BMW・飛行機屋から乗用車屋へ

コラム・特集 車屋四六

すでに御存知、世界最古の自動車メーカーはダイムラーとベンツである。それはシンプレックス後もイエリネックのダイムラー社は好調に発展し、1924年ベンツと提携、26年合併してダイムラーベンツ社が誕生。で、メルセデスの名は新会社に引き継がれ、生産する乗用車をメルセンでベンツと呼ぶことに決定。

さて、現在英王室御用達はエリザベス女王以来ロールスロイスだが、それ以前は英ダイムラーだった。英ダイムラーは1896年に独ダイムラーの技術導入で誕生し、車好きのエドワード七世お買い上げ以来、王室御用達となったのである。

メルセデス・シンプレックスに乗るエドワード七世

ちなみにクラシックカーファンの間では、05年から18年迄の車をエドワーディアンと呼び、それ以前04年迄はベテラン、19年から30年迄をビンテージと呼ぶならわしになっている。

リリエンタールの注文で開発した航空発動機の流用で、史上初量産バイクのヒルデブランド&ウオルフミューラー誕生の話しは既に紹介したが、BMWも航空発動機製造のため1917年、WWⅠ中に創業した会社である。で、現在も、エンブレムは青空バックのプロペラという構図なのである。

WWⅠ中、500基ほど軍に納入されたBMWの発動機は好評で、両軍を通じ最優秀と称された戦闘機フォッカーDrⅦには、ダイムラーとBMWがあったが、評判はBMWで、有名な撃墜王リヒト・フォーヘンが感謝状を贈ったと伝えられている。
一方、高度記録に挑み、9700mという高度記録樹立が1919年で、設計は天才技師と誉れ高いマックス・フリッツだった。

リヒトフォーフェンの愛機フォッカーDr-Ⅰ:全幅7.19m×5.77m・車重586kg・発動機オーベルウルゼル110馬力・最高速度185㎞・航続1.5時間・機関銃x2

やがてドイツ敗戦。ベルサイユ条約で軍用機生産禁止。仕方なく日用雑貨など何でも手当たり次第に造り、会社と従業員を守った。
そして、BMWの経営者は天才技師にバイク設計を命じたが「嫌だ」と逃げ回ったと聞く。隼・吞龍・疾風などWWⅡ中の名機を生んだ連中に映写機やスクーターを造らせた富士重工のようだ。

古今東西{すまじきものは宮仕え}というように、仕方なく1923年にフリッツが完成したR32型は、最高傑作となった…水平対向二気筒、シャフトドライブという基本構成は、WWⅡ中のドイツ陸軍で活躍、世界のレース場で活躍、というように今に至るまで換えようがない完成度の高い機構なのだ。

ちなみにR32型は、B×S=68×68㎜・493cc・圧縮比5・8.5馬力/3300回転・前進三速MT・車重122kg・最高速度90㎞。
R32は好評で会社経営も安定して、1928年/昭和3年、オースチンセブン・800cc・20馬力をライセンス生産して、ディキシーの名で発売、これで本格的四輪市場に乗り出すのである。

BMW R32型モーターサイクル

車屋四六:1960年頃よりモーターマガジン誌で執筆開始。若年時代は試乗記、近頃は昔の車や飛行機など古道具屋的支離滅裂記事の作者。車、飛行機、その他諸々古い写真と資料多数あり。趣味はゴルフと時計。<資格>元JAFスポーツ資格審査委員・公認審判員計時一級・A級ライセンス・自家用操縦士・小型船舶一級・潜水士等。著書「進駐軍時代と車たち」「懐かしの車アルバム」等々。

Tagged