マツダは7月30日、「第70回自動車技術会賞」において、新世代ガソリンエンジン 「SKYACTIV-X(スカイアクティブ エックス)」の開発と、構造接着による車体振動減衰技術で「技術開発賞」を、高圧縮比ガソリンエンジンの燃焼技術で「論文賞」を、エンジン流体、燃焼計算解析に関する永年の功績により「浅原賞技術功労賞」を受賞したことを公表した。
「自動車技術会賞」は、1951年に自動車工学および自動車技術の向上発展の奨励を目的に設けられ、公益社団法人自動車技術会より、自動車技術における多大な貢献・功績を認められた個人に贈られる。技術開発賞は、過去3年間に自動車技術の発展に役立つ新製品または新技術を開発した個人およびその共同開発者が対象で、マツダ社員が「技術開発賞」を受賞するのは9年連続となる。また、論文賞は過去3年間に自動車工学又は自動車技術の発展に寄与する論文を発表した個人および共著者に贈られる賞で、浅原賞技術功労賞は、永年自動車技術の進歩向上に努力した功労が大きく、かつ、その業績が世にあまり知られていない個人に贈られる賞。
<受賞技術・技術者・受賞理由(主催者発表)>
◆技術開発賞
- 受賞対象:火花点火制御圧縮着火を導入した新型2.0Lガソリンエンジンの開発
- 受賞者:末岡 賢也(すえおか まさなり)/マツダ㈱、井上 淳(いのうえ あつし)/マツダ㈱、漆原 友則(うるしはら とものり)/マツダ㈱、河野 通治(かわの みちはる)/マツダ㈱、中原 康志(なかはら やすし)/マツダ㈱
- 受賞理由:乗用車用量産ガソリンエンジンとして、世界初の圧縮着火での希薄燃焼を実現し、エンジンの熱効率改善および車両CO2排出低減に貢献した点が評価できる。高効率を実現する代表的な自己着火燃焼である予混合圧縮着火燃焼には、点火時期や噴射時期などの高応答な燃焼時期制御手段を持たないという大きな課題が存在する。本エンジンにおいては、上記課題を、高圧縮比の利点を活かして火炎伝播により圧縮着火を誘発させ、かつ点火時期で圧縮着火時期を制御可能な火花点火制御圧縮着火燃焼を用いてブレークスルーした。本手法自体は、長年に渡って研究開発が行われてきたが、本開発では当該手法を量産エンジンとして実現するために、燃焼制御および燃焼加振力増加に対して許容レベルを高めるためのNV技術(騒音、振動を低減する技術)を開発し、量産化を果たした点で評価できる。
◆技術開発賞
- 受賞対象:高い静粛性を実現した,構造接着による車体振動減衰技術
- 受賞者:山本 研一(やまもと けんいち)/マツダ㈱、吉田 智也(よしだ ともや)/マツダ㈱、三好 雄二(みよし ゆうじ)/マツダ㈱、鍵元 皇樹(かぎもと こうき)/マツダ㈱、小林 敏雄(こばやし としお)/サンスター技研㈱
- 受賞理由:本技術は、最新の量産車の車体で実用化し、クラストップの静粛性を実現したものである。従来、ロードノイズなどの騒音・振動を低減するには質量がかさむ対策が必要であった。本技術は、車体に振動減衰機能を付与して騒音・振動を大幅に低減する革新的な技術であり、①車体を伝ぱする振動を集積する構造(減衰節構造、減衰ウェルドボンド接合)、②振動を熱に変換する接着剤(減衰接着剤)、③本構造を実現する高品質な生産工法、で構成される。本技術は、あらゆるセグメントや内外装部品に対し幅広く適用可能である。加えて、従来の工程を大きく変更せずに生産が可能であり、グローバルに即応展開できる。以上より、本技術は今後の地球環境にやさしいクルマ作りの要となる技術であり、さらには産業界全体に貢献する有益な技術として高く評価される。
◆論文賞
- 受賞対象:ガソリン高圧噴射を用いた高圧縮比エンジンの燃焼技術(第1報~第4報)
- 受賞者:神長 隆史(かみなが たかし)/マツダ㈱、養祖 隆(ようそ たかし)マツダ㈱、藤川 竜也(ふじかわ たつや)/マツダ㈱、山川 正尚(やまかわ まさひさ)/マツダ㈱
- 受賞理由:ガソリンエンジンの熱効率改善にはさらなる高圧縮比化・希薄化が必須である。特に高圧縮比化は圧縮比そのものによる効率改善とともに希薄化による効率改善も可能にする有効な手段である。しかし、これには高圧縮比化を長年拒んできた高負荷域の異常燃焼を回避するブレークスルーが必要である。そこで、本論文では噴霧試験と数値解析によりガソリン高圧噴射の持つ瞬時に均質な混合気を形成する機能と強い乱れを生成する機能によって異常燃焼を回避する方法を考案し、圧縮比17の実機エンジンで既存の圧縮比14と同等以上の全負荷熱効率を実現した。また、排ガスの再吸入量制御を用いた予混合圧縮着火の希薄燃焼と組み合わせて幅広い運転領域で大幅な熱効率改善を実証することで、ガソリンエンジンの飛躍的な進化の可能性を示した点は高く評価される。
◆浅原賞論文功労賞
- 受賞対象:エンジン流体、燃焼計算解析に関する永年の功績
- 受賞者:藤本 英史(ふじもと ひでふみ)/マツダ㈱
- 受賞理由:受賞者は、90年代初頭において企業におけるエンジンに適用可能な多次元流体解析ソフトウェアが、市販含めて極めて少ない中で、共同研究先からベースとなる計算解析技術を導入し、エンジン内作動ガス挙動の予測精度改善を実施した。さらに、エンジン開発に必要な燃料混合気挙動や燃焼解析機能の開発や精度改善に地道に取り組み、エンジン燃焼室内の様々な現象の可視化やメカニズム解明を可能とした。また、自動車メーカーにおけるエンジン開発への計算解析技術展開に貢献してきた。その結果、コモンレールディーゼルエンジンや、直噴ガソリンエンジン、ガソリン圧縮自着火エンジン等、革新的な乗用車用エンジンの成立に必要なキー技術の構築に貢献し、エンジンの低燃費、低エミッション化に大きく寄与した。