トヨタ東京自動車大学校【NASCARレースメカニック体験研修】アメリカのプロのモータースポーツ現場を肌で体験

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トヨタ東京自動車大学校(東京・八王子市、上田博之校長)ではモータースポーツ活動の一環として、アメリカで高い人気を誇るモータースポーツ、NASCAR(ナスカー)レースのメカニック体験研修を実施している。今年は7月14日から29日まで、代表学生2名が渡米しチームスタッフの一員としてレースを戦った。

学内選考により派遣が決まったのは、首藤裕佑さん(1級自動車科2年)と神長聖人さん(自動車整備科2年)の2名。首藤さんは、クラブ活動でヴィッツラリーに参加しており「アマチュアとプロでは何が違のか。プロのレースに取り組む姿勢を体験したい」と参加。一方、神長さんは「日本で未開催のレースだから貴重な体験になる」と、昨年から参加を希望し、ようやく実現した。

また、トヨタ自動車大学校の名古屋校、神戸校の代表学生2名ずつと合流し、計6名で研修に参加した。

■ナスカーを学びつつ参戦車両を製作

彼らが向かったのは、アメリカ南西部のノースカロライナ州・シャーロット。元レーシングドライバーの服部茂章さんがオーナーであるHRE(ハットリ・レーシング・エンタープライゼス)で参戦車両を製作。これと平行してナスカーのメカニック養成学校、NTI(ナスカー・テクニカル・インスティトゥート)で、競技車両のセッティングやピットワークなどを学んだ。ピットクルーは役割が決まっており、全ての担当を経験し、決勝での役割が決まる。

NTIではNASCAR車両のセッティングを学んだ
交換するホイールには、あらかじめホイールナットを接着剤で取り付けておく
数種類あるピットクルーの役割を一通り練習した

HREでは、タンドラ(米国で販売するピックアップトラック)とカムリで出場する2種類のレースに全戦参戦しており、多忙を極めた状態。レースを終えた車両は全て分解され、各部点検、修正、清掃、組立てて次の開催地へ送り出す。

学生達は現地メカニックの指示に従いながら、あるいは積極的に〝すべきこと〟を尋ね、競技車両のタンドラとカムリに仕上げた。

一方、NTIでは競技車両のセッティングのしやすさに驚嘆。「フロントのキャンバ角はシムの抜き差しで、ホイールベースは1カ所の調整で変更が可能。左右のホイールベースを変え、曲がりやすくしています(神長さん)」と、参戦費用の高騰を防ぐため、参戦車両にはアナログな部分も残されている。

■現地で緊急事態発生!

レース(7月26日、アイオワ・スピードウェイ)は、車検~練習走行~公式予選~決勝(150周)を1日で行った。チームはタイヤの銘柄を変えたことで大問題が発生。去年までの車両設定ではタイムが上がらず、限られた練習走行時間内で大幅な設定変更を強いられたのだ。

レース開催地のアイオワスピードウェイで。練習から決勝までを1日でこなした
近づく100周目のピットストップ。たかぶる気持ちと緊張感

「ありとあらゆるものを変えていました(首藤さん)」。本来現地ではしない作業を手伝うことになり、学生達には〝思わぬ〟収穫になった。

それでも予選は出走20台中5位、決勝は10位だった。決勝では100周目に一斉にピットに入り、合図と同時に燃料補給とタイヤ交換が始まる。

首藤さんは前輪のインパクトレンチ(車輪の脱着)、神長さんはインパクトレンチにエアを送るホースをコントロールした。

合図でピットロードに躍り出た首藤さんは「目いっぱいやりました。走行後のホイールは熱で膨張し外れづらく少し焦りました」と振り返った。

一方、神長さんは「練習時よりも遠かった」という位置へ、手首のスナップを効かせてホースを放り、作業を妨げないようホースをコントロール。さらに、フロントガラスの清掃(貼られているフィルムを剥がす)も行った。

現地のスタッフが学生達を気遣って動いたことで、練習にはない動きを強いられたが、学生達は機転を利かせやり遂げた。

■この研修で得られたもの

本年派遣された首藤さん(中央) と神長さん(右)。引率の坪井先生(左)

NTIとレース参戦で感じたのは「まずやってみる。だめだったら考えて行動する、という考え方(首藤さん)」。想定外の事態が発生しても、諦めずに対処することに触発されたという。

これまで、自発的に前に出る方ではなかったという神長さんは「この研修で自分からやってみようという気持ちが芽生え、今は実習で〝俺がやる〟と積極的になりました」と、変化を実感している。

プロの高いレベルの要求に応える貴重な経験を積めただけでなく、未知のこともためらわず〝とにかく挑戦〟という気概も得られたといえる。

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