【車屋四六】ヒトラーのハッタリ宣伝による洗脳

コラム・特集 車屋四六

近頃、良い商品も知名度がないと買ってくれないことがある。
そこで登場するのが宣伝広告。その最たるものが酒と化粧品だろうが、自動車もかなりなものである。

宣伝には、俳優、歌手、アスリート、時には女子アナなども登場するが、単に知名度が高いというだけの理由である。逆にBSの藍ちゃん、ダンロップのさくらちゃんなどは人気プレイヤーだから理にかなっている。が、私愛用のゴルフクラブ{カタナ}と道場六三郎…ゴルフは上手だが一般的には有名料理人である。

一見無責任ともとれるが、それで売上げが伸びるなら文句を云っても始まらない。いずれにしても平和な時代の商法だが、戦争道具に使われると、売上げで目的より近隣諸国への威圧行為である。

ここに一枚のポスター(写真トップ)がある。1939年のベンツの広告である。メルセデスだから乗用車用で、最新戦闘機エンジンと同じ技術だよとイメージを、ユーザーの頭に摺込もうというのだ。

絵の中央は、ダイムラーベンツDB106航空発動機で、39年3月30日ハインケルHe112Uが746.6㎞の世界記録樹立、次いで4月20日メッサーシュミットMe109Rが755.11㎞で記録更新と自慢し、乗用車エンジンも同じ技術だよと云いたいのだ。

が、この広告は、WWⅡ終了後にガセネタと判る。Me109戦闘機は、大戦中の傑作として誰もが認める戦闘機だが、記録樹立の速度がガセだったのだ。

WWⅡ開戦時、世界最新鋭戦闘機のゼロ戦や隼、スピットファイアー、カーチスなど、どれもが最高速度500㎞を超えた程度だから、755㎞は世界最速最強と驚異の目を見張り、特に欧州の列強に、我々の戦闘機では太刀打ちできないと恐怖の念を植付けたのである。

が、WWⅡが終わったら、こいつはヒトラーが企んだハッタリ宣伝に世界が振り回されたのだと判った。パリダカで活躍した三菱パジェロのようなもので、姿は似てるが中身はまるで別物というのと同じ、もちろん三菱に悪意はないが。
39年当時、Me109の実力は550㎞、そのままでも最速戦闘機だが、周囲に脅威を与えるほどのものではない。

同じ39年のポスター:ヒトラーは強いドイツ象徴の一手段に自動車レースを選んだ:グランプリで1.2位独占と誇らしげなベンツのポスター

国鉄スワローズの金田正一400勝投手は初対決の長嶋茂雄に、新人相手に全力投球で連続三振を取った。こいつは将来大物と感じ、その前に金田は強いと、頭に摺込んだのである。

ヒトラーも、世界最速最強を世界の戦術家の頭に叩き込み、対戦相手に恐怖心を摺込むことに成功したのだが、その信用をチャッカリ頂戴したのがベンツの広告だったのである。

もっとも、このDB106自体は傑作で、日本では川崎が陸軍機用に、愛知が海軍機用にライセンス生産した。川崎の飛燕は大戦末期米軍を悩ませ、愛知の彗星攻撃機は高速を利して偵察機にもなり、南方戦線では追尾を振り切り「我に追いつく敵戦闘機なし」と打電した有名なエピソードも生まれた。
DB106諸元:倒立液冷V型12気筒1150馬力。

彗星/九段遊就館蔵:手前日本名アツタ21型=DB106型…被弾墜落機を海中から引揚げ復元/排気管に銃弾の跡が/後部丸い部分はスーパーチャージャー
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