【日産・新型ノートe-POWER 4WD試乗記】コンパクトカーとは思えない、クラスを超えた上質な走り

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昨年末フルモデルチェンジした日産ノートは新世代のe-POWERを搭載し、その力強い走りには感心させられた。が今年3月に追加された4WDの走りには、さらに驚かされた。まさにコンパクトカーの常識を超えるものだ。

ノートの4WDといえば、先代ノートe-POWERでも後期モデルに4WDが追加設定されたが、これはリヤに最高出力4.8ps、最大トルク15Nmと出力がごく小さいモーターを加えたもので、作動するのも時速30キロまで。主に発進時のアシスト用で、無いよりはマシだが、それ以上のものではなかった。と書くとなんだか先代ノートe-POWERが劣っているようだが、そうではなく、このクラスのコンパクトカーはノートに限らずこのレベルが普通。最低限必要なところだけ4WDになるという、いわゆる「生活四駆」である。ちなみに最新コンパクトカーでいえば、ヤリスHVの4WD車もこの方式。フィットe:HEVの4WD車はビスカスカップリングを使う普通のスタンバイ式で、メカニズムは異なるものの考え方は同じだ。

ところが、新型ノート4WDに搭載されるリヤモーターは、最大出力68ps、最大トルク100Nmと超強力。参考までに軽ホットハッチのアルトワークスが搭載するエンジンは、最高出力64ps、最大トルク100Nm。つまり軽ターボと同等のパワーということになる。

当然ながら、発進時の軽いアシストだけなら、こんな大パワーは不要だ。そうではなく、この新型ノート4WDは、あらゆる走行領域で積極的に四輪を使う本格的な4WDとしているのが特徴である。雪道など滑りやすい路面での走破性を高めることはもちろんだが、通常の路面でも積極的にリヤを駆動させ、力強く安定した走りを実現するための4WDシステムだ。つまり挙動をコントロールし、走行安定性を高めるためのフルタイム4WDであり、スポーツ車や上級車ならともかく、普通のコンパクトカーとしては、かなり贅沢な内容と言っていい。

外観はFFと変わらない
リヤには4WDのエンブレムが追加されている

実際に試乗してみると、2WD(FF)との違いは明白だ。FFのノートで気になった後輪のバタツキが見事に抑えられ、発進から加速まで非常に安定感が高い。車両重量がFFに比べて120kg重くなることも落ち着いた挙動につながるプラス要因といえるが、乗り心地も滑らか、スムーズで上質だ。後席乗員の快適性も、これなら満足だろう。

荷室は床面が少し高くなるが、実用上はFFとほぼ同等といえる

ノート4WDのシステムは、最高出力116ps・最大トルク280Nmの前輪モーターに、そのまま後輪モーターのパワーが加わるのではなく、システム出力としては総合でも116psを超えることはない。その総出力の中で前後輪のモーターを巧みに制御するため、加速時のパワー感そのものはFFと同等レベルなのだが、加速中の安定性という点では大きく異なる。FFの走りも決して悪くはないのだが、4WDでは前輪に無理をさせない分、より粗さがなくなり、洗練された印象である。

この安定感は減速時も同じ。やや急な減速でも姿勢を乱すことなく、フラットな乗り心地を保つことができる。試乗当日は雨も降って路面はやや滑りやすい状況であったが、加減速が連続するコースでも安定感を損なわないことには感心した。もちろんコーナーでも挙動は極めて安定しており、不安を感じさせない。タイトなコーナーでも前輪が無理に引っ張る感じがなく、四輪がきちんと路面を掴んでいる感覚が伝わってくる。FRではないが、それに近い自然な感じでクルマが向きを変えてくれるのは、前後輪のモーターを緻密に制御しているからこそだ。

そんなわけでこの新型ノートの4WDは、雪道を走るから4WDを選択、というレベルではなく、上質な走りが欲しい人にこそ選んで欲しい4WDである。室内の静粛性や広い室内空間といったFFの新型ノートの良さはそのままに、走りのクオリティをさらに向上させた上級グレードという捉え方をしても間違いではない。e-POWER+強力モーターの搭載ということで、競合車に比べて装備も含めると価格が若干高いのは否めないが、それも納得できる実力モデルである。(鞍智誉章)

運転席周りもFFと同等
4WDの切り替えスイッチ等はない。ドライブモードの切り替えも、ECOを挟んで上がSPORT、下がNORMALの順でFFと同じだが、これはちょっと使いにくい
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