【アーカイブ】 5代目ファミリア試乗記(週刊Car&レジャー・1980年6月掲載)

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アクセラ改め「マツダ3」が好調なマツダ。その「アクセラ」の前身となるのが「ファミリア」だ。ファミリアは1963年から2003年まで9代に及ぶ長い歴史を持つクルマだが、その中で最大のヒットとなったのが80年に発売された5代目モデル。今回はこの5代目ファミリアが登場当時、どのように評価されたのか見てみよう。

<週刊Car&レジャー 昭和55年6月21日発行号より>

■ナウいくるま「新型ファミリア」

フルモデルチェンジした東洋工業の新型ファミリアを箱根で試乗した。「ふきあがりがよく、しっかりした足回り、静かで運転し易いクルマ」というのが率直な感想だ。

試乗車は1500・3ドア「XG」5速フロア、1300・3ドア「XT」4速、そして1300・5ドア「XL」5速の順に三台。

ハンドルを握るにあたって①従来のFRからFFに切り替えてのフィーリング変化がどうか、②新エンジンEEシリーズのパワー、③FF化にともなう居住性向上とドライブフィーリングの関係、④騒音対策の効果、⑤サイズアップ、サスペンション改善によるフィーリング、コーナリング特性、などを主なチェックポイントとした。

最初に乗った1500XGの印象は「ハンドルが多少重く、エンジンのふきあがりも、思ったよりかったるい」と残念ながらあまりよい出来ではないと感じたことだった。これは、比較的急な上りコースでの試乗時の印象だ。ただ、コーナリングでの食いつきのよさ、静粛性という点では、一クラス上のカペラを上回る合格点がつけられた。

ステアリングの重さは、FF化にともなう、フロントへの車重負担が増加したことから、ある程度止むを得ないことであり、久しぶりの設計でまだ技術陣の不慣れを考慮すれば上出来と言えるかもしれない。

ギヤチェンジで気づくのはシフトレバーが短くなり、左手を下方まで延ばす必要があること。慣れないと不安な気もしたが、しばらくすると、逆にシフトし易い点に気付く。同社技術陣の説明によると「剛性を高めるために意識的に下方にセットした」のだという。シートが厚目に設計してあることもあり余計低くなった感じだ。剛性を高めるためといえば確かに説明がつく。1速、2速、3速とチェンジしていく際に「カチッ、カチッ」と小気味よく決まった感じは、ドライバーに安心感を与えるに違いない。

視界はグッと向上している。ハンドルをにぎりながら、周囲の緑、下界の風景を心ゆくまでゆったりとながめることができた。当日は快晴にめぐまれたこともあり、楽しいドライブとシャレ込むことが痛快だった。ガラス面積をワイドに確保していること、低くおさえたダッシュパネルやベルトライン、細目のピラー、大型リアウインドウが貢献している。

ガラス面積はフロント、リヤを中心に全体で15%拡大、このほかダッシュパネルやベルトラインを低くしたこと、細目のピラーと相まって視界角度を10度広げていることが効果をあげている。

シートはやや固めにセットしてありホールド性がよく、疲れない。コースでのアールのきついカーブでもシートベルトをつければ身体を左右に持って行かれることは少ない。助手席に座っていても、左のヒンジを握っていなくても、ハードなドライブにも耐えられるところがよい。

トレッドがフロント95mm、リヤ80mm拡大、サスペンションは従来の前ストラットコイルバネ、後5リンク式コイルバネから、前後ともストラット式独立懸架にしたことによって、ドライブフィーリング、操安性は抜群だ。ホイールベースの50mm延長175/70R13タイヤと相まって、コーナリングでの安定性、食いつきは特によい。

室内居住性はFFに切り替えたことによって、やはり感じ。だが数字を見ると室内長×幅×高が1705mm×1320mm×1150mmであり、従来シリーズの1750×1320×2315mmに比べ、それほど拡大・延長していない。むしろ長さについては短くなっているほど。外寸の全長45㎜延長。全幅25㎜拡大に対し、どうしたことかと疑問が生じる。これは測定法の違いからくるものらしい。アクセルペダルからリヤのヒップポイントまでの距離は43㎜も延長しており、かなり居住性はよくなっているはずなのだ。

全高は1375㎜と従来車と同一寸法なのだが、室内高は30㎜もアップしている。これは最低地上高を10㎜下げたこと、その他FF化にともなう設計上の工夫だろうが、ヘッドクリアランスの確保に役立っている。

さて、次の1300XT、同XLの試乗では意外?な印象を得た。正直言って1500でのハンドルの重さ、吹き上がりが今一歩の点が、1300ではもっとシビアな状況になるのではないかと予想していたのだが、まるで違った感覚なのだ。「ソフトでありながら吹き上がりもよく、ステアリングの切れも抜群」なのだ。静粛性、コーナリングのよさ、グッドフィーリングは1500を上回るものがある。乗る前からそれなりの予想期待感というものがあり、こうしたことにどのようなマッチングをしていたかといった、いわば最初から色目で見ていたせいがあったかもしれない。

1500の“ハード”に対して、1300は“ソフト”フィーリングなのだ。ちょっとくらいの急な登り坂もグングン登り切ってしまうし、食いつきも言うことないのだ。ただ1500とくらべ、夏の暑い時期にエアコンをきかせてのハード走行であればそれなりの差は出てくるかもしれないが、今回の試乗では1300のよさが光った。

ちなみに東洋工業の社内データでは、1300がゼロヨン加速19.8秒、1500は17.9秒と差があり、1500は高水準のふきあがりを思わせる。

100キロ/時走行での室内騒音は70デジベルと同クラス車中ではハイレベルの静粛性を誇っている。

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<解説>

見出しの「ナウい」が懐かしい。先代までのFRからFF駆動に変わった最初のファミリアだが、試乗記を読むと当時は一般的にFF車の走りに対して、それほど信頼性が高くなかったことが伝わってくる。

マツダ(当時は東洋工業)としても、FFに対して「ルーチェ・ロータリークーペ」(69年)で経験は持っていたがノウハウは十分とはいえず、自信に満ちたスタートとはいえなかったようである。

期待が高すぎたせいか試乗では1500CC車の評価が低いが、市場での人気は高く、特に「赤のXG」に売れ筋が集中。大ヒットモデルとなり、歴代ファミリアの中で最多販売モデルとなった。第1回日本カー・オブ・ザ・イヤーも受賞している。

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