【ルノー・カングー リミテッド ディーゼルMT試乗】最後の最後に登場した2代目カングーの決定版

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個性あるデザインと高いユーティリティ性で人気のカングー。現在は2007年に発表、日本では09年から発売された2代目モデルだが、それもいよいよ終了。本国では既に3代目となる新型モデルが発表されており、日本でも来年には登場することになりそうだ。

さて、日本市場でこの2代目モデルの最後を飾るのが、400台限定で発売された「カングー・リミテッド・ディーゼルMT」。日本ではカングー初となるディーゼルエンジン+MTを搭載したモデルである。

本国フランスをはじめグローバルで販売されるカングーは、ディーゼルエンジン+MT仕様が大多数だ。しかし日本では、前期はNAのガソリン1.6L、後期は1.2Lガソリンターボを導入。このためカングー本来の仕様とは少しテイストが違っていたというのが実情である。そこで当然ながら、より本国仕様に近いディーゼルエンジン搭載モデルを待望する声は多く、またルノーとしても通常ラインアップに加えるべく動いていたのだが、日本の排ガス基準に適合させるのに手間取っているうちに2代目カングーそのものの生産が終了となり、時間切れになってしまったという。結果、滑りこみで何とか400台のみ搭載できた、というのが今回の限定車だ。ある意味、非常に贅沢な限定車である。

発進から高速域までスムーズ。静粛性も高い

2代目カングーの有終の美を飾るべく登場した今回の限定車だが、それ故に、カングー本来のスタイルとしているのが特徴だ。ディーゼルエンジンの搭載を除くと、その他の特別装備はブラックの前後バンパー、ブラックの鉄ホイール、LEDデイタイムランプ程度。「LIMITED」の専用バッチこそ備えるものの、カングーの魅力である気取らない道具感を強調したスタイルだ。質素なインテリアもそのままで、最後だからといって華美な装飾を採用しないのも良いところ。気負うことなく原点に立ち返って最後を締める、そんな限定車なのである。

黒いバンパーと黒いスチールホイールでタフな道具感を演出するカングー・リミテッド・ディーゼルMT
後ろ姿もスッキリ
室内はシンプル。特別装備は通常モデルと違いはない

搭載するエンジンは1.5Lの直4ディーゼルターボ「K9K」型で、最高出力は116ps、最大トルクは260Nmを発揮。トランスミッションは6速MTのみで、AT(EDC)の設定はない。

ボンネット内に納まったK9K型エンジン

実際に乗ってみると、まず静粛性の高さに驚かされる。プレミアムクラスのディーゼル車と違いカングーは実用車だから、正直なところあまり遮音性には期待していなかったのだが、アイドリング時、走行時とも車内は非常に静かで、ディーゼルであることを忘れてしまうほど。もちろん、車外にいればディーゼル特有の音はそれなりにするものの、その音量は小さく周りの目を気にする必要はない。目を引く最新装備はないが、こういう基本的なところがしっかりと作り込まれているのはさすがだ。

車両重量は1520kgでガソリン車よりも100kg近く重くなるが、ディーゼルならではの力強いトルクで、発進から高速域まで加速はスムーズ。パワーバンドが広いので街中での走行でも頻繁なシフト操作は必要なく、非常に扱いやすい。もちろんレスポンスはガソリン車が上回るが、スポーツ走行とは無縁なカングーのキャラクターにはディーゼルの方が合っており、つくづく登場の遅さが悔やまれるところではある。

シフトのフィーリングも違和感がない。ごく低回転域からトルクが出てくるので、発進時のクラッチ操作に余計な神経を使う必要がないのもディーゼルならではだ。初のMT車として選ぶのにも最適な1台といえるだろう。

シフトのグリップは大き目で操作しやすい。各ギヤの入り具合もカッチリしている

乗り心地は、ゆったり、そしてしなやかで心地よい。ディーゼル車の場合、ガソリン車よりもエンジンブロックの重量が増し、フロントが重くなる分、挙動としてはマイルドになるのだが、それもまたカングーにとっては問題にならない。むしろカドが取れた走りこそ、魅力的である。一方で足回りはソフトだが、ロールやピッチは抑えられており、高速走行時の安定性も秀逸。接地感も適度に伝わってくるので安心感も高く、運転しやすいクルマだ。

というわけで、非常に魅力的なこの限定車は、カングーの決定版ともいえるだろう。ただし、残念なことに発表と同時にほぼ完売状態。通常のカングーもあわせ、既に販売店の持つ流通在庫のみとなっており、今から手に入れられるかはもはや運次第だ。もし購入できるチャンスがあれば、迷わず即決して欲しい。(鞍智誉章)

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