【アーカイブ】日産・3代目シルビア/ガゼール試乗記(週刊Car&レジャー・1979年12月掲載)

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人気のカテゴリーは時代とともに変わるもの。近年はSUVが人気だが、70年~80年代はスペシャリティカーの黄金時代であった。その中でも特に「デートカー」として若者に人気を集めたのが2代目プレリュードやS13シルビアだが、それより以前、いわばデートカーの元祖となったのが3代目S110型シルビア/ガゼールである。スマートな外観に豪華な装備は登場とともに大ヒットし、今見ても魅力的なモデルだ。今回はその試乗記を見てみよう。

 

<週刊Car&レジャー 昭和54年12月20日発行号掲載>

54年の自動車界で目立った動きをみせたのがこのシルビア/ガゼールシリーズの高人気といえるだろう。3月にデビューしたわけだが、当初月販目標をシルビア3000台、ガゼール2000台、合計5000台とした。ところがいざふたを開けてみると予想以上の人気で6000台規模にふくれあがった。

その後8月下旬にはハッチバックシリーズを加え、さらに盛り上げている。このためスペシャリティカー市場ではあっという間に王座にのし上がってしまった。

人気の秘密は、あのシャープな切れ味のするスタイリングと走りだろう。ハッチバックシリーズの参画はヤングの心をとらえ、アダルト向きには従来のハードトップバージョンと幅広いユーザーに対応できるようになった。従来のシルビアはピーク時でも2000台そこそこ、現行シリーズが登場する直前では500台以下に落ち込んでいたから大変な様変わりである。

2000cc車が参画し、30%強を占めているのも目立っている。54年秋からは米向け輸出をスタートさせており、世界戦略車種としての重責もになうことになる。

 

・直線基調の先がけ 国産初のマイコン採用

「未来からやって来た」--このキャッチフレーズでデビューしたシルビア、ガゼールはスペシャルティカーらしいシャープなデザインにスポーティ・カーと呼んでもおかしくない走行性能、豪華装備も兼ね備えており、「あっ」といいたくなるような鮮烈な印象を感じたものだった。

シルビア、ガゼールの水平基調・直線を主体にしたデザインはセドリック、グロリア、さらにブルーバードにも採用されている。今にして思えば、80年代に賭ける日産のデザイン思想、主張がこのシルビア、ガゼールで初めて世に出たわけで、エレクトロニクス技術の発展の証明である「ドライブ・コンピューター」とともに、まさに「80年代から走ってきたクルマ」といえるだろう。

国内初装備となったドライブコンピューターはとてもシンプル。実用性よりも未来感の演出という意味合いが強かった

・スポーティと豪華さを両立

シルビア、ガゼールは3月のハードトップに続いて、8月にはハッチバックを加えたが、ともにZ20E型(120馬力)の2000シリーズ、Z18E型(115馬力)の1800シリーズの二本立て。車名とグレードのネーミング、扱い販売店が違うだけで、内容は全く同じの姉妹車だ。

シルビア、ガゼールはロングノーズ、ショートデッキの典型的なプロポーションに低い車高とワイドトレッドが最大の特徴だが、このスタイルは空力性能に優れ、実際に走ってみても直進力はシャープで、横風に対する安定性もベストだった。

Z20E型エンジンは1リッター当り61馬力という高い性能を絞り出し、9.2kgの馬力当り荷重と、どこからみてもスポーティな走行を約束してくれる。

0-100km/hは11.3秒と軽い足取りだ。1速12.287、2速3.196とヨーロッパ調のかなりなハイギアードだから当然だが立派なデータだ。しかもレッドゾーンまで踏み込んだら2速で100km/hをオーバーしたのには感心した。各ギアの守備範囲はツインカムなみの広さを持っている。

低速では加速感にとぼしい感じもしたが、追越加速はデータでは平均して高いレベルだということがわかる。とくに100km/h近くから上は力強い。

コーナリングは素晴らしい。広いトレッドと前後のスタビライザーが強力でロールが少なくほとんどフラットに回るからだ。今のところ日本では最も優れている。トーションバーを組み込んだスポーティーなパワステでシャープなコーナーもアンダーは感じない。切り返しのレスポンスもきわめていい。ハードなサスの感じだが、それでいて乗り心地は決して悪くないのだから不思議だ。2Lだが4気筒で軽いメリットを生かしてフロント荷重が少なくなっているのも軽快な回転性につながっているのだろう。したがってワインディングロードでの切り返しはお釣りがなく、きわめてスムーズだった。

またシートのホールド性の良さが目立つ。6ウェイなどの凝ったことを別にしても、コーナリングで実に安定していたし、シートポジションが低い割には長距離で疲れないのが不思議だ。

4気筒は騒音、振動で6気筒に絶対勝てないと思っていたが、その認識は改めなければならない。リアからの音の進入がややあるが、フロントは今までの常識からハミ出した静かさを保っている。

静かだから音楽が楽しい。AM・FM・TVチューナーと、ドルビー付きカセットに9W4チャンネル、16cmダブルコーンスピーカーとくれば、カーラジオと呼べるレベルの物ではない。

・スペシャルティカーの市場拡大

油圧、電圧計まで組み込まれたインパネは機能的であるとともに、夜間の美しさは空から都会の夜景を見るようだ。時計も、コンピューターもディスプレイがキレイだ。

エレクトロニクスを組み込んだこの車にはマイコンがついている。電卓機能とともにストップウォッチ、トリップやナビゲーションの演算が可能で、実に楽しい大人のオモチャである。

室内は広々として明るく、スポーティな車にありがちな頭からの圧迫感がない。2+2と思った後席はアームレストまで付き、長距離で大人の実用になる広さを十分に持っている。窓が開くのもうれしいし、フラットなルーフでこれほどヘッドルームに余裕があるクルマは少ない。

