文・写真:編集部
“西の富士、東の筑波”とも称される名峰・筑波山と、数多くの研究機関などを有する茨城県・つくば市。都心からは常磐道を北上して1時間強の距離ながら、背後に筑波山を抱えるのどかな田園風景の中に、こつ然と未来的な筑波研究学園都市が現れる。その対極ともいえる組み合わせがユニークにも感じられる。今回のきままにクルマ旅は、現代科学を身近に感じつつ雄大な自然に出会えるつくばへ向かった。
目次
・つくばエキスポセンター 遊びながら科学技術を体感
・地質標本館 地球科学専門の博物館
・筑波山 日本百名山にも選定の名峰
・ご当地ランチ 下妻食堂陽陽 茨城県産ローズポークを堪能
・旅グルマ ホンダ・アコード スタイルも走りもスポーティに進化
つくばエキスポセンター
遊びながら科学技術を体感
つくば市周辺は、圏央道の延伸によって都心だけでなく関東各県からもアクセスしやすくなった。さらに、2005年のつくばエクスプレス(TX)の開通により今や都内への通勤圏。特に沿線の駅周辺は高層マンションや住宅が林立し、大規模商業施設も整い発展を続けている。
つくばエキスポセンターは、TX・つくば駅から程近い市内の中心にあり、軒先から突如現れるH-Ⅱロケット(実物大模型)が目印にもなっている。
このつくばエキスポセンターは、1985(昭和60)年に筑波研究学園都市で開催された国際科学技術博覧会(科学万博)の閉幕後、最新の科学技術や身近な科学に親しんでもらうことを目的にオープン。世界最大級のプラネタリウムをはじめ様々な展示や体験を通じ、大人から子どもまで科学技術をもっと身近に感じることができる。
1階展示場には、科学の不思議を学べるおもしろサイエンスゾーンとエネルギーゾーンという体感型展示コーナーがある。
おもしろサイエンスゾーンでは、体を使って光や電気、力など科学のおもしろさを体験できるほか、今後もっと身近になるであろうロボットや電気自動車の技術を紹介。ここでは、見えない空気の流れが見られる「エアバズーカ」や、ガラスに手を触れると稲光が吸い寄せられ、落雷と同じ原理を体験できる「プラズマボール」、立ったままの子供がすっぽりと包まれる「大型シャボン玉装置」などが親子連れから好評だ。
エネルギーゾーンは、生活を支える水力・火力・原子力など、エネルギーを生み出す力の原理を、体験やクイズを通して楽しくわかりやすく知ることができる。
同じく1階展示場内のサイエンスワークス 科学者のしごとは、科学者の仕事にクローズアップしたエキスポセンターならではの展示ゾーン。科学史に残る偉人たちの仕事ぶりだけでなく、つくば市内で働く研究者からのメッセージも必見の内容だ。
2階では「夢への挑戦 〜のぞいてみよう科学がひらく未来〜」をテーマに、ナノテクノロジー、生命科学と医療、地球温暖化、宇宙開発、深海や核融合といった、現在、が各社・研究者が取り組む極限への挑戦(研究)と、それがもたらす未来を5つのゾーンで紹介している。
深海調査を行う有人潜水調査船「しんかい6500(模型)」が置かれ、その中では水深に応じた生物が見られたり、国際宇宙ステーションの居住モジュール(就寝スペース、トイレなど宇宙飛行士の生活空間)や、総重量120kgにもなる宇宙船外活動ユニット(EMU)模型が展示されている。陽の光も届かない暗黒の深海や、遥か彼方の宇宙空間がもっと身近に感じられる。
また、2階では常設展示に加え、年3回の企画展も開催。取材時は「かわった遊びが大集合! 〜つくって・ためして・かんがえる〜」が行われており、「ひかり・かたち・うごき・おと・かず・デジタルえほん」の6つのテーマによる、さわって作って遊べる展示を楽しめた。
世界最大級のプラネタリウム
つくばエキスポセンターのプラネタリウムは、直径25.6mの世界最大級のドームに満天の星空と全天周映像が広がり、臨場感の高さが大きな魅力。星々と全天周映像の投影が融合した統合型プラネタリウム・システムで、エキスポセンターが企画したオリジナル番組から、人気アニメとのコラボで楽しく星空について学べる子供向け番組、スタッフの生解説が楽しめる星空解説番組、小惑星探査機「はやぶさ」のミッションに迫った大人向けの特別番組まで充実したプログラムが用意されている。また、プログラムは季節ごとに内容が変わり、何度でも楽しめることもポイントだ。
プラネタリウム入口近くには科学万博‐つくば’85メモリアルコーナーが設けられ、当時の最先端技術や会場の様子、その変遷とともに、コスモ星丸ロボットなどの実物展示も交えながら紹介されている。2020年は科学万博から35年のメモリアルイヤーにあたり、これを記念したグッズなども販売されている。
屋外には、つくばエキスポセンターのシンボルともいえるH-Ⅱロケットの実物大模型のほか、科学万博にも展示された50tのゆるぎ石が、当時とほぼ同じ状態で展示されている。H-Ⅱロケットは高さ50mもあり天空に向けそびえ立つ姿は圧巻。一方、ゆるぎ石は一点で支えられており“やじろべえ”の原理を用いることで、重さ50tといえども大人でも一人で、子供なら2~3人で動かせてしまう。これもしっかりと計算された科学の為せるわざ。とはいえこの不思議な感覚はここだけで味わえる感覚なのでぜひお試しを。
