歴代カーオブザイヤー受賞モデルで振り返る 平成クルマ史(その3・平成21年~平成30年)

コラム・特集

平成も半ばを過ぎるとハイブリッド車の本格普及が始まり、EVも登場。そして輸入車が初めてCOTYを受賞するなど多様化が進み、受賞車もバラエティに富んだ顔ぶれに。SUVの増加も大きな流れとなり、平成最後は2台のコンパクトSUVが選ばれる結果となった。

 

・平成21年(2009年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:トヨタ プリウス
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:ホンダ インサイト

 

この年はハイブリッドの2モデルが白熱の争いを演じた。まず09年2月に189万円の戦略価格で2代目インサイトが登場。次いで5月に3代目プリウスが登場したが、インサイトに対抗して従来よりも価格を下げ、さらに旧型プリウスもより価格を下げて併売、さらに3代目プリウスはトヨタ初の全店販売という手も打ち、激しい販売競争が繰り広げられた。

よく似た外形の2台だが、搭載するHVシステムは大きく異なっている。インサイトはエンジンが主でモーターがアシストする簡易型のIMAを搭載、一方プリウスはエンジン、モーターを併用するTHSⅡを搭載している。ちなみにJC08モード燃費はインサイトが26.0km/L、プリウスが32.6km/Lでプリウスの圧勝である。

この3代目プリウスが登場する以前の本格HVシステムは高価だった。だったら性能は少し落ちても廉価なHVシステムを搭載し、車両価格を安くすれば売れるはず、というのがインサイトの考え方だった。が、これがトヨタを刺激し、3代目プリウスは本格HVシステムを搭載しながら価格を下げて正面からぶつけてきたのだからたまらない。販売面でもインサイトは厳しい戦いを強いられることとなった。

COTYはプリウスのクルマとしての完成度の高さ、環境性能の高さを評価した順当な結果だ。一方、RJCはインサイトのシンプルな構造やコストダウン技術を高く評価した結果となった。当時、ハイブリッド車はまだ高く、本格普及させるためには低価格化が重要視されていたからである。インサイトがなければ3代目プリウスも戦略的な価格を設定することはなく、その後の普及の速度はもう少し緩やかだった可能性が高い。その意味でインサイトの果たした役割は大きかったといえるだろう。

 

・平成22年(2010年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:ホンダ CR-Z
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:スズキ スイフト

 

この年の主な国産ノミネート車は受賞した2台の他は、タイ生産で話題になったマーチのほか、プレマシー、マークX、RVR、フィットハイブリッドなど。08年秋のリーマンショックで開発中止や延期になった新型車も多かった影響なのか、正直なところ少々寂しい印象である。

その中でCR-Z、スイフトに共通するのは「コンパクトかつ走りの楽しさ」を追求したこと。走りは犠牲にしても環境優先、という風潮から少しずつ潮目が変わってきた時代だったといえるだろう。

COTYを受賞したCR-Zは2+2のライトウェイトスポーツで、1.5Lエンジン+IMAを搭載するハイブリッド専用車。当時はCR-Xの再来とも言われたモデルだ。

スイフトは3代目(グローバル車になってからは2代目)で、先代に続いてのRJC受賞。プラットフォームを一新し、居住性・走行性能を高めたことに加え、CVT車は副変速機付CVTを搭載し、燃費性能も向上させている。

 

・平成23年(2011年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:日産 リーフ
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:日産 リーフ

東日本大震災により日本中が大混乱した年。COTY、RJCともに選んだのはEVの日産リーフで、これは納得できるところ。量販乗用EVとしてはそれまでもスバル「プラグインステラ」、三菱「アイミーブ」があったがともに軽自動車であり、国産登録車としてはリーフが初だからだ。本格的にEV時代が幕を開けたのがこの年だったといえる。

