日産のカーシェア「e-シェアモビ」、その取り組みと今後の展望を聞く

自動車 コラム・特集

ここ数年で急速に伸長しているのがカーシェアリングだ。レンタカーよりも手軽に、クルマが必要なときに必要な時間だけ利用できるのが、その人気の理由。公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団による19年3月の調査では、会員数は前年比23.2%増で160万人を突破するまでになっている。

このカーシェアリング市場をこれまで牽引してきたのはタイムズカーシェア、カレコ、オリックスなどだが、最近は自動車メーカーも本格的に参入を開始。ますます市場の広がりが期待されるところであるが、自動車メーカーはこのカーシェア市場をどう見ているのか、今回は「e-シェアモビ」を展開している日産自動車の取り組みについてお聞きしてみた。

まず初めに、日産のカーシェアリングサービス「e-シェアモビ」を紹介しよう。これは電動車(日産リーフ、ノートe-POWER、セレナe-POWER)を対象としたカーシェアリングサービスで、18年1月にスタートしたもの。東京、神奈川、大阪などを中心にステーションが整備され、現在、全国で500ステーションを超えるまでになっている。特徴は最新の電動車が利用できることに加え、月額料金が無料(月額1000円プランもあり)、時間料金もリーズナブルに設定され、さらに距離料金の設定がないなど、気軽に利用しやすい環境が整えられていること。プロパイロットなど先進技術を搭載した最新のEV、e-POWERを快適に利用できるとあって、人気を集めているサービスだ。

では、なぜ日産はこのサービスを始めたのか。カーシェアへの参入について、日産自動車の日本戦略本部モビリティサービス事業部主管の高橋雅典氏は、お客様の価値観が所有から利用へと変化する中で、いかに日産としての価値を提供できるか、という観点からスタートしたものだという。「クルマに対する価値観が変わっていく中で、我々も自ら新しい方向に進んでいかないと企業としての価値を提供できなくなってしまう。そこを模索する中で着目したのがカーシェアリングでした。市場はここ数年で急拡大し既に200億円のマーケットになっており、ある程度定着している。そしてこの勢いは今後もしばらく続くものと見ており、我々が取り組むテーマとして最適ではないかと考えました」。

日産自動車
日本戦略企画本部モビリティサービス事業部
高橋雅典さん

とはいえ、カーシェアサービス市場の標準的なスタイルは、既に出来上がっている。24時間、近所のステーションで手軽に借りられる、というだけなら日産が後から参入する必要もない。「そこで車種を電気自動車に絞ったんです」と高橋さん。「最初はGT-Rは置けないか?とか、いろいろ議論はあったんですけれどね」と笑う。

■将来のモビリティの在り方、サービス提供の仕方を探る

もう少し詳しく見ると、日産がカーシェアリングに取り組む狙いは二つあるという。「一つは新しいモビリティを、お客様の生活空間の中で実際に体験していただくこと。その代表が電気自動車であり、カーシェアリングを通じて利用体験していただきたい。もう一つは、将来のモビリティサービスに対しての準備。お客様のマインドや使われ方、クルマの動きなどの基礎データを構築するのに活用できないかということです」。つまり、まず電気自動車に触れてもらうとともに、将来変化するであろうモビリティの在り方、サービスの提供の仕方を探るということだ。新車を販売することで成り立っている自動車メーカーと、会員間でクルマを共用するカーシェアリングは一見相反するようにも思えるが、自動車メーカーにとっても大きな価値があるという。

■e-シェアモビの三つの柱

さて、そのような背景からスタートしたe-シェアモビだが、サービスを提供するにあたって安心・快適・気軽の3つを柱にしているという。

まず“安全”は充実した最新の運転支援機能の搭載。e-シェアモビの全車に「プロパイロット」もしくは「インテリジェントクルーズコントロール」、「インテリジェントアラウンドビューモニター」を搭載。さらに日産リーフには駐車支援機能「プロパイロット パーキング」も搭載されている。「カーシェアはクルマをたまにしか乗らない、運転に慣れていない方も利用されます。特に駐車とバックが苦手な方が多い。さらに、そもそも運転自体が不安でクルマに乗りたくないという方もいる。そこでそれらの不安を出来る限り取り除いてあげて、ドライブを楽しんでいただきたいと考えています」と高橋氏。先進技術を搭載すれば車両コストが上がるため、これはカーシェア専業事業者ではなかなか実現しにくい部分でもあり、「e-シェアモビ」ならではの大きなポイントといえるだろう。

2番目の“快適”は、電気自動車ならではの心地よい加速感や、アクセルペダルだけで加減速できるワンペダル操作といった日産車ならではの魅力が一つ。さらに専用カードの代わりに免許証を車両のキーとすることで煩わしさを軽減したり、車内清掃を毎日行うことで常に清潔な環境で利用できるようにしている。「専用カードを使う方式だと、WEBで入会登録してカードが届くまで1週間以上かかることもある。でも免許証をカードに使えば、最短で1時間くらいで使うことができます」とのこと。明日カーシェアを使いたい、という時でもe-シェアモビなら可能ということだ。また財布の中に余計なカードが加わることもないことに加え、免許を忘れたままクルマに乗る、という、うっかりミスも防ぐことができる。さらにETCカード※を搭載しているのも、嬉しいポイント。ETCカードを持っていない人でも、ETCレーンを使って気持ちよくドライブすることができる。(※料金は利用者負担)

