【車屋四六】シムカアロンド

コラム・特集 車屋四六

シムカは、とうに忘れ去られた名前だ。が、WWⅡ以後の輸入外国車全盛の頃、少数輸入されたから、オジンのマニアには懐かしいフランスの車である。

輸入元は大和自動車交通(株)東京銀座中央区一丁目五番地とあるから、かつて大日本帝国と呼ばれた四大大手の大和自動車だろう(大=大和、日本=日本交通、帝=帝都、国=国際。戦争中軍部の都合で東京地区四社に統一された)。

50年代は私が自動車に夢中だった頃だから、外車のショールームはほとんど回っているはずなのに、シムカは見忘れていたようだ。場所が銀座界隈だったはずなのに手落ちである。

写真トップはフルモデルチェンジしたばかりの51年型シムカ9アロンド。以後10年間も売り続けたヒット商品だ。シムカ社はアロンドの成功でフランス四位メーカーになる。

アロンド9は全長4064㎜、全幅1559㎜、ホイールベース2444㎜。車重955㎏。直四気筒OHV、1221㏄、圧縮比6.7、45hp/4400rpm。フルシンクロ4MT。FRで前輪Wウイッシュボーン/後輪半楕円リーフ・リジッドアクスル。

評判よく売り上げを伸ばすアロンド9は、その後、ハードトップクーペ、クーペ、コンバーチブルとバリエーションを加えていく。エンジンも1290㏄へと強化する。

成功したアロンドは、シムカ社にとり画期的作品だった。というのも自社開発で、それまでのシムカの車は、全てフランス製フィアットだったからだ。

イタリア車がフランス製?。戦前からフランスは国産車優先、輸入車には高額な関税を掛けていた。そこでフィアットの輸入エージェントが巧妙なカラクリを考え出したのだ。

イタリアで完成直前のフィアットを、部品の名目で輸入。シムカ社で組み立て「これはフランス製」と称したのだ。昔から論より証拠と云うが、このフランス車の組み立てライン、全長僅か30米というのだから、まさに逃げ口上の道具まるだし。

が、とにかくフランス製フィアットは成功で、その後も何種かのフィアットをフランスで組み立てた。その中には有名なフィアット500トポリーノにはシムカ5の名が与えられていた。

いずれにしてもフランス製フィアットでシムカ社の基礎が固まり、フィアット1100をベースに自社開発のボディーでアロンド9の登場となる。その後の角張った姿のシムカ1000は、日本でも見かけるほどに走っていた。

元気なシムカ社は、54年フランスフォードを買収。59年には高級車の老舗タルボも傘下に収める。が、一転して63年、欧州進出を狙うクライスラーの手で強引に買収される。その後マトラ社も傘下に収めるが、79年景気後退のクライスラーは、シムカをPSA(プジョーシトロエン・グループ)に売却する。(写真右:晩年のシムカ製品。アロンド9のバリエーションを中心に、トラクターから大型トラックまでの幅広いラインアップ)

PSAは、シムカよりタルボの名を選び、車名をシムカから往年の高級銘ブランドのタルボに替える。が、86年で生産終了後、会社はPSAに完全統合された。取材でタルボ・サンバと呼ぶ、可愛らしいオープンモデルを取り上げたのが、私の楽しい想い出として残っている。冒頭、アロンドの輸入は大和自動車と書いたが、重複時代が合ったのか、クライスラー時代になってからなのか、60年代末まで国際興行も輸入販売をしていた。