現在、日産の主力モデルとなっているのがノート。e-POWERの搭載も人気に拍車をかけ、好調な売れ行きを続けている。コンパクトで取り回しやすいボディサイズに広い室内空間、そしてe-POWERならではの走りの楽しさを備えており、これらのバランスの良さが人気の理由と言えるだろう。
このノートの祖先にあたるのが「パルサー」だ。その初代モデルはチェリーの後継車として登場したが、数々の新機軸を搭載し多くの注目を集めた。今回はその試乗記をみてみよう。
<週刊Car&レジャー 昭和53年6月17日発行号>
日産自動車が自信をもって発売した“ニッサン・パルサー”が三・四日の全国一斉展示発表会を機に本格販売を開始している。来場者の集まり具合からみるとすべり出しは好調のようだ。各会場でハンドルをにぎったユーザーはどんな印象でとらえているか。これにさきがけて実施した。本紙の試乗記を紹介しよう。
●なんて静かなクルマだ
観光地である箱根のスカイラインで、発売されたばかりのニッサン・パルサー1200TSと1400TS-Gに試乗してみた。コースは箱根の乙女道路から三国峠近辺のスカイライン。スピード感を試す直線道路は少ないが、コーナリング、登坂、下り坂とFF車の特性を肌で知るには絶好の場所だ。
1200、1400の順で、それぞれ約一時間にわたって、乗り回してみた。普段は「真面目なおとなしい運転振り」と定評のある記者だが、この日ばかりはそうはいかない。かなり荒っぽい運転に挑戦してみた。
まず1200は通常の走行パターンに近い加速、コーナリングでハンドルを握る。なだらかな上り坂を思い切ってアクセルを踏み加速してみる。メーターは時速40キロ、60キロ、80キロとグングンあがってゆく。最初に感じたのは抜群の静粛性だ。シフトアップやダウンの時多少気になる金属音もあったが、走行中は驚くほどの静かさだ。
途中窓をあけて同じように加速してみる。当然のことながら多少うるさくなるが、それでも気にならないほど。ラジオで音楽を聞いてもボリュームを上げなくても我慢できるくらい。
最近の新車は実はみんな静かになっているわけだが、窓をあけて加速した場合はやはり騒音は気になる。これがパルサーだとちょっと違う。
設計部では「ダッシュパネルに防振材と三層構造の遮音材をはり、さらにインストルメントの下に二層構造の遮音材を採用するなど数多くの騒音、振動対策を施してある。」と説明しているから、これが効果をあらわしているのだろう。百キロで72デシベルという測定値であるから静かなわけだ。
このコースは屈曲が多いからコーナリングのテストにはもってこいだ。ご存知のようにFF車はカーブで外側にふくらみやすいという特性があり、これがきらわれる要因にもなっている。40キロ、あるいは60キロといろいろなスピードでかなりのカーブを試走してみたが、ハンドルの切れはよく、難なく安定して曲がれた。まずはFRに近い感じで合格点をつけても良さそうだ。
次は加速、減速の断続によるフィーリングだが、安定性はかなりよい。レスポンスが多少やわらかでスポーツ走行性は抑えてあるが、比較的すなおな加速といった印象だ。室内がかなり広くなっているため、大衆車というより小型車のフィーリングといえるだろう。
急ブレーキをかけると、ショックが少なく、しかも素早く静止できる。TSは前輪がディスク付で6インチのマスターバックを採用しているため、軽くブレーキペダルを踏むだけで底力を発揮する。
●パルサーが走っている 周囲から熱い視線
直線コースはあまりなかったができるだけ加速して、直進性をテストしてみた。乗り心地はよい。
サスペンションが前輪ストラット式、後輪フルトレーリングアーム式の四輪独立懸架装置を採用していること。シートのホールド性もよいため、快適なドライブが楽しめた。
