【車屋四六】色々とあるリムジン・短くてもリムジン

コラム・特集 車屋四六

前に「リムジンと呼ぶ自動車のあれこれ」の話で、国家元首御用達のオーソドックスなフォーマルリムジンを紹介したが、リムジンも探してみれば色々とあるもので、今回はその辺をほじくってみよう。(ちなみに写真トップは、ベンツ600プルマン。タイ王室所有:63~81迄完全受注で428台生産。全長6240x全幅1950x全高1510㎜。車重2790㎏。V8SOHC,6332㏄、250馬力。4AT。最高速度250km/h。世界の王侯貴族御用達。ローマ法王、オナシス、プレスリー、Jレノン、カラヤン、エリザベス・テーラー、他国家元首著名人多数)

前の話だけでは、リムジンといえば超ロングホイールベースか、高級車のホイールベースをストレッチしたものとしか思えないが、アメリカでアコードのストレッチリムジンを見たことがある。言うなれば、庶民型リムジンである。もっとも、大分前の話だが、ロールスロイスにステーションワゴンを発注した、アメリカのお大尽の話を聞いたことがあるから、世の中、物好きは何処にでもいるようだ。

私もそのうちの一人かもしれない。かつてキャデラック75型リムジンを、運転手無しで乗り回して喜んでいた時代があった。第70回で説明したように、貧乏だってチャンスが有れば乗れるのだ。

リムジンという形式は、馬車の伝統を引きずっており、使用人の居住区である運転席と、主人の住む後席をはっきりと差別化して、その間にブ厚いガラスで国境線が引かれている。

その国境を越えての会話はガラスを下げて行われるが、ガラスの上下は後席からだけで可能、運転手の意志では開けられない。今は電話(インターホーン)だが操作は後席から。その前は、昔の軍艦にあった伝声管に似て、小型ラッパに話しかけると、蛇腹チューブを伝わって運転手耳元に開口したラッパ開口部から命令が伝わる仕掛けだった。もちろんラッパの蓋は後席からでなければ開かない。

その目的は、ラッパにしろ、電気仕掛けにしろ、後席の音が運転席には絶対に伝わらないといことで、内緒の話、取引先との密談、美女の口説き、はたまた夫婦喧嘩さえも、運転手が盗み聞くことができない仕掛けなのである。

オードリー・ヘップバーンの”麗しのサブリナ”。ロールスロイスの運転手の父親が「後席に坐る主人、前席の使用人、間にガラスの仕切」と富豪の息子に惚れてしまったサブリナに身分の違いを教えるシーンを思いだした。

シャム王(現タイ)のドラージュ(30年頃の特注品):05~54といってもWWⅡ以前に活躍のフランス製美しい高級車。当時「運転するならアルファロメオ、後ろに乗るならロールスロイス、愛する人に贈るならドラージュ」が欧州上流社会の定評

さて、リムジンは必要だが、大き過ぎは嫌という金持ちのために、短かなリムジンもある。短いといっても、大型の高級セダンだが。ロールスロイスでいえば、シルバーレイスあたりである。

1950年代、60年代までに私が見たことがあるのは、ロールスロイス、ダイムラー、ベントレー、アームストロングシドレー、ジャガー、そしてメルセデス300、オースチン135プリンセスなど。

日本が占領されていた頃、駐日英軍司令官はオースチン125シアーラインのリムジンだった。いずれにしても、どれも後席はニス塗りの銘木で飾られ、クラシックな気品漂う仕上げだった。

リムジンは、運転席側は革仕上げ、後席は純毛で仕上げるのが正統派である。今では、その伝統が崩れて、革張りならゴージャスという解釈が成り立つようになったようだが。

話はそれるが、このリムジンという言葉、ドイツでは通じない。ドイツでは、セダンのことをリムジン(正確にはリムジーネ)と呼ぶからだ。ドイツのリムジーネは、日本語に訳せば箱形、前後席が同じ室内にあるという車を指す。

が、イギリスでは、この箱形乗用車はサルーンで、アメリカに行くとセダンになる。またイタリーやスペインではