美しく、そして速い! BMW 8シリーズ クーペ試乗記

試乗レポート

BMWクーペラインアップの頂点に立つのが「8シリーズクーペ」。存在感のある流麗なデザインとBMWの最新技術の投入による高い走りのパフォーマンスが特徴だ。今回はこの8シリーズクーペ「M850i xDrive」を箱根周辺で試乗した。

  

ボディサイズは全長4855mm×全幅1900mm×全高1345mmと低く構えたロー&ワイドな伸びやかなフォルムが美しい。遠くからも一目でそれとわかる最上級2ドアクーペにふさわしい堂々たるスタイルだ。とはいえ、全幅1.9mはやはり大きく、さらに車両重量は約2tもある。高速道路の直線を淡々と走るならともかく、やや狭い箱根のワインディングでは持て余し気味になるのでは、と思ったのだが、実際に試乗してみると想像とはまったく違った。大きなクルマにありがちな余計な動きがまるでなく、あたかもコンパクトスポーツを運転しているような感覚なのである。思った通りに向きを変え、機敏にコーナーを走るクルマとの一体感がとても楽しい。

一方で、乗り心地の良さも特筆できるもの。平坦な真っすぐな道を走っているときはもちろんだが、急カーブと急勾配が連続する山道に入っても、その快適性が損なわれないことには驚かされた。室内は常に静粛性が高く、荒れた路面でも滑らかな乗り心地は変わらない。ギャンギャン走っている最中なのに、室内は振動もなく静かなままで、そのギャップに少し違和感を覚えるほどだ。

これを実現しているのが「アダプティブMサスペンション・プロフェッショナル」である。従来のダンパーに加え、電子制御アクティブ・スタビライザーを装備したもので、ロール特性を調整するという。またステアリングには「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」を装備することで、操車時の最小回転半径を小さく抑え、高速コーナリング時の走行安定性を向上させている。つまり、その心地よい走りは裏でハイテク技術による緻密な制御があってこそなのだが、それを感じさせない絶妙なセッティングが施されている。

また搭載する新開発の4.4L・V8エンジンは、最高出力530ps、最大トルク750Nmの大パワーを発揮するが、一方で低速域での細かなアクセル操作にも素早く反応してくれることも、この一体感につながっているのだろう。ちょっと踏んだだけで一気に大パワーが立ち上がるといったピーキーなところがないので、街中や山岳路でも運転しやすいエンジンである。もちろん、大きく踏み込めばパワーをフルに発揮。その際の加速は上級スポーツカーにも匹敵するほどである。ちなみに0-100km/hは3.7秒。まさに圧倒的な速さだ。

室内空間は上質な素材がふんだんに用いられ、高級感のある落ち着いた雰囲気。ただ基本的な操作系の配置などは他のBMWモデルと共通しているので特別感はなく、そこはいかにも機能優先のBMWらしい。アクセントとして、クリスタル製のシフトノブが目立つ程度である。また一応後席も備えるものの、パッケージは完全に前席重視で、大きなボディにもかかわらず後席はとても狭い。荷物置き場として割り切った方が良さそうである。この辺りもまた最上級クーペならではの贅沢さといえるだろう。

  

速さを取るか、快適性を取るか、という選択肢はこの8シリーズクーペにはない。両方を圧倒的な高次元で両立させるのが、この新世代ラグジュアリークーペなのである。価格は1714万円と高価だが、それも十分に納得できる内容である。(鞍智誉章)

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