コンパクトながらSUVならではの魅力にあふれた実力モデル トヨタ・ヤリスクロス 試乗記

試乗レポート

ヤリスクロスは、その名を見ればわかる通りコンパクトカーの「ヤリス」をベースにしたクロスオーバーSUVだ。といっても、標準のヤリスそのままに大径タイヤを履かせてちょっとばかりSUV風の味付けにしましたというナンチャッテではなく、いわば正統派の都市型SUVスタイルでの登場。本格派のコンパクトSUVだ。

シンプルながら迫力を感じさせるフロントビュー
サイドは都市型クロスオーバーSUVらしいデザイン。ハリアーに近いテイストだ
リヤはコンパクトらしくカッチリとしたイメージ

ボディサイズは全長4180×全幅1765×全高1590mm。ベースのヤリスよりも全長は240mm、全幅は70mm、全高は90mm拡大されている。背が高い分ヤリスよりも少し大きく見えるが、取り回しやすいサイズに納まっており、街中での扱いやすさはほぼ同等。コンパクトカーや軽自動車から乗り換える人でも安心の手頃なサイズである。

パッケージングはヤリスに準じており、前席重視。運転席・助手席のスペースは広く快適だが、その分、後席は割り切っていてスペースは最小限。頭上空間はヤリスよりも余裕があり、上方向の窮屈感はないけれど、足元スペースは狭く、短時間ならともかく後席での長距離移動はちょっとツライのが正直なところ。後席はリクライニング機能がないのも厳しい。ただし荷室はボディ形状の違いもあってヤリスよりも広く、多くの荷物を積むことが出来る。

前席はスペースが広く快適。視界も良くドライビングしやすい
後席は足元がちょっと窮屈。ドアの下端も幅が狭いが、これは衝突安全性を高めるためにBピラーの根本が太くなっているのが理由だ
このクラスとしては荷室は広い。分割式の2段デッキとなっており、使い勝手も満足できる

したがって、ヤリスクロスはあらゆるニーズを1台でこなすというわけではないのだけれど、トヨタの場合、ファミリーユースで荷物も人もたくさん積みたいなら「RAV4」や「ハリアー」を、荷物は少ないが前後席とも快適にというなら「ライズ」を、とにかくオンロードでの走りを優先したいというなら「C-HR」を、というようにSUVの中で豊富な選択肢が用意されているのが強みだ。1台ですべてをまかなう必要がないから、無理のないクルマを作ることが出来る。反面、キャラクターが明確な分、自分のニーズをよく考えて選択したいところである。

インパネのデザインなど、室内空間も基本的にはヤリスと共通。ただ上級のZグレードではメーターはヤリスと異なり、RAV4と共通のものを採用するなど、細部はやや異なっている。室内全体は落ち着いたブラック×ブラウン基調でまとめられており、ヤリスよりも少し上質な感じだ。操作系の配置はオーソドックスかつシンプルなので、操作に迷うことも少ない。またオーソドックスなサイドブレーキのヤリスと違い、ヤリスクロスでは電動パーキングブレーキなので左右シート間がスッキリしている。

インパネ周りの配置はヤリスと共通。ブラック×ブラウンで統一されており、落ち着いた雰囲気
ドリンクホルダー部はくぼみが設けられ、ハンドバックが置けるようになっているのは、女性ユーザーにうれしいポイント

搭載するパワーユニットはヤリスと共通するもので、ガソリン車が最高出力120psの1.5L直3エンジン、ハイブリッド車は1.5Lエンジン+モーターでシステム最高出力は116ps。それぞれ2WD(FF)と4WDが設定されている。

ガソリン車、ハイブリッド車ともに、ヤリスと出力は同じだが、車両重量が約100kg重く、さらに重心高があがっていることもあって、走りは穏やか。スペック上の出力はガソリン車が上回るが、実際に乗り比べてみると加速はハイブリッド車の方が良い。発進からスムーズに加速していくハイブリッド車に対し、ガソリン車は低速時のペダルへの反応が鈍く、一拍おいて加速が始まっていく感じだ。またガソリン車はノイズが少々大きいのも気になるところだった。

悪路走破性の高さはクラス随一

そんなわけで、走りや静粛性ではハイブリッドに軍配が上がるのだけれど、しかし、ガソリン車の4WD車は、SUVならではの高い悪路走破性という魅力がある。

今回は、特設コースでオフロード走行も試すことが出来た。ヤリスクロスはラダーフレームを備える本格クロカン4WDではないが、ガソリンの4WD車は路面状況に応じてマッド&サンド/ノーマル/ロック&ダートの3つを選択し、駆動力、4WD、ブレーキを統合制御する「マルチテレインセレクト」を装備、これは新型RAV4にも搭載されている本格4WDの機能だ。また最低地上高は170mmと余裕があり、シティユース中心のクロスオーバーSUVとしてはかなりの実力を備える。4WD方式はオーソドックスな「ダイナミックトルクコントロール4WD」で、RAV4の上級グレードに搭載された最新の「ダイナミックトルクベクタリングAWD」は採用されていないが、通常の走行ならなんら不足はない。

マルチテレインセレクトの操作ダイヤル。簡単にモードを切り替えることが可能

このマルチテレインセレクトは非常に優秀で、とても頼もしい存在だ。ノーマルモードではタイヤが空転し、進むことが出来なくなった状況でも、マルチテレインセレクトのスイッチ一つで軽々と脱出。クロカン4WDのように足は伸びないので簡単に片輪を浮かせてしまうが、接地している残りのタイヤで安定して前進させてしまうのは、さすが最新の統合制御技術である。

片輪が浮いても余裕の走行。安心してオフロードを走行することが出来る

日常でこのシステムに頼ることは少ないと思うが、アウトドアレジャーに出かける機会が多い人には、万一の備えとしても価値がある。雨でぬかるんだキャンプ場、タイヤが埋まってしまうような砂浜でもこれなら安心。都市型クロスオーバーSUVとは思えない走破性の高さである。カッコだけのSUVではない、ある意味贅沢な実力モデルといえるだろう。幅広く楽しめる1台だ。(鞍智誉章)

■ヤリスクロスの悪路走破性を動画で紹介

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