1964年に初代モデルがローンチされて以来、間もなく60年と異例な長寿を誇るのがポルシェ911。
そんなこのスポーツカーが凄いのは、そうした歴史と伝統に頼るだけでなく、現在でも一級の内容の持ち主と世界に認められていること。誕生以来、猫背型ボディの後端低い位置に水平対向6気筒デザインのエンジンを搭載するという特徴こそ不変。しかし採用するハードウェアには常に改良が重ねられ、時に「迎合」と取られるほどに同じ時代を過ごしてきた多数のユーザーの声を受け入れることで、前述の評価を勝ち取って来たのがこのモデルでもあるのだ。

誕生以来、フラット6&RRのスタイリングは不変
今回紹介するのはそんな911シリーズに2022年に加えられた、最新バージョンである「カレラT」。「T」の文字はツーリングを表すというこのモデルの特徴を、ポルシェでは「既存のカレラとカレラSグレードの中間に位置する、ピュアで爽快なドライビングプレジャーを凝縮した一台」と表現する。

アゲートグレーのリア用ロゴは「911 Carrera T」または「911」のいずれかを選べる
まずはリアシートや遮音材の削減、軽量ガラスや軽量バッテリーの採用などで軽量化を実現。さらに、スポーツサスペンションやスポーツクロノパッケージ、LSDを備えたトルクベクタリング機構など他グレードではオプション設定となるスポーティな装備を標準化したことで、前述したドライビングプレジャーの獲得へと挑んだモデルであるわけだ。

軽量化による2シーター仕様
7速MTモデルでテストドライブ
DCTにMTと2タイプのトランスミッションを用意するが、テストドライブを行ったのは後者。そんなMTは7速仕様で、クルージング用として設定された第7速には操作の煩雑さを避けるべく、5速もしくは6速からのみシフトアップが可能な機構が内蔵される。

テストドライブは7速MTをチョイス
テスト車にはリアアクスルステアリングやフロントのリフトシステムなど、せっかくの軽量化を打ち消しかねない(?)オプションも加えられてはいたものの、それでもスタートの瞬間から力強さは文句ナシ。ミートポイントの分かりやすいクラッチや節度が明確なシフト、そしてターボ付きであることが信じられないほどにアイドリング付近からトルクが豊かで回転の伸びがリニアなエンジン特性などが相まり、「PDK」と呼ばれる8速DCTの出来の良さを知った上でもあえてMT仕様を選びたくなる気持ちが理解を出来る。

ダッシュボードにモードスイッチとストップウォッチを搭載したスポーツクロノパッケージ
911フリーク納得のフラット6サウンド
前述の計量化が図られたゆえに様々な音の進入レベルは確かにやや大き目。が、その中で不快なロードノイズはしっかり抑えられているので、耳に届く“音色”はむしろ911フリークにとって歓迎出来る類のものと受け取れそう。アクセルを深く踏み込めば、最高385psというパワーによって文句ナシの速さがさく裂する一方で、エンジン回転の高まりと共にフラット6サウンドを奏でつつリニアにパワー感が盛り上がる過程では、自然吸気エンジンと同等の扱いやすさが感じられるのも嬉しいポイントだ。

リアに搭載される水平対向6気筒ツインターボエンジン
駆動輪の後輪には荷重がタップリと掛かり、2輪駆動ながら際立つトラクション能力が得られるのはRRレイアウトの持ち主ならでは。一方、それゆえに後輪側が圧倒的に重くなる前後の重量バランスを持ちながら、穏やかで洗練されたコーナリングの感覚が味わえるのは、長年に渡ってこの難しいバランスの持ち主を“手なづけて”来たポルシェ技術陣の勝利とも受け取れる部分だ。

横方向のサポート力を向上させたスポーツシートプラス
もっとも、そんな911も今ではベース仕様の価格が1600万円超からといつしか殆どスーパーカー価格。かつては“5ナンバー・サイズ”だったボディもグンと大きくなって、名前は同じでも60年という歳月に隔世の感を抱かされることになるのである。

オプションの20/21インチRSスパイダーデザインホイールを装着
(河村 康彦)
(車両本体価格:1757万円〜)