2台目の1400TS-Gはコースをかえ、箱根スカイラインに挑戦した。エンジン容量が大きいこともあり、1200にくらべ加速性はよい。ミッションは5速。1200TSの試乗車はボディカラーがパーナルグリーンという黄緑色だったが、この1400はベネチアンレッドというややくすんでいるが原色基調の赤。サイドにストライプと“パルサー”の文字を走らせスポーティさを強調している。市販車にはオプションで採用されるはずだ。
有料の箱根スカイラインに向けてアクセルを踏む。周囲のグリーンにこの赤色ははえ、新鮮さとかっこよさをマッチングさせているせいか、途中わきからドライバーが厚い視線を送ってくる。
加速、減速、急制動、じぐざぐカーブ、1200にもまして様々な走行を試みた。ぐっと安定感のある、力強いフィーリングがステアリングに伝わってくる。
三国峠に向けて坂道をぐんぐんのぼる。かなりの力だ。多少急でもサードギアで充分だ。シフトアップの走行も比較的なめらかだしエンジン音も軽く応じてくれる。
パルサー設計のねらいは①FF機構の特徴を生かした広い室内②FF車としての、優れた走行性能と操縦性・安定性の確保③安定感のある明快で個性的なスタイル④すぐれた安全性と信頼性をもつ高品質な車⑤53年度排ガス規制に適合。の5点をあげており、メーカー発表で付帯的に強調された特性は①ガラス面積拡大による広い視界②トランクルームの広さ③ネガティブスクラブ半径の採用。などがあげられるが、試乗してみての感想は、広い視界に気がつく。周囲の緑、前後に併走するクルマ、みはらしの良い場所での眼科の景色などが、次々に難なく飛び込んでくる。途中でクルマを止めて撮影としゃれる。メーカー発表時の写真、カタログ、そして実物、箱根での出発直前の実物、試走している中で降り、またしみじみ拝見…“パルサー・セダン”のシルエットはその度ごとにわずかではあるが形を変えて記者の脳裏にきざみ込まれてゆく。
最初、写真でお目にかかった印象は“ミニスカイライン”でありフォルクスワーゲン・パサードといった感じもあった。
●改めてホレ直す
日産本社ショールームでの初対面は写真やカタログよりやや丸味をおびた印象であり、個性に乏しいといったイメージダウンも感じられた。
今、あらためて見直す印象は多少違っている。周囲の緑と、原色調にしゃれたボディカラーのためもあろうが、ユニーク性が復活しているようだ。そのシルエットはやはり“パルサー”スタイルといってよい。
やわらかく、それでいて切れのよいハンドリング。シフトノブが小さすぎる感もあるが、ギアチェンジのしやすさはまずまずといったところ。
箱根までの行き帰りはわが愛車オンボロの「〇〇ハイデラックスクーペ47年型」。帰路の東名高速をぶっ飛ばしてきたが、やけにうるさく、ゴツゴツしたフィーリングがなんとしゃくにさわったことか…。
<解説>
パルサーは、日産初の量産FF車として誕生した「チェリー」の後継車として登場したモデル。初代パルサーが登場した当時は、VWゴルフに代表されるFF小型欧州車が評価を高めていた時代。パルサーもこれに範を取り、合理的かつ上質な「大衆車の中で上級クラス」を狙っていた。試乗記ではその走りとともに静粛性の高さを特徴として挙げているが、そのことからも上級志向であったことがわかる。日産としても既にチェリーで小型FF車のノウハウを蓄積していたことから、その完成度の高さには自信があったようだ。
5月の発売時は4ドアセダンのみでスタートしたが、続いて3ドアハッチバック、3ドアクーペ、5ドアハッチバックとボディタイプを追加。幅広い需要に応えることとなった。
その後パルサーはスポーツ色をやや強めながら世代交代を重ねて95年の5代目まで続き、日産の小型車ラインアップの中核を担うモデルとして活躍。幅広いユーザーに親しまれた。