登場時の走行距離は満充電で200km(JC08モード)。その後中期型で228km、後期型では280kmモデルも追加された。

航続距離や充電インフラ、また車両価格の高さなど課題も多く、クルマとしての完成度の高さよりも、EV普及の礎となったこと、またガソリン車にはない新鮮なドライビングフィールが高く評価されての受賞となったといえるだろう。新しいパワートレーンがユーザーの選択肢に加わったという意義は大きい。

 

・平成24年(2012年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:マツダ CX-5
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:日産 ノート

 

マツダの次世代技術「SKYACTIVE」テクノロジーは11年にデミオ、アクセラへの部分搭載からスタートしたが、これを全面搭載した初のフルSKYACTIV搭載車がCOTYを受賞した初代CX-5。2Lガソリンエンジンと新開発の2.2Lディーゼルターボ「SKYACTIV-D」を搭載したが、特にディーゼルとクロスオーバーSUVの相性は良く、登場と同時に大ヒット。現在まで続くマツダ躍進の立役者であると同時に、ミドルクラスSUVの人気を押し上げる要因ともなったモデルだ。

一方RJCを受賞したのは2代目ノート。実用性の高いグローバル・コンパクトカーとして開発されたモデルで、運転のしやすさ、車内空間の広さ、環境性能の高さなど総合的なバランスの良さが評価されての受賞となった。その後、2016年のマイナーチェンジ時にe-POWERも加わり、現在までトップセラーを続けている。

 

・平成25年(2013年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:VW ゴルフ
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:マツダ アテンザ

 

1980年に始まったCOTYで、輸入車が初めて受賞したのがこの年。国産車では3代目フィット、アウトランダーPHEV、14代目クラウンなどもノミネートされたが、これらを抑えて受賞したのは7代目ゴルフ。その実力が抜きん出て高かったということもあるけれど、国産車もグローバル車が多くなり、輸入車との境目が曖昧になってきたという事もありそうだ。

なおVWは現在「MQB」プラットフォームの採用を進めているが、その第1弾となったのがこの7代目ゴルフである。完成度の高さで定評のあった6代目ゴルフを上回る実力の高さ、特に走行性能と乗り心地を高レベルで両立したことが評価されたといえるだろう。

RJCは3代目アテンザが受賞。「SKYACTIVEテクノロジー」のフル採用に加え、「魂動デザイン」を採用したマツダのフラッグシップモデルである。Dセグメントのセダンとしては軽快な運動性能と、クリーンディーゼルの搭載などで評価された。

 

・平成26年(2014年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:マツダ デミオ
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:スズキ ハスラー

 

「SKYACTIV」テクノロジーの採用以来、波に乗るマツダがCOTYを受賞。モデルはグローバル・コンパクトカーの4代目デミオだ。魂動による優れたデザインや新開発の1.5Lディーゼルターボの搭載など、従来の国産コンパクトカーにない魅力にあふれており、受賞も納得できるところだ。

一方RJCは、大ヒットとなったハスラーを選出。ワゴンRをベースにクロスオーバーSUVに仕立てたモデルで、斬新なデザインが目を引くが、軽自動車としては高い最低地上高180mmの確保するなど、SUVとしての実用性も高い。見ただけでワクワクする愉しさにあふれたデザインは傑作だ。当初スズキとしてはそれほど売れると考えていなかったため生産キャパが足りなくなり、納期が長期化。あわてて生産ラインを増設するハメになるほどであった。

 

・平成27年(2015年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:マツダ ロードスター
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:スズキ アルト

 

COTYはマツダが連続受賞、RJCはスズキが連続受賞となった。たまたまかもしれないが、当時この2社が勢いに乗っていたということなのだろう。

ロードスターは4代目で、3代目に続いてのCOTY受賞。ボディが拡大された先代から一転して、4代目では再び小型化、エンジンも1.5Lにダウンサイジングされ原点回帰。初代、2代目のロードスターファンを喜ばせた。大幅な軽量化を実現することで心地よいハンドリングを実現しており、ロードスターらしいロードスターだ。

