【車屋四六】日本の三輪自動車バンコクを走る

コラム・特集 車屋四六

昭和40年代初頭、というと1965年頃だが、ローマからの帰り道、少し懐に金が余っていたのでバンコクで途中下車。いや、飛行機だから途中下機が正しいかも。

いずれにしても、四発ジェットのダグラスDC-8を降り、出国手続きを終えて外に出る。その日も、しつこく「安いヨ」を連呼する白タクの勧誘を無視して、タクシー乗り場に向かって歩いていると、目の前に停まった青いタクシーから可愛いタイ娘が降りてきた。

思わず立ち止まり見入った。かわいい娘につい目がいくのは、正常な男どもの悲しき?習性だが、実は、見つめた先は青いタクシーの方だった。前から一度乗ってみたかった三輪タクシー、ダイハツミゼットである。(写真トップ:60年代半ばバンコクを走るミゼット二代目のタクシー。一つ目玉の初代よりベンチも良くなり乗り心地も良くなったと云うが、我々にはひどいもので尻が痛かった)

ミゼットそのものはダイハツ製だから良く知ってはいるが、タクシー仕様、それも外国だからこそ乗ってみたかったのだ。日本では、以前紹介した高田屋嘉平の孫、嘉七が一時持っていたので良く乗った。彼はタキシードを着てミゼットに乗り、クラブに乗り付け、驚くドアボーイに喜んでいた。

興味ありげに青いタクシーを見つめる私の目と、運転手の目が合うと、運転手がニコッと歯を見せて笑った。運のつきだった

「危ないから空港リムジン(公認タクシー)以外乗っちゃだめ」とタイIBMの知人からきつく云われていたのだが、あんな可愛い娘が乗っていたのだから危ないこともなかろう、人の良さそうな顔だし、と勝手に決めて乗り込んでしまった。

これで事件が起これば、物語がいっちょう上がりだが、残念ながら、というよりは幸いなことに、無事にオリエンタルホテルに到着。ドアを開けてくれたドアボーイ「お客さんあぶない」と首を振ったあと、運転手と話して料金をぼられることもなかった。

もちろん料金メーター無しだから、乗る前に値段交渉が必要なのだが、タイ語などわからないからホテル名を云って乗ったのだ。後になって思えば、危険に合わずとも、料金をぼられて当たり前の状況だったのである。

四年ほど前のバンコク国際自動車ショー展示のトゥクトゥク特装車。マホガニーのミニバー付き。現在はタイ唯一のメーカーとして活躍している

バンコクのミゼットタクシーは、丸ハンドルの後期モデルだが、日本から輸入された三輪ピックアップトラックの荷台を改造、左右向かい合った板のベンチシートを取り付け、上に幌の屋根を張っただけといういい加減なものだった。

そもそも初代ミゼットの誕生は昭和32年。その頃は未だ大型三輪トラックが大手を振って日本の流通を担っていたから、小型の三輪トラックに違和感はなかった。もっとも小型三輪では、ホープスター、マツダ、サンバーなどの先輩が既に居た。

後出しジャンケン有利の例えどうり、後発ミゼットは値段で勝負だった。先輩たちが元来貧しい三輪を良く見せようと飾っていたのに、ミゼットは無駄を廃し機能優先で追い込んだ値段が、18万5000円―格安だった。
日本で一世を風靡したのは、CMの効果も見逃せない。当時関西で人気絶頂の大村昆と佐々十郎をCMキャラクターに起用。それを人気絶頂TV番組、昆チャン主演の「やりくりアパート」と共に放映、見事な連係プレーが相乗効果を上げたのである。

初代ミゼットは、一つ目玉でバーハンドル、跨る前席は一人掛け。サイズは全長2540㎜、全幅1206㎜、全高1515㎜。車重316㎏。エンジン出力10馬力だった。

一方バンコクでも見かけた二代目は、二つ目になり丸ハンドル。ドアが付いた前席がベンチシートで二人掛け、スタイルも向上。もちろんサイズも一回り大きくなって、全長2885㎜、全幅1290㎜、全高1510㎜に進化していた。
エンジンも305㏄と拡大して12馬力にアップしたが、車重も401㎏と重くなった。で、最高速度の65km/hは初代と同じだった。ちなみにドアが付き居住性や快適度が向上したから、22万円で4万円アップしたが仕方のないことだ。

ダイハツからミゼットが輸入されていた頃既に、タイではコピーが生まれタクシーで活躍を始めたが、輸入が停まるとコピー問題は解消、タイの国産メーカーに発展し、今日では大メーカーである。

今ではタイ唯一の国産車としてモーターショーの常連でもあり、タクシーだけではなく、乗用車、トラック、ゴミ収集車、保冷車、ダンプカー、小型バスと、バリエーションも豊富で、毎回、特装車が会場の目玉として展示されている。

三輪タクシーも東南アジアに定着し、タイではうるさい排気音から”トゥクトゥク”のニックネームも生まれて、今でも活躍している。インドネシアでも活躍しているそうだ。

21世紀も健在タイ民衆の足として活躍するトゥクトゥク。安いが、メーター無しなのでタイ語で値段交渉の必要があるので観光旅行者向きではない