3番目の“気軽”は、利用しやすい料金体系となっていること。入会金が無料のほか、月額料金も無料プランが選べるので、たまにしか利用しないという人でも安心だ。また他社サービスとの大きな差別化ポイントとなるのは、利用距離による料金加算がないこと。このため長距離ドライブでも気軽に利用することができる。

■若者層やクルマの所有者も利用

そんな魅力たっぷりのe-シェアモビだが、実際の利用状況はどうなのだろう。まず会員は、10代から30代までが過半数。これは40代以上が多い新車購入者やレンタカー利用者に比べて大きく異なっているという。また職業別では2割弱が学生となっており、若者層に支持されていることがわかる。「若者のクルマ離れと言われていますが、クルマに興味がなくなったわけではないということ。経済的にもクルマを利用しやすいサービスがあれば、むしろクルマに乗って楽しみたいという需要があることがわかった」と高橋さん。

一方で、クルマを所有している会員も多いという。「全体のうち35%くらいは自分のクルマを持っている。国産車も多いですが、輸入車をお持ちの方も多い」というから意外だが、これもe-シェアモビならではの特徴といえそうだ。「EVだから、ということなのでしょう。EVに対して興味はあるが、まだ購入まで至らない。体験してみたいが他のカーシェアにはない、となればe-シェアモビということになります」。ちなみに日産リーフの場合、車両コストが上がるほか、充電器の設備が必要なこともあって、他のカーシェア事業者は導入しにくいという。ただカーシェア市場全体で見た場合、いろいろな車種があった方が望ましいのは確かだ。「そこでEVは我々がお引き受けすると。これもe-シェアモビとしてEVに絞った理由の一つ」という。

また1回あたりの利用距離は、平均すると200キロ程度だが、中には900キロくらい走行する会員も。レンタカーならともかく、これはカーシェアとしてはかなり長いが、e-シェアモビは1回につき最長3日間(72時間)予約できるうえ、距離料金がないことも理由といえるだろう。このため複数のカーシェアサービスに入会し、利用時間が短い時はあちら、目的地が遠い時はこちらといったように、使い分けている会員も多いという。

■カーシェアの利点を活かした、新たな使い方の提案

さて、サービス開始から1年半、順調なスタートを切ったe-シェアモビだが、今後の展開はどのように考えているのだろうか。

まずステーションについては、今後もさらなる充実を目指す。特に需要の多い大都市圏を中心に拡充していく方針だ。

一方で、若者に向けた利用促進や自治体との連携、観光客の利用促進等も進めていく。カーシェアリングという利点を活かした、新たな使い方の提案だ。

このうち若者に向けた利用促進としては、大学生協とのタイアップを開始している。運転免許を取得する学生は多いが、その後はクルマに乗ることなく、数年後社会人になって初めて運転することになるというケースが少なくない。このため事故が多いのが大学生協の悩みだ。そこでe-シェアモビを利用することで、在学中から運転に慣れてもらおうという取り組みである。レンタカーより身近に利用できる、カーシェアならではの使い方といえるだろう。

またスキー場とタイアップし、スタッドレスタイヤとキャリアを装着した車両とリフト券をセットしたプランを提供するなど、クルマに乗る機会や目的を提案する活動も行っている。「単純にクルマに乗りたくてクルマを借りる人は多くありません。目的があってその手段としてクルマを借りるわけです。であれば、その目的もセットしてあげれば、よりクルマに親しんでいただけるのではないかと考えました」と高橋さん。今後はキャンプ道具とセットしたプランなども提供したいという。

また自治体との連携では、既に沖縄県名護市でスタートしている。平日は市役所の公用車として利用し、休日は一般のカーシェアとして利用してもらうというもの。会員の利用が週末に集中する傾向はカーシェア各社の大きな課題となっているが、これを解決するための取り組みでもある。

沖縄県でスタートした名護市との連携

また沖縄県内では、地元のホテルや道の駅、バス会社等とも連携して観光客の効率的な移動も目指している。というのも沖縄への観光客はまず那覇空港に到着、そこからレンタカーで県内各地に移動するケースが多い。このため那覇市内に交通が集中し、慢性的な混雑に悩まされているからだ。「東京から沖縄までの時間と、沖縄についてからレンタカーを借りるまでの時間が同じくらいかかることもある。さらに多くのレンタカーで市内も渋滞し、地元の人も生活にも影響する。そこでまず那覇からリゾート地まではまずバスや船で移動していただき、その周辺の観光にはe-シェアモビを利用してもらうという形での活用に取り組んでいます」。

■EVならではのドライブを楽しんでほしい

最後に高橋氏は「経済性だけではなく、EVならではのドライブをもっと楽しんで欲しい。環境規制でガソリン車では行けなくなった場所でも、EVなら行けるところもあります。これからもe-シェアモビだからできる新しい楽しみ方を提供していきたいと考えていますので、ぜひご期待ください」とのこと。今後もますます楽しみなところだ。

<NISSAN e-シェアモビ公式サイト>

Tagged