日産は3月15日、昨年3月に産学が連携してネットワーク上に創設した「交通安全未来創造ラボ」の研究成果の一つとして、北里大学の川守田 拓志准教授が中心となり開発した、「有効視野計測システム」のプロトタイプを発表した。
ドライバーの眼は、生理的視野(両眼で左右約180度、上方向に約60度、下方向に約70度)の中心付近に注視点を設ける場合、その数度(約2~10度)の中心視野の周辺から有効に情報を獲得して処理できる範囲があり、これを有効視野と呼ぶ。有効視野は実際見えている生理的視野より狭く(大よそ20~30度)、明るさや走行場面の複雑さなどの条件による揺れ幅が大きく、周囲が暗くなったり、複雑な作業中は狭くなる。
ドライバーが安全走行を行う際は単に見えているだけでは足りず、上記有効視野を使い、見えている情報を適切に運転操作に反映させる必要があり、海外の研究では、交通事故は運転免許試験場や眼科の視力検査の結果より、この有効視野の低下との関係が強いとの報告もあるという。
今回「交通安全未来創造ラボ」において北里大学は、日産自動車の支援・監修のもと、ドライバーの有効視野を簡便に計測できる最先端システムを開発。計測は、実際の運転環境を想定し、注意を分散した状態での有効視野の範囲と、眼に情報が入り運転操作が開始されるまでの反応時間を測る。同システムの特徴は、第一にドライバーの運転行動評価と眼科領域における視野検査の知見を組み合わせたこと、第二に明るさや大きさなど日常生活環境に近づけた絵を用いた有効視野に着目したこと、そして第三に動画や視線探索、手足と眼の共同運動を通してより多く注意を分散させたことにあるとし、これら3つの特徴を通し、より実環境に近い運転シーンにおける有効視野の計測結果を、理解しやすい数値やCGによるビジュアルで示すことで、ドライバーが自分の状況を自覚しやすくしたとしている。
<有効視野計測システムの構成>
- ステップ1:シンプルな条件として、モニター画面で中心視野を利かせながら、画面に次々出てくる記号を判別し、ボタンやブレーキに移る動作の反応時間や正答率を計測します。これで有効視野の広さが分かる。
- ステップ2:ステップ1にて計測した反応時間や正答率の結果から、運転時に急な歩行者の横断があった場合、どれほどの速さで反応しブレーキを踏むことができていたかを、コンピューターグラフィック画面で体感することができる。
- ステップ3:より複雑な判別作業や運転操作を加えて、有効視野がさらに狭くなる条件を作り体験する。
上記ステップで得られた結果は、「運転中に何か視覚的に注意を取られると、見落しや運転操作の遅れにつながる」ことをドライバーに認知してもらうことに用いられ(いわゆる「メタ認知」)、自身の視覚の特性を理解した上で、視覚的な安全確認や安全運転を行うなどのドライバーの行動変容を促すことを目的にしている。
今回は、ドライバーに与える運転負荷量など様々な条件で調査を行い、どの条件が有効視野や反応時間に影響を与えているかを検証しつつ、プロトタイプとなるシステムを開発。現在、高齢ドライバーによる実験を準備中で、今後は研究条件とデータ数を増やしていくことでエビデンスを積み上げ、システムをさらに発展させていくと述べている。なお、研究成果はラボのホームページでの随時公開を予告している。