が作り出した絶景がある。その一つが水月寺周辺の滝めぐりだ。水月寺周辺の民間駐車場(普通車500円/1回)にクルマを停め、養老川沿いの遊歩道を進みながらいくつかの滝をめで、県道を徒歩で駐車場に戻るもの。1時間強で周遊できる。
駐車場から案内看板をたどるうちに道の傾斜が増し、それまで聞こえなかった水の音が耳に届くようになる。最終的には階段を下り川岸へ。養老川の流れの左右は深く切り立った崖に囲まれ、駐車場周辺の“地上”とは明らかに違う景色。いくつもの滝の水煙から生まれたマイナスイオンが深い渓谷の底に充満しているのか、遊歩道を進むうちに自然と気持ちが穏やかになっていく。
訪れる前日までが雨だったせいか、崖の各所から水が滲み出し、はじける水滴が日差しを受けてきらめいている。また、周囲の切り立った崖も壮観。幾重にも色の異なる岩盤が重なる地層が露出し、大地の歴史も垣間見られる(話題の千葉ニアンはこの川のさらに下流に)。
幻の滝(私有地、遊歩道沿いではない)から始まり昇竜の滝、見返りの滝、萬代の滝、千代の滝と緩やかに蛇行する川に沿って約2㎞を進むと、目前に最も大きい粟又(あわまた)の滝が現れる。これまでの滝が養老川に“注ぎ込む”流れであるのに対し、この粟又の滝は養老川の流れに落差をつけるもので、滝の流れは垂直に落下するというより、幅が広い巨大な斜面を滑り落ちるようでダイナミックなもの。一方で、滝壺周辺は広くなっており、岸に近ければ流れも穏やかで子供が水遊びを楽しむこともできる。
この粟又の滝の周辺、県道沿いにも民間の駐車場があり、ここにクルマを停めて水月寺方向へ滝めぐりをすることもできる。遊歩道はコンクリート造りで平坦だが、昨年の台風の影響か所々浸水している箇所もあり、しっかりとしたトレッキングシューズを持参した方がいいだろう。また、県道沿いには粟又の滝を一望できる展望台もあり、階段の上り下りが困難という方にはこちらがおすすめ。
鋸山(のこぎりやま)
足がすくむ地獄のぞきと、はるか伊豆大島や富士山も望む絶景
内房の国道127号線で金谷港(東京湾フェリーの発着港)を過ぎ、さらに南へと進むと山並みが海岸線に覆いかぶさるようにせり出してくる。そこが鋸山だ。山全体が開山約1300年前(西暦725年)という古刹、乾坤山日本寺(けんこんざんにほんじ、曹洞宗)の境内になっている。
クルマでのアクセスは、鋸山観光自動車道(無料)もあるが鋸山自動車道(有料)が便利。山頂と中腹の2カ所ある駐車場を使い分け、山頂展望台や地獄のぞき、日本一の大仏さまを巡ることができる。
展望台と地獄のぞき
山頂の駐車場で拝観料を納め、ひたすら石段を登る。頂上の手前、視界がひらけると垂直に切り立つ崖が見える。自然が作り出した造形というより、明らかに人工的に作られたもの。ここは江戸時代から昭和60年まで石切場だったという。さらに息を切らせて石段を上ると頂上の展望台だ。
展望台からの眺めは、ここまで石段を登ってきた疲れを一瞬で忘れされてくれる絶景だ。眼下には館山自動車道、東京湾に防波堤のように突き出した富津岬、金谷港に発着するフェリー、その行き先である三浦半島の久里浜港と横須賀方面、三浦半島の先端も見え、その奥には丹沢山系と富士山。伊豆大島の島影も見える。山から海まで一望でき、変化に富む絶景は飽きることない。
展望台のすぐ下、石切り場跡の切り立った壁面の最上部に少し前方に突き出た部分があり、その先端から石切場の跡を見下ろせるようになっている。ここが地獄のぞきだ。前方に突き出た分、まるで自分自身が宙に浮いていて遥か下界を眺めるような“格別な”気分。頑丈な手すりに囲まれているとはいえ実にスリリングだ。
百尺観音
展望台の下、石切場の跡の切り立った壁面のくぼみに観音さまが彫られている。昭和35年から6年の歳月をかけ彫刻され、昭和41年に完成した観音さまは世界中の戦争戦死病没殉難者供養のために、また、建立当時から激増した東京湾周辺の航海、航空、陸上交通犠牲者の供養のために建立されたという。
百尺=約30mという大きさはまさに圧巻。しかも、垂直と水平で構成されるいわば無機的な石切場の跡の中に、ゆるやかな曲線で柔和な表情を持つ観音さまとのギャップに驚かされた。
大仏さま
クルマで自動車道を少し下り大仏口の駐車場へ。徒歩5分程度で大仏広場へ。日本一大きな大仏さまに会える。大仏さまは、正しくは薬師瑠璃光如来といいこの像は宇宙全体が浄土であることを表している。薬師瑠璃光如来は人々を病苦から救う医薬の仏様であり、右手には薬の壺を持つのが特長でもある。
建立は江戸時代の後期、天明3(1783)年に28人で3年を費やし彫刻されたという(現在とほぼ同寸)。江戸時代末期に自然の風食により著しい崩壊があり、1966(昭和41)年の復元工事開始まで荒廃に任せていたという。復元された大仏さまは総高31.05m(奈良東大寺の大仏さまが総高18.18m、鎌倉高徳院〈長谷〉の大仏さまが同13.35m)で日本一の偉容を誇る。
また、大仏広場の一角には、お願い地蔵尊があり、様々な願いがかなえられるとあがめられ、お願いする人が氏名を書いた小さなお地蔵さまが無数に奉納されている。
ロープウェイでのアクセスも可能
日本寺への参拝(鋸山登山)には、ここで回紹介した鋸山自動車道(有料)利用の他、ロープウェイでのアクセスも可能だ。山麓駅から山頂駅まで東京湾などを一望できる約4分の“空中散歩”が楽しめる。山頂駅からだと地獄のぞきへは往復徒歩40分、大仏さまへが同90分となっている。山麓駅前には無料の駐車場も用意されている。
なお、参道の石段の中には天然の岩を積み上げられたものもあり、訪れるならトレッキングシューズに履き替えたほうがいいだろう。また、昨年の台風の影響で参道の一部が通行不可となっており、山頂周辺は拝観できない部分もある(2020年3月末時点)。日本寺HPで最新状況の確認を。