ハイギアードにものをいわせて燃費もなかなか良いレベルだ。100Km/h巡航は17.3km/L、箱根を駆けまわって8.2km/L、平均11.8km/Lは2Lスポーティカーとしては立派なものだった。

115馬力のZ18E型エンジンもなかなかタフで、かなり低回転になってもよく粘る。しかし、ギア比は燃費志向でややハイギアードになっているから、キビキビ走るにはシフト操作をマメに繰り返した方がベターだ。パンチはないが平均した加速力をみせ、高速になるほど安定した加速を得ることができる。

ハイギアードだから各ギアの、ふところが広くレッドゾーンまで回すと1速が55キロ、2速が95キロと良く伸びる。シフトパターンはレーシング型で、左上がRでその下が1速という組み合わせで慣れてしまえばクイックなドライブができる。

5速で2700rpmという回転の低さは、静粛さを与えると共に、燃費も稼いでいるはずだ。オプションの20W+20Wのステレオでなくとも、標準装備のAM/FMステレオでもかなり音質を楽しめる。

燃費は、この5速にものをいわせると高速道路で17.8km/Lも走る。長期間の平均で11.3km/L、かなりハードドライブで8.5km/Lは大きな1.8L車としては合格点だ。

ステアリングがベラボーに軽い。パワーでないから据え切りは重いが、チョッと転がるとパワーと錯覚するほどに軽い、そして相当きつい、ワインディングロードでも楽なコーナリングをする。またいくら攻めてもリアスタビライザーのせいかアンダーが消されてしまうようだ。

高速時に故意に振ったヨーイングの集束もいいが、ロック・ツー・ロックがやや大きく、その点でシャープなハンドリングではない。チョット太目の革巻風ステアリングはグッドな握りで、逆V字型スポークは握ってよし、メーターの視認性も抜群だった。

室内の仕上げはスポーティーで素晴らしいが、この種の車としてはめずらしく後席がゆったりとしている。またリアのサイドウインドウがダイヤルノブで外に開くのは雨天などの換気にはもってこいだ。ただワイパーの付いた大きなリアウインドーは、後ろから日が当たると、かなり、うなじが暑くなる。

スマートな外観は今更、説明する必要もないが、一本のワイパーというのはめずらしい。イタりーのカロッツェリアの作品にはあるが本邦、初登場だった。ボンネットのプレスがコーンシールド様なのに格納時のワイパーが室内から見えるのは、もうひと工夫ほしい気がする。

ハッチバックを開けるとリアのシートバックを倒して大きな荷物室になるから、多用途車としてはかなりな実力の持主だ。仕事にというムードではないが、かなり広範囲な遊びに向いていそうだ。

 

シルビア(ハードトップ)
ガゼール グリル形状やメッキなどがシルビアと差別化されていた
シルビア/ガゼールのインパネ。シフトレバー前に「ドライブコンピューター」が装備されている
登場当時、ガゼールのキャッチコピーは「未来から大股でやってきた」。もうちょっとスマートな言い方はなかったのだろうか?

<解説>

先代の2代目シルビアは個性的なスタイルが不評で販売も伸び悩んだが、3代目となったこのS110型シルビアは、シャープな直線基調のボディに角目4灯の組み合わせという時流にマッチしたスタイルと先進装備の採用で、登場直後から大ヒットとなった。

ちなみにこのシルビア/ガゼールが登場した79年の日産は、3月シルビア/ガゼールに続き、6月430セドリック/グロリア、11月910ブルーバードを発売。いずれも直線基調のデザインで人気を博している。まさに日産快進撃の年であった。

なおシルビアとガゼールは細部以外は共通の姉妹車。シルビアは日産サニー店、この代から加わったガゼールは日産モーター店で販売された。内容は基本的に同一だが、ガゼールの方がやや上級の位置付けとなっていた。

日産としても、先代モデルが輸出を含めて年産4万台であったところを、3代目では3倍の年産12万台を予定するなど当初から拡販を狙ったモデルであり、狙い通りの成功といえるだろう。用意も周到で、それまでサニー店専売であった2代目シルビアを、モデル末期には日産モーター店でも販売し、ガゼール拡販の下地作りをするなどの取り組みを行っている。

ハードウェアとしては手堅い作りで、サニー/バイオレットと共通のプラットフォームに、当時最新のZ型エンジンの組み合わせ。本来ラグジュアリー志向のクルマだがバランスが良く、試乗記でも走りは高く評価されている。エンジンは発売当初1800ccのZ18型シングルキャブ、Z18型EGI(EGI:燃料噴射装置)、2000ccのZ20EGIの3種類を搭載したが、のちに1800CCターボや2000ccのDOHCエンジン・FJ20E型なども搭載され、パワーの向上が図られた。

装備面は非常に充実しており、日本初となったドライブコンピューター、独自設計のコンポーネント・オーディオシステム、トータル・イルミネーションなどを採用、2000cc車には速度感応型のパワーステアリングも装備していた。機能面はもちろん、見た目の演出にもこだわっており、これもヒットの要因となったといえるだろう。なおドライブコンピューターは、トリップメーターやストップウォッチ、ラリー用計算機として使えたほか、普通の電卓としても使用できた。

不振の2代目から一転、期待以上の大ヒットとなった3代目シルビアだが、83年にバトンタッチした4代目はスタイルが不評で再び不人気車に逆戻り。「ガゼール」もこの代で終了している。しかし「アートフォース・シルビア」」として登場した5代目s13型は大ヒットとなり、雪辱を果たすこととなった。

 

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