【車屋四六】珍奇な車イソ・イセッタ

コラム・特集 車屋四六

自動車に詳しいオジンなら、写真を見てBMWと思うだろうが、違うのだ。日本同様敗戦の憂き目にあい、貧乏経済から立ち直ろうという過程で、ドイツにはたくさんの軽自動車が生まれたことは、既に何度も紹介したことである。

戦闘機や爆撃機で有名なハインケル社にも同様な姿の車があったが、BMWが二輪用250㏄エンジン搭載、54年~63年まで造った軽自動車も同じタイプ。その原型が写真のイセッタである。

イセッタは、イタリーのイソ社の軽自動車だが、53年~55年まで、僅か3年間という短命だった。WWIIでイタリーは、日独伊・三国同盟で連合軍と戦い、国中が戦場になり荒廃したから、戦後は旺盛な小型車需要があった。

そんな多くの仲間達の中で、営業的に成功作とは云えないイセッタが有名なのは、奇抜な発想の珍奇な姿である。二輪やスクーターより少々高くても、雨に濡れず、停車で倒れない願望で、多くの軽が生まれた中の一台だった。

コストダウンを徹底し、四輪なのに極端に狭い後輪トレッドでデフを省略。2サイクル空冷236㏄9.5馬力(4000回転)で後輪をチェーン駆動。500㎜の後輪とは対称的に前輪トレッドは1200㎜。

これぞ極めつけという部分は、一枚だけのフロントドアが前方に開く。そのドアに、ハンドルもコラムも一緒に付属したままという仕掛けは、初めて見ればビックリだ。

エンジン機構はメカに詳しければ気になるダブルピストン型。こいつは一見並列二気筒だが、上部が逆U字型で、頂点にスパークプラグが一本。で、片方を吸気に使い、片方で排気する、2サイクル特有の燃焼ガスの吹き返しを防ぐことで生まれた型式である。

BMW伝統二輪用エンジン搭載で息を吹き返したBMWイセッタ。独特なハンドル機構、シフトレバー、サイドブレーキ、ペダル構造が判る。幌屋根、後部に荷台が見える

が、イセッタでは振動と騒音、そして価格の割高が、3年間という短命の理由だったようだ。ちなみに、イセッタの値段の11%高でシトロエン2CVが、28%高でフィアット500Cが買えるとすれば、どちらが良いかは明白だ。

全長2250㎜、全幅1340㎜、全高1320㎜。ルーフは巻き上げ式キャンバス。車重330㎏は軽らしき軽量さ。公称燃費26.7km/l(タンク14L)。4MTはフルシンクロでコラムシフト。

とにかくユニークさでは天下一品だが不評で短命。が、戦後高級車で再出発のBMWが経営に行きづまり、大胆なリストラと共にイセッタを買いとり、不評原因のエンジンを伝統のR25=250㏄搭載で大成功するのは衆知の通りだ。

もっともイセッタ型は好評で、フランスではVELAM社がライセンス生産。また後輪が一輪ではあるが、そっくりのハインケルも好評で、イギリスでもトロージャンの名で生産された。

ごく僅かだが日本にも輸入されて東京でも見かけた。輸入されたモデルはイセッタ200(198㏄)。最高速度85km/h、燃費30km/lとカタログにあった。

一度イセッタに乗ったことがある。日本橋白木屋デパート(後の日本橋東急→コレド日本橋)の横に二人連れの中年婦人が乗ってきた。

「珍しいですね」と声を掛けたら、私が乗っていたMG-TDを見て「これから銀座松屋に行くのですが取り替えましょうか」ということで、昭和通り経由で銀座までの体験だった。

松屋の横では、頭から歩道に向けて駐車してドアを開けたら、そのまま歩道に降りることが出来て、こいつは便利だと思ったことを鮮明に覚えている。

BMW600:後席を追加、600㏄エンジンで100km/h巡航可能。アウトバーンでメッサーシュミットと張り合えるようになる