【車屋四六】続:ソ連の自動車

コラム・特集 車屋四六

せっかくソ連から親友高田嘉七が、たくさんの写真を撮ってきてくれたのだから、もう少し紹介しよう。

彼の撮影は1987年。当時のソ連は、85年誕生のゴルバチョフ政権で、スローガンはペレストロイカ=改革、グラスノスチ=情報公開で、着々と改革が進み、91年に自由主義国を隔てていた鉄のカーテンが開いて、冷戦が終結した。

第二次世界大戦終結後から70年頃までのソ連は成長経済だったが、それ以後低迷していたところへのゴルバチョフ登場で、一党支配体制がもろくも崩れる切っ掛けとなったのだろう。

で、高田嘉七の訪ソは、カーテンが開く直前だったということになる。が、まだソ連は社会主義国家、というわけで、自動車メーカーは全て国営企業だった。

当時の自動車メーカーを調べたら、VAZ、GAZ、ZAZ、ZIL、Iheなどを含めて7社ほどあったようだ。いずれにしても親方日の丸的経営で、エンジンや主要部品をたらい回しで、各社スタイリングとブランド名を替えて売るという車造りだったようだ。

さて、そんな時代の末期に登場した車で、まずはラダノーバ。ラダは庶民の車として有名だが、ノーバは、1300、1500と、高級バージョン1800があってFR。78年生産開始で、年間70~100万台を供給、いわばソ連のカローラといったところだ。

この車、評判が良いのだが理由が面白い。値段が安いは当然として、すぐ壊れる?というのだ。が、とにかくたくさん売れて部品豊富、構造簡単ですぐ直る。ソ連時代、すぐに直るというのは歓迎すべき要素だから、壊れるという定評に打ち勝って人気者になれたようだ。

モスクビッチは第二次世界大戦後すぐに売り出され、後発のラダと共にソ連時代では大衆車の双璧をなす車だ。写真は5ドアハッチバックだが、4ドアセダンもある。

モスクビッチ:写真は5ドアだが、もちろん4ドアセダンもある。ルーフラック、オプションのフェンダーミラー+運転席側ドアミラー、オーナーは裕福な車好中産階級かもしれない

写真はないが、ラダなら日本でも有名なのがラダ・ニーバ。ニーバは78年生産開始、80年四輪駆動を追加して世界初の四輪駆動乗用車と名乗ったが、その前既にアウディ・クワトロがあるし、更にはスバルがあるから、強いて云えば世界三番手である。

いずれにしても、ラダニーバは日本にも輸入されているので名が知れているし、ラリーのパリダカで上位入賞するほどの実力の持ち主だが、とにかく70万円という価格が安く、廉価版乗用四駆車でなら世界初を名乗って良いだろう。

前回の「ソ連の自動車」で紹介のモスクビッチ初代を思いだして頂きたい。敗戦のドイツからオペル・カデットの工場を、丸ごとモスクワ近郊に運んで生産という歴史の持ち主である。

さてクラッシックな姿の乗用車はフォード。V8のバッジが写っていないが、1932年登場の米国で有名な大衆車用V8。スタイリングから、1937年登場の2ドアセダンである。

フォードは、早くからイギリスに進出、次いでドイツにも工場を建設したが、いずれも100%出資の子会社というのが特徴。はじめ写真のフォードは1937,8年頃のドイツ製と思ったが、ドイツ製ならヘッドランプが昔風独立型で、写真のようなボディー内蔵型は、37年にアメリカに登場したものと判った。

で、多分、戦前にヨーロッパに輸入されたものが、ソ連に行き着いたといったところではないだろうか。いずれにして、終戦直後の日本同様、古い車を直しながら使うということで、生き残っているのだろう。コンディションは悪くない。

フォードV8:コンディションの良い戦前のフォードが実用されている姿を見ると、マニアとしては嬉しくなる。アメリカで生まれて随分と長旅だったろう。奥はボルガ

フォードの奥に写っているのは、どうやらGAZ社製のボルガのようだ。だとすれば、70年生産開始の一般ソ連国民が買える乗用車としては高級で、いわば日本ならクラウンクラスである。

とにかく、性能はともかく、かなりな量産規模を誇る車もあったようだが、第76話で紹介の、共産党幹部専用のロングホイールベースのチャイカなどは、年産200台ほどだったようだ。

さて、いきなり近代的話になるが、GMがオペル売却を表明して、フィアットなどが触手を動かした、カナダの部品会社が有力候補。が、その会社ロシアのGAZが大株主と聞く。

旧ソ連時代の公営企業的自動車メーカーは民営化。で、消却済みの生産設備でコストは低いが品質も悪い、そこで一挙巻き返しの早道には最適の手法だと思う(外貨も稼げる)。

とにかく旧時代のソ連製自動車に対して、その後進出した外国車の値段は二倍もするが売れている。スタイリングが良く、丈夫で燃費も良い外車の方が、人気が高いというのが現状のようだ。

日本の中古車は、ロシア製新車より高性能&信頼性で人気があったが、ロシア製新車の保護というロシア政府の政策で関税が上り、お手上げの日本の業者をTVが報道していた。

ロシア進出の外国企業を調べた。起亜97年進出、大宇/BMW/シトロエン/ルノー99年、現代01年、GM/フォード02年、トヨタ07年、VW/スズキ08年、日産09年といった案配だ。

最後にソ連にもロータリーエンジンがあったことを紹介しておく。70年登場のラダREは1ローター70馬力で74年に2ローター115馬力に。78年の130馬力パワーアップ型ではガソリンタンク二個搭載とあるから燃費は悪そうだ。チャイカリムジンや警察向けだったようだが、82年に3ローター130馬力も登場している。