最先端の科学から、夏休みの自由研究のヒントになるような展示など、幅広く科学について学び、体験ができるのがつくばエキスポセンターの大きな魅力。年間パスポートも販売されており、地元だけでなく近隣他県からも繰り返し訪れる家族も多いという。なお、今年の8月1日~23日は9時30分開館、および完全事前予約制となっているので、訪れる前には必ずホームページのチェックを。
地質標本館
地球科学専門の博物館
地質標本館は、筑波研究学園都市の中でも南に立地する産業技術総合研究所(産総研)内にあり、クルマで行く場合は常磐道・桜土浦ICからが便利だ。館内には四つの展示室があり、岩石や鉱物、化石などの標本を展示。研究者による地質の調査で得られた知識や技術など、人類誕生から今日まで築いてきた文明の歴史をはるかに凌ぐ、長い年月をかけて作られてきた地球の姿を知ることができる。
エントランス付近では特別展が開催されており、取材時はチバニアンをテーマとした展示(8月30日まで)を実施。日本の地名から初めて地質時代の名前に認められたチバニアンの研究成果などが紹介されている。
また、エントランスでは天井に注目。そこには地下1000kmの地中から見た日本列島周辺の姿と震源の分布が示されている。天井からは大小様々な球体が吊るされており、赤い球体は大きな被害をもたらした地震を示し、震源が浅いと大きな被害がもたらされること、東北地方の太平洋側に震源地が集中していることがよく分かる。
地質から分かる日本列島の成り立ち
特別展の展示が終わると見えてくるのが第1展示室。中に入ると目に飛び込んでくるのは、34万分の1サイズの日本列島の精密立体模型だ。一見すると巨大な白地図に見えるが、近づいて見ると山脈や海溝の深さまで立体的に描かれ、緻密な地形再現度とスケールの大きさに圧倒される。
さらに、プロジェクションマッピングによって、平野部は緑、山岳部は茶などに色分けもされるほか、地質図、地形図、衛星画像の3種類の背景画像と、活火山、活断層など約10種類の個別画像を投影できる。これらを重ねて表示することで、日本列島の成り立ちや地質など、視覚的に理解できる。加えて、この地形図に幹線流通網を重ねて表示することで、地質と交通網の関係性という今までにない視点から、地質について学べることにも注目したい。
また、第1展示室には新第三紀に北太平洋の沿岸地域に生息していた哺乳類のデスモスチルスの化石(レプリカ)もある。子供のカバくらいある骨格で、完全な骨格は日本にしかなく世界から注目を集めている大型化石だ。
カーブが徐々にゆるくなっていく、アンモナイトを模した螺旋階段を上ると第2展示室で、海洋地質や海底地形についての展示を見学できる。太平洋の海底地形模型には、プレート拡大部の海嶺(赤色点灯)とプレートの沈み込み部の海溝(青色点灯)のほか、海底熱水鉱床の発見された地点が示されている。
太平洋プレートは東太平洋海膨(Eastern Pacific Rise)で新たに生まれ、太平洋を西向きに移動し、現在は約2億年経った部分が日本海溝に沈み込む。ちなみに、国土地理院のプレート運動観測ではハワイ諸島は年間6cm日本に近づいているという。このほか、生活に馴染みのある珪藻土や、EV(電気自動車)やハイブリッド車のバッテリーに欠かせない太平洋の海底地形模型見られた。
隣の第3展示室には、千葉県の利根川沿いで、昭和30年頃まで川だった場所を埋めた立てた畑地が液状化した場所を掘削し、その断面をはぎ取った地層の標本がある。2011年の東日本大震災で浚渫砂の一部が液状化し、泥層との境界に沿って砂が流動し、液状化した砂は泥層から耕作土まで引き裂く割れ目を作り、地層中に砂脈として残された姿を見られる貴重なものとなっている。
さらに、日本を代表する火山の富士山と温泉地の箱根の地質模型が展示され、スイッチを押すと富士山と箱根の地質断面を見られる。現在でも箱根では大湧谷などで火山活動が活発であるが、この展示を通して日本は火山大国であるとともに温泉大国であることもわかる。
順路に沿って再び1階に戻ると、岩石・鉱物・化石の分類展示や新着標本が並ぶ第4展示室につながる。ここにはおよそ2000点の標本が年代順などに展示され、数億年前の化石や鉱物や、ダイヤモンド、山梨県で産出され、県の石にも指定されているハート型の水晶といった珍しい鉱物が揃う。マニアの方はとても一日で見ることができないほど、充実したコレクションであった。
また、館内のミュージアムショップではアンモナイト手ぬぐい、恐竜の歯など本物の化石で型を取った化石チョコレートなど、ユニークなグッズも多数用意されており、お土産としても最適。これだけ充実した展示内容でありながら、入館料が無料であることも驚きだ。
なお、当面は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、見学は事前予約制となっている。必ずホームページで内容を確認の上、見学の申し込みを。