経営不振でBMWに身売り、BMWはミニを残しランドローバーをフォードに売却、買い手がないローバー部門を英国投資家がわずか20ポンドで買った話しもそろそろカビが生え始めた。
そもそもローバーは1904年/明治34年誕生という英国の老舗だが、斬新メカの先取り、また高級車造りも上手な会社だった。
WWⅡ後に陸軍の要望で開発したランドローバーの上質精密な仕上がりは、米軍のジープとは一味違っていた。
私がローバーの現物を見たのはWWⅡ後のことだが、そのどっしりとした重厚感、貫禄に感心したら「スモールロールスロイス」だと自慢したのは、持ち主の英軍将校だった。
昭和30年代、私の給油&修理工場の客に、1953年型ローバー75型で来る先輩野中重雄がいた。戦後の映画全盛期、主に欧州映画を輸入する{映配}の宣伝部長だった。
75型は、米車の影響を受けたフラッシュサイドながら英車の伝統的姿雰囲気が混然一体となった貫禄の持ち主だった。外装の渋いモスグリーンに合わせたシートとドア内張の革、床も緑の絨毯、天井も緑の純毛と徹底したコーディネイトぶりだった。
そしてインパネや窓枠は、職人技が冴える木製だった。
全長4580㎜、全幅1670㎜、車重1447kg。前輪トーションバー型ウイッシュボーン、後輪リーフリジッドアクスル。タイヤ600-15-3P、燃料搭載52ℓという諸元である。
実に静かに廻る直列六気筒は特殊構造で、ロールスロイスと同じ型式のF型ヘッドの持ち主だった。その特徴は、吸気側がOHVで、排気側がサイドバルブという変わり種である。
その2103ccは圧縮比7.2で4000回転時に75馬力。
キビキビと走るのが好きな人には向かない車だったが、キャデラックさえきしむ日本の悪路で、ビクともしない車体剛性で走る重厚感は、まさに英国高級車が備えるおもむきの持ち主だった。
下から覗くと見える頑丈な格子型フレームで強剛性を得ているようで、さぞかし重かろうという心配は、ボンネットやドア、トランクリッドをアルミで造るという、金のかかる手段で解決していた。
高い着座で視界良好は、見切りの良いハンドリングを生み助かるが、重いステアリングと効かないブレーキには閉口した。
すこぶる気に入ったのが、フリーホイールシステムだった。
こいつは、発進時を除けばクラッチを踏む必要なく、何時でもギアシフトが出来る便利な装置で、ずぼらな運転が楽しめた。
原理は、踏んでるアクセルから足を上げるとクラッチが切れ、その間にシフトする仕掛けで、馴れると便利で楽だった。
野中さんのは75型だったが、私も65型を買ったことがあるが、廉価版らしく四気筒で顔は三つ目玉、75型は二つ目だった。
75の整備中にカムシャフトが二本あるのに気が付いた。四気筒分と二気筒分?…四気筒分は65型ばかりでなくランドローバーなどと共用することで、コスト低減の一手段だったのである。