リムジンのアフターキャビン

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30年ほど前にアメリカ人ジャーナリストが「若者は成功して運転手付キャデラックのリムジンに乗るのが夢」と言った。別の話で「成功してロールス・ロイス(RR)を買うのが夢」だが、古いのが自慢?だという。 愛車RRの年式が裕福になった年だから「金持ちになったのは俺の方が先」と自慢しあうという他愛のない話しなのだが、私なら最新型を自慢したいが。

リムジンの本場はやはりヨーロッパだ。WWⅡ前には名門がたくさんあった。メルセデス・ベンツ、マイバッハ、イスパノスィーザ、ブガッティ等々。そしてイギリスではオースチンが消え、王室御用達のダイムラーも消えて、いまではRRだけになってしまった。もっともRRは現在BMWの傘下だが、生産はイギリス工場で、造るのもイギリス人だ。

私は1952(昭和27)年型キャデラック75型リムジンを買ったことがある。皇室のと同年式同型だ。運転席でエンジン音聞こえず、時速100㎞の後席でわずかに聞こえるのはタイヤの音だけだった。

ロングホイールベース独特の鷹揚な乗り心地。運転席はシートや内張から天井まで牛革張り。後席はブ厚いじゅうたんと上質な毛織物で覆われ、美しいニス仕上げのウッドパネル。所有して初めてわかるリムジンの味だった。が、長すぎてウッカリ曲がると後部フェンダーを引っかけそうになる。もっとも、リムジンの持ち主が自身で運転というのは、世界でも珍しい例だが。

ロールス・ロイス・シルバースパーⅡリムジンの運転席:美しいマホガニー製インパネ/シート内装総革張仕上げ/ラジオは前席専用だろう/この運転手は常に両親指をスポークに置いていたようだ。

まだコロナ禍前のバンコク自動車ショーで見掛けた1980年代後半のRRの写真で、リムジンでは最重要な後席空間について眺めてみよう…これぞ本物のリムジンだということで。

まずリムジンの大きな特徴は、後部座席の密閉性で運転席と後部は、後席のみで開閉できるガラスで仕切られている。閉じれば後席の会話は運転席には届かない。試しに私のキャデラックで後席から怒鳴ってみたが、運転席には届かなかった。

補助シートの背を前倒すると足置きになるのかも・いや丸ごと倒せば広い足元空間になるのかも。コンソール上部に2個のエアコン吹き出し口が。マホガニーのトリムが美しい。

リムジンの前身は馬車だから御者は雨ざらし…それが自動車でも踏襲されて前席は革張り、主人用の後席は上等な毛織物というのが常道だったが、20世紀中頃から、革張りが上等という価値観で、このRRも前後総革張りだが、RRのは傷つかぬよう特別な牧場で育てたコノリーレザーと呼ぶブランド牛革だと聞く。

近頃固定席も多くなったが、標準的リムジンでは、運転席背後に折り畳み補助席があり、そこは身分の低い人の席、例えば執事や秘書、お付きの女中などである。写真はぜいたくな6座席だが、私のキャデラックも含めて昔は3:2:3で8座席…でエイトパセンジャー・リムジンと呼ぶ。

ブ厚いジュータンの後席:コンソールはパイプ置きと専用灰皿・前部BOXには上等なタバコが入っていたのだろう。左右窓スイッチはドアの補助席用と後席中央2カ所は主人用。

内装は特注が多く、写真のクルマの持主は愛煙家のようで、補助席間のコンソールにパイプ用灰皿と二個のパイプ置きがある。助手席片方をつぶしたクーラー付バー仕様のを見たこともある。最後部ピラーの木製四角枠の中にはライト付の鏡があるはず。

とにかくリムジンの後席は、密室のプライベート空間。実業家や政治家同志の密談、密会・浮気など、聞かれたくない見られたくないなどには格好の密室なのである。

(車屋 四六)

 

車屋四六:1960年頃よりモーターマガジン誌で執筆開始。若年時代は試乗記、近頃は昔の車や飛行機など古道具屋的支離滅裂記事の作者。車、飛行機、その他諸々古い写真と資料多数あり。趣味はゴルフと時計。<資格>元JAFスポーツ資格審査委員・公認審判員計時一級・A級ライセンス・自家用操縦士・小型船舶一級・潜水士等。著書「進駐軍時代と車たち」「懐かしの車アルバム」等々。

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