アルトは8代目モデルだが、こちらも「原点回帰」を強く意識して開発されたのは面白いところ。シンプルで低価格という初代アルトの魅力を現代に復活させるべく気合の入ったモデルとなった。特筆すべきは新設計のプラットフォームの採用で、これにより軽量化と高剛性化を両立。エンジンの改良も加わり、結果として高い走行性能と燃費性能も実現している。スポーティグレードの「ワークス」が復活したことも、高い評価につながっている。

 

・平成28年(2016年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:スバル インプレッサ
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:日産 セレナ

 

5代目セレナがRJCカーオブザイヤーを受賞。ミニバンのカーオブザイヤー受賞は初代オデッセイだが、スライドドアの本格ミニバンが受賞するのはこれが初。ミニバンの進化を印象付けるものとなった。受賞理由はミニバンとしての使い勝手を徹底的に追求したことで、具体的にはハンズフリースライドドアやデュアルバックドアの採用などが挙げられているが、評価を決定づけたのは自動運転技術「プロパイロット」を搭載したことだろう。なお、このプロパイロットそのものもRJCテクノロジーオブザイヤーを受賞している。

一方COTYは5代目インプレッサが受賞。新世代プラットフォーム「スバル・グローバル・プラットフォーム」を初採用したことで走行性能を飛躍的に向上させ、高い評価を獲得したが、これに加えて国産車初の歩行者保護エアバッグの採用やアイサイトの標準装備化など、高い安全性を実現したことも評価につながっている。

両車に共通するのは「プロパイロット」「アイサイト」といった先進安全・快適装備を低価格で提供したこと。特にプロパイロットは「自動運転技術」とアピールしたことで物議も醸したが、部分自動運転を広く認知させる役割も果たしたといえるだろう。

 

・平成29年(2017年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:ボルボ XC60
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:スズキ スイフト

 

ボルボが初のCOTYを受賞。なお輸入車がCOTYに選ばれるのは、2013年のゴルフ以来2度目のことだ。

XC60は新世代ボルボの中核となるミドルサイズSUVで、2代目となるモデル。新世代プラットフォームの採用による優れた走行性や居住性、ボルボならではの高度な先進安全技術などが世界中で高く評価され、COTY以外にも北米SUVオブザイヤー、英国カーオブザイヤー、ワールドカーオブザイヤーなどを受賞している。

一方RJCを受賞したスイフトは4代目モデル。先々代、先代モデルに続いて3代連続でのRJC受賞となった。高い基本性能に加え、標準モデルからスイフトスポーツまで幅広い仕様が用意されており、幅広い選択を可能としたことも受賞の理由となった。

 

・平成30年(2018年)
日本カ・オブ・ザ・イヤー:ボルボ XC40
RJCカー・オブ・ザ・イヤー:三菱 エクリプスクロス

 

勢いに乗るボルボが、2年連続COTY受賞!輸入車で2年連続は初のことで、新世代ボルボの評価の高さが証明される結果となった。前年受賞のXC60以上に、コンパクトSUVのXC40は日本の道路環境にマッチしており、高評価につながったようだ。

RJCは三菱エクリプスクロス。三菱としては4年ぶりという久々の新型車で、RJC受賞は「i」以来12年ぶりの受賞となった。スタイリッシュなコンパクトクロスオーバーSUVだが、高い走行性能や悪路走破性を持ち、実用性にもこだわった実力派クロスオーバーSUVである。

 

というわけで、初代セルシオで幕を開けた平成は、ボルボXC40と三菱エクリプスクロスで終幕。セダンから始まりSUVで終わるという人気カテゴリーの移り変わりを象徴する結果ともなった。

さて今年のカー・オブ・ザ・イヤーは、「令和」初のカー・オブ・ザ・イヤーになる。果たしてどのクルマが受賞することになるか、今から楽しみだ。

 

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