スポーツカーの動的質感とサルーンの乗り心地を両立 BMW・M440i xDrive 試乗記

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BMWのアイデンティティである「キドニーグリル」が縦方向に大型化され、ドイツでの初公開時から話題となっている新型4シリーズクーペが国内に上陸。フロントマスクばかりに注目が集まるが、BMWらしい卓越した走行性能やクーペながら実用的な後席など、見どころが多いモデルとなっている。

新型車のボディサイズは、全長4775mm(先代比+105mm)×全幅1850mm(+25mm)×全高1395mm(+20mm)、ホイールベース2850mm(+40mm)。全長が伸びたことで、長いフロントノーズや短いリヤオーバーハング、流れるようなルーフラインといった、FRクーペらしいスタイルにも磨きがかけられた。フラッグシップである8シリーズのような、洗練された流麗なフォルムにも注目してほしい。

往年の名車である「328」や「3.0CSi」がモチーフになっているフロントのバーティカルキドニーグリルは、コンピューター制御でグリルを自動開閉し、空気の流れをコントロールすることでラジエーター温度を最適化するものが試乗車には標準装備されていた。さらに、U字型のエアインテークなども空力面に配慮された造形。形だけでなく、走りの性能に直結する機能を持たせているのはBMWらしい点だ。

実車を見てみると、初見では近年のBMWにはないスタイルに面食らってしまったが、写真で見るよりデザインに奥行きがあり造形も複雑になっている。ただ、ナンバープレートの位置がもう少し下か、バンパーの端などにオフセットできたら全体的なデザインとのバランスが良かったのではと感じられた。

インテリアは、フル液晶メーターや大型タッチディスプレイなどは、他のBMWモデルと共通する部分だが、2ドアクーペながら後席の居住性が損なわれていないことが、新型4シリーズクーペの特徴の一つ。

後席は2名掛けとなっていて、センターアームレストやエアコンも装備。さらに、前席を適切なドライビングポジションに保ち、身長177cmの筆者が座っても後席の膝前はこぶし1個半ほどのスペースがあった。さすがに頭上にこぶしが入るほどのスペースは無かったが、2ドアクーペでここまでの居住性が確保されているモデルは希少で、我慢を強いられることがないレベルだ。少なくても荷物置き程度のスペースではないと言える。

また、前席のシートベルトアンカーは、乗り込むとBピラー付根から前方にせり出す機構となっていて、身体をよじらなくても装着しやすいことも好印象であった。

国内に導入されたのは、直列4気筒2.0Lターボの「420i」、直列6気筒3.0Lターボを搭載する4WDの「M440i xDrive」の2タイプ。今回は後者に試乗することができた。

■高性能ながら扱いにくさは皆無

エンジンを始動すると、低音で野太い音がキャビンにも伝わってくるが、アイドリング中は静かで振動なども微細だ。試乗車のM440iはサーキットでの知見を盛り込んで開発したストリートモデルとのことで、試乗前は硬質な乗り味を予感させたが、それは杞憂であった。

街乗りの速度域でも、キャビン内に不快な振動やロードノイズはほぼ感じられない。時速100km程度の巡航ならば、搭載する8速ATの緻密な制御によってエンジンが1500回転を超えることがなく、静粛性のレベルも非常に高い。

また、最高出力387PS/最大トルク500Nmという高性能を誇るが、ハンドリングやブレーキタッチも素直で癖が無いので、どの速度域でも扱いやすいのが印象的であった。

一方で、速度を上げると感じられるフラットライドな乗り味や、スポーティで切れ味のあるハンドリングといったBMWのアイデンティティも失われておらず、上級サルーンのような質感とスポーツクーペの走りを高次元で両立していた。

走行モードは3段階あり、デフォルトのコンフォートでもアクセルレスポンスは極めて良好というのが第一印象で、普通の乗用車の感覚でアクセルを踏むと、強烈な加速であっという間に制限速度までボディを引っ張る。

スポーツモードにするとさらに強い加速を得られるが、街乗りから高速走行どのシーンにおいてもコンフォートで全く不足は無く、高速を一定の速度で巡航するなら、エコモードでの走行もおすすめしたい。

先進安全装備は、3シリーズ以上の機種には搭載されているハンズオフ機能を標準装備。現状限られた高速や自動車専用道での時速60km以下でしか使えないが、平日の朝夕は渋滞が激しい首都高での試乗時には重宝した。減速や車線中央の維持制御も自然なフィーリングで、安心感も高かった。

スポーツカーの性能と、サルーンのような乗り心地を高次元で両立する4シリーズクーペ。賛否のあるフロントグリルなど、新時代のBMWを体現するモデルの今後に注目していきたい。

 

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