【ホンダ・新型ヴェゼル試乗記】上質な走りとともに、移動がもっと楽しく過ごせる時間になる

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ホンダのクロスオーバ-SUV、ヴェゼルが2013年のデビュー以来、初のフルモデルチェンジを行った。クーペのスタイリッシュさとミニバンの使いやすさの融合(クロスオーバ-)という初代からのコンセプトはそのままに、コンパクトクラスへの搭載も進みつつある2モーター式のハイブリッドシステム“e:HEV”の搭載や、コネクティッドサービス「ホンダコネクト」がもたらす、これまでにない利便性やクルマとの付き合い方により移動空間としての“質”も向上させた。

スタイリッシュだけど運転席からの視界は良好

クーペスタイルを売りにするヴェゼルは、新型になりCピラーの傾斜が大きくなりキャビン部が強調され、さらにクーペに寄ったスタイルになった。中核グレードには18インチタイヤが標準装着され、タイヤアーチが強調されるデザインによりサイドビューは一段と力強さが感じられる。フロントグリルは間隔が細かい横桟で、ボディと一体化されたデザインが新しさを感じさせた。

シート座面の高さもほどよく、身長175㎝の筆者には大きく腰を落とさず運転席に乗り降りできる。インストルメントパネルも水平基調なので、すっきりと広く感じられ、先代モデルより質感も向上している。運転席からはフェンダーの左右の端もしっかりとわかり、全幅1.79mの車幅感覚もつかみやすい。全長4.33m、ホイールベースは2.61mで、絶妙のパッケージングにより前席後席ともゆとりある空間となっている。

後席は背もたれを前に倒せる“ダイブダウン”と、座面を上に跳ね上げられる“チップアップ”のアレンジを持ち、室内も荷室として活用することもできる。ラゲージスペースは左右の張り出しが少なく、ダイブダウンによりフラットなスペースが出現する。

スマートキーを携帯していれば、リヤバンパー下に足をかざすことでテールゲートが開く、ハンズフリーアクセスパワーテールゲートが採用され、閉めたあとに自動的にロックする予約クローズスイッチも備わり、荷物を取り出しクルマから離れるとテールゲートが閉まりだしロックも完了するという便利さ。

トノカバーはテールゲートに取り付けるタイプ

パワーユニットは、2モーター式のハイブリッドシステム“e:HEV(1.5リッターアトキンソンサイクルi-VTECエンジン+モーター✕2)”と、新開発の1.5リッターi-VTECガソリンエンジンの2本立て。ガソリンエンジンは、4グレード中1グレード(FF/4WD)のみと、e:HEVが中心となっている。

この2モーター式のハイブリッドシステム“e:HEV”は、エンジン駆動とモーター駆動の役割分担が実に明快で、エンジンの効率の良い時(高速での巡航時)のみエンジンで駆動する。それ以外ほとんどのシーンではモーターで駆動。その時、エンジンは発電のためだけに動き、タウンスピードではほとんどが電気自動車のようにモーターで走行。しかも、バッテリーの充電状態が良好ならば、発電も不要でエンジンは静寂を保ったままとなる。

e:HEVユニットが中心

そして、e:HEVには三つのドライブモード(ノーマル/Eコン/スポーツ)を持ち、状況に応じた加速感を選べる他、アクセルペダルを戻した時の回生(発電による減速)の強弱も4段階から選べ、ガソリン車のようなエンジンブレーキを活かした走りを楽しむこともできる他、Bレンジで回生を最強にすると、アクセルペダルだけで加減速を制御するワンペダルドライブも可能だ。

一方、ボディの骨格は、高張力鋼板の中でもより強度の高い超高張力鋼板(980MPa以上)の使用部位を拡大。従来型の9%に対し新型は15%へと拡大され、走行中路面からの力のかかる部分をより強固なものとした。このほか、サスペンションの取付部など各部の剛性を高めることで、車体のねじり剛性を上げた。事実、こうしたボディがより快適な乗り心地や、切れ味の良いハンドリングにつながっている。

 

