「今は昔、竹取の翁というふ者ありけり…」で始まる昔話は、皆さん子どもの頃に口語体で聞いたり読んだりしたことがあるはず。平安時代に生まれたおとぎ話の「かぐや姫」で、今は昔、とは「今になっては、もう昔のことだが」という意味だが、今ではテレホンカードも、そんなたぐいの物になってしまった。
私が子どもの頃は、急がなければ手紙、急ぐなら電報、高価な電話は借りるものだった。で、通話が終わり交換手の「通話料××円」を聞いて料金を電話の持ち主に支払った。WWⅡ後にダイヤル式の普及が始まっても長距離は交換手だった。
やがて公衆電話が普及すると、1度数10円単位で通話可能になる。同一地域同士なら3分間10円、距離で時間短縮するから、長距離電話では、たくさん積んだ10円玉を矢継ぎ早に投入することになる。
それでは大変というので、生まれたのがテレホンカード(テレフォンと書く人がいるが、日本電信電話公社=電電公社~NTT方式ではホンが正しい)。このシステムは1972(昭和47)年にイタリアで誕生。日本登場は82(昭和57)年だが本格的な登場は世界初だった。1度数10円で、50円、105円、320円、540円などのプリペイドカードが発行された。
1号カードのデザインは、20世紀の画家・巨匠岡本太郎だった。NTT方式が発行するカードの絵柄は、草花や風景が多かったが、これに目を付けたのがコマーシャル関連の人達だった。で、NTTが発売元で、多くの絵柄が登場するようになり、特に人気アイドルのテレホンカード(テレカ)は、コレクターアイテムして今でも人気である。
もちろん、自動車業界もこれに飛びつき、メーカーは新車発表時、また販売店などが多くのカードを作って自社宣伝に使った。引退した著名自動車評論家・松下宏が集めたクルマのテレカは、実に4万枚というが、未だ集めているらしい。
そんな松下さんにプレゼントしたホンダNSXのプロトタイプ3枚組は「これは400セットのみだから将来コレクターアイテムになるでしょう」とは、当時の小林修広報部長の言だった。
テレカの全盛期は90年代だが、その後携帯電話が普及し、追い打ちを掛けるようにスマホの普及で、公衆電話が廃れるにつれ、テレカも過去の存在となってしまった…が消えてはいない。でも、既に世の中からは忘れられ「今は昔」になってしまった。
(車屋 四六)
車屋四六:1960年頃よりモーターマガジン誌で執筆開始。若年時代は試乗記、近頃は昔の車や飛行機など古道具屋的支離滅裂記事の作者。車、飛行機、その他諸々古い写真と資料多数あり。趣味はゴルフと時計。<資格>元JAFスポーツ資格審査委員・公認審判員計時一級・A級ライセンス・自家用操縦士・小型船舶一級・潜水士等。著書「進駐軍時代と車たち」「懐かしの車アルバム」等々。