トヨタ・初代セリカ試乗記【アーカイブ】

週刊Car&レジャー アーカイブ

トヨタを代表するスポーティモデルの一つが「セリカ」だ。「ダルマ」と呼ばれ親しまれたその初代モデルが発売されたのは1970年(昭和45年)。今年で50年が経つが、いま見ても魅力的なモデルである。そこで今回は、その発売直後の試乗記を見てみよう。

<週刊Car&レジャー 1970年(昭和45年)12月12日号掲載>
「セリカ1600ST」試乗記

試乗というと、いつも軽い高ぶりがつきまとうもの。今度のセリカではその興奮がひときわ高く感じられ、爽やかに走り抜いたものだ。スタイルはモーターショーでおなじみのように、何とも魅力的だし、走りっぷりと来たらこれまた出足や加速の伸びといい、ステアリングの軽くシャープな切れ味といい、ぞっこん惚れこんだという感じだ。

セリカに乗って腰を落とすと、まるでレーシングカーに乗っているようなイメージがある。低い車高にロングノーズのスタイル。これに奥行きの深い」レッグスペース。足を伸ばしてみると、しっくりとフィットする。

セル一発で始動したエンジンはOHVツインキャブの105馬力だ。グイッとアクセルを踏み込むと、軽快ながら十分の手ごたえで吹き上がった。ツインキャブ特有のレスポンスが快い。

キュ、キュッとタイヤを鳴らしてスタート。14.0kgm/4200回転のトルクがものをいう感じ。2速、3速へとシフト操作もスムーズだ。カリーナと同じミッションながら、スタイルとエンジンの違いからか、もっとスポーティな味さえする。「気のせい」と自省しながらも、心が弾むようなフィーリングだ。

セリカに対する関心と期待を反映するかのように、どこでも熱い視線を浴びた。国道246号では前後左右を取り囲まれ、ウィンドーから乗り出すように見つめられた。面映ゆいと同時に、いささかの興奮に酔う時でもある。

スイッと抜け出して、ぴたっと先行車につける。アクセルのレスポンスの良さと軽いステアリングの切れ味。これが何よりの武器である。

東名では軽く走ってみた、いや流した感じだったが、150キロあたりでタコメーターは5000回転ぐらい。まだまだ余裕を残して風を切って走る。風切り音が少し気になり、ルームミラーがふれたのは130キロあたりからだったろうか。しかし、快適なスピード感ですぐ忘れてしまう。

5速からの急加速はさすがに物足りなかったが、4速にシフトダウンして踏み込むと、ぐんぐん面白いように伸びる。ここらはキメ細かい運転フィーリングを楽しめるところ。

カリーナと同じように、3速と4速の中心がニュートラルポジション。5速から抜くと、シフトレバーは自然にこの位置に来る。変に意識すると、2速に入りかねないから、ミッション任せにした方がいい。二、三度やってみれば、すぐ覚えてしまう。

東名を抜けて御殿場から長尾峠へ。いつもの試乗コースだが、軽々と駆け抜けた。3速でかなり低速まで粘ってもノックしない。エンジンの粘り強さを示す一つの例だろう。

2速で一度砂利に乗って軽くスキッドしたが、これはトルクが強いため。きめ細かいシフト操作でスポーティに走り抜けるように努めるのがコツ。セリカの性能をうまく引き出し、乗りこなす楽しみが満喫できる。

山道ではステアリングが軽く、シャープなのが有難い。連続するヘアピン(といってもそう大したものではないが)をい、コーナリングを楽しむように通り抜けられる。ちょっとサスペンションが柔らかい感じもあったが、これはスポーティカーとして万人向きを狙ったためであろうし、それ以上望むのは欲というもの。

またボンネットの上のエンジンエアアウトレット(吹き出し口)が、ロングノーズとともに視界にどう影響するか。ちょっと気にしていた点だが、全然問題なし。箱根の山道をスイスイと走り抜けて東名から246へ。終始、酔っているような感じで走り終えた。

ダッシュボードは右からタコメーター、スピード計(トリップメーター付き)。これに小型の燃料計、水温計、アンメーター、油圧計が三個にまとめられている。いろいろシートの位置を動かしてみたが、どの位置からも自然に見ることができた。コンソールにはオートクロックが付き、その手前が灰皿。これは手を伸ばさなくてもいいので便利だった。

意外だったのは、真横から眺めるとスタイルがおとなしい感じを受けることだ。足柄サービスエリアで一休みしたが、低い車高にロングノーズ・ショートデッキ。これに三角窓のないフルオープンウインドーと、スタイルの特徴はよくわかる。それなりに目立つのだが、サイドビューにもう一つアクセントが欲しいような気がしたものだ。

GTにはサイドストライプがついていて、これとのバランスもあるのだろうが、少し惜しかった。

キャッチフレーズは「未来の国からやってきた」。斬新なデザインが売りだった

<解説>
初代セリカは、前年の東京モーターショーで話題となったトヨタEX-1をベースにデザインされたモデルで、70年12月1日、兄弟車となるカリーナと同時に発売された。発売と同時に高い人気を呼び、そのスタイルから「ダルマ」と呼ばれたモデルだ。

当時の記事を見ると、カリーナは大衆車オーナーの小型車移行と、小型車オーナーのスポーティ派を吸引するという新しいマーケット創出を狙い、一方セリカはセダンやクーペ、ハードトップ、スポーツカーといった従来の区分には該当しないパーソナル・ユースを狙ったスペシャルティカーとしている。

この初代セリカの最大の特徴は「セリカ・フルチョイス・システム」と呼ぶオーダーメードシステムを日本で初めて導入したこと。4種類の外装、9種類の内装、4種類のエンジン、3種類のトランスミッションを組み合わせることができた。

エンジンは1.4L・OHVの「T型」、1.6L・OHVの「2T型」、1.6L・OHV2キャブの「2T-B型」、1.6L・DOHC2キャブの「2T-G型」の4種類を搭載。記事の試乗車は2T-B型エンジンの「1600ST」で、トップグレードの「1600GT」に次ぐグレードになる。決してパワフルではないが、軽快な走りは当時としても高評価だったようだ。

なお73年にはよりスポーティな外観の3ドアLB(リフトバック)が登場。高性能な2Lエンジンも追加され、セリカの人気を決定付けることとなった。

発売から1年後の71年12月にはフルチョイスシステムも大幅に拡充。その当時の組み合わせ表がこれ。3000万種類の組み合わせが可能になったとしている。
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