また、ホンダの先進安全運転支援システムのホンダセンシングが全車に標準装備され、先代モデルにはなかった後方誤発進抑制機能、近距離衝突軽減ブレーキ、オートハイビームの3機能が加わった。また、ブラインドスポットインフォメーション、後退出庫サポート、マルチビューカメラ、LEDアクティブコーナリングライトも新採用された。

ホンダセンシングは、対象物との距離計測等を行うセンサーが変更され、従来のミリ波レーダーから視野が広く認識力を高めた単眼カメラに代わり、車両前後に追加されたソナーが車両近くにある障害物を検知する。

結果、衝突被害軽減ブレーキは、交差点右折時の対向車や道路を横断する自転車、夜間の歩行者も検知可能となり機能が向上。また、アダプティブクルーズコントロール(ACC)は、先行車の車線変更や割り込みを素早く検知できるようになり、自車の加速や減速がよりスムーズな制御を可能にした。路外逸脱抑制機能では、対向車や路肩の境界が白線でなく草や砂利の場合でも認識されるようになり、路肩からクルマがはみ出さないように制御される。この機能が働くのは、従来時速60㎞以上だったが、新型車では時速30㎞以上まで引き下げられた。

市街地ではモーターが主役、瞬時に始まる加速がいい

まずはe:HEVモデルに試乗。走り出してすぐに感じられるのは静粛性の高さ。路面のギャップを通過しても、突き上げられることなくすぐに収まる(2名乗車)。ブレーキ~ステアリング~加速の一連の動作が、いずれもドライバーの意志とずれることなく、なおかつクルマの姿勢も安定しているのが心地よい。市街地走行ではほとんどモーター駆動なので、ペダルを踏み始めた瞬間に加速が始まる。しかも、発電のためエンジンも回っているので、耳では従来からのエンジン音を捉えつつ、加速はEV(電気自動車)と不思議な感覚だ。

自動車専用道路はACCで走行。幸い先行車がおり短時間だったが追従することに。先行車の加減速に応じてこちらも加減速するが、不自然さや怖さはなくこれらなら高速のロングドライブの疲労も大きく軽減されそう。また、左の路肩の白線が消えかかっている箇所も見られたが、インパネの表示ではきちんと路肩を認識していた。

ガソリンエンジン搭載モデル

一方、ガソリンモデル(4WD)は、クルマ自体は軽快な走りなのだが、e:HEVから乗り換えた直後だけに致し方ないが、e:HEVの“瞬発力”に慣れてしまうと、どうしてもペダルを踏み込んだ時の加速のタイムラグが目立ってしまう。それでも、4WDはドライ路面での走行性能にもこだわり、アジャイルハンドリングアシストの初期設定を大幅に変え、併せて後輪へのトルク配分を向上させ旋回力を向上させ、ドライの峠道でも楽しめるようにしたとは開発者の弁。

新型車のトピックスの一つが、ホンダコネクトがより便利に、使いやすくなったこと。ホンダ初導入となった「自動地図更新サービス」は、従来販売店に出向いて行っていた地図データ更新が、ルート検索時に自車位置、目的地周辺の地図が更新される。また、スマートフォンがクルマのキー代わりになる「デジタルキー」も採用された。

さらに「車内Wi-Fi」も搭載され、ゲーム機やタブレット端末、パソコンと接続することで動画を視聴できたり、オンラインゲーム等も楽しめる。渋滞走行のノロノロに飽きてしまった後席のお子さんとかも、新しい時間の費やし方が増えた。特に近年は、コロナ禍で増えつつある在宅勤務で、重要なリモート会議は自宅のリビングではなく車内で一人静かに参加できる、といった“ニューノーマル”での使い方もある。

「アプリセンター」で、音楽系や周辺検索アプリ等が配信され、ドライブを盛り上げる音楽や、未知の観光スポットの提案を受けることもできる。全ての基本となるホンダコネクトディスプレーのトップ画面は、使用頻度の高いアプリを常に画面下に表示できる他、アイコンの並び替えや入れ替えもでき、自身が使いやすいようにカスタマイズすることもできる。

新型ヴェゼルは、コンパクトクラスでありながらクラスを超えた上質な走りと、コネクティッドがもたらす、従来にない車内での新しい過ごし方や利便性が魅力。それでいて最上級グレードでも車両本体価格が約330万円と、こちらも魅力的な部分といえる。

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