栄華を誇った英国名門老舗100年の流転劇

コラム・特集 車屋四六

かつて大英帝国は、大衆車から高級車まで一大供給国だった。特に、世界の王侯貴族金満家御用達高級車では独壇場的存在で、天皇家でもデイムラー、ロールスロイスを歴代愛用した。

七つの海を制覇し、世界に跨がる植民地で日が沈む所なしを謳歌した英国は典型的封建的社会らしく、高級車の棲み分けもはっきりとしていた。英王室はデイムラー(RRは現エリザベス女王になってから)、高級役人や植民地総督はオースチン、RRは金満家御用達という具合にである。

もっとも諸外国ではベンツやホルヒ、イスパノスイザ、デューセンバーグ、パッカードなども人気が高かったが、いずれにしても英国高級車の供給量は生半可なものではなかった。

WWⅡ後も、英国は自動車大国として甦るが、その後は吸収合併を繰り返しながら淘汰が進み、最後は外国企業に身売りしながら、英国内には名門老舗皆無という状態になってしまった。

矢折れ弾つきた老舗ブランドが海を渡り始めたのは1980年代初頭からで、合併統合で巨大化したBLMC社、RRベントレイ社、アストンマーチン、ロータスなども海を渡っていった。

ちなみに最大手BLMCが所有したブランドは、デイムラー・ジャガー・ランチェスター・ライレイ・モーリス・ウーズレイ・MG・ミニ・オースチン・バンデンプラス・ローバー・ランドローバー・アルビス・スタンダード・トライアンフ・レイランドなど、実に16銘柄、かつて世界に名をはせた名門老舗ばかりである。

ちなみにスポーツカーの名門MGの遍歴を見て見よう…1923年創業→38年ナッフィールド傘下に→52年BMCへ→67年BMH→68年BLMC→75年ブリティッシュレイランド→81年オースチンローバー→88年BAe→94年ホンダの経営権取得直前にBMWに身売り。

2000年になるとBMWはランドローバーを米フォードに、ミニ・ライレイ・トライアンフを自社に残し、ローバーは英投資家に僅か10ポンドで売却したが、05年破綻したMGは、意匠権が中国南京汽車、製造権が上海汽車に譲渡された。が、08年両社業務提携で共同開発が可能になった。…一方、フォードはランドローバーとジャガー&デイムラーを、インド財閥のタタに譲渡した。

さて英国の名門RRを傘下にした兵器産業ビッカースは、99年にVWに譲渡した。が、名称権がRR発動機会社にありRRを名乗れないので、名称権を入手したBMWに製造権を譲渡して、RRはBMW、ベントレイはVWで製造販売されている。

007で知られる13年創業のアストンマーチン+ラゴンダは70年破綻のあと点々と譲渡が続き、84年頃はトヨタと蜜月だったが、86年GM傘下に入り、99年に創業時三菱が援助したマレーシアのプロトン社に売却された。

 

車屋四六:1960年頃よりモーターマガジン誌で執筆開始。若年時代は試乗記、近頃は昔の車や飛行機など古道具屋的支離滅裂記事の作者。車、飛行機、その他諸々古い写真と資料多数あり。趣味はゴルフと時計。<資格>元JAFスポーツ資格審査委員・公認審判員計時一級・A級ライセンス・自家用操縦士・小型船舶一級・潜水士等。著書「進駐軍時代と車たち」「懐かしの車アルバム」等々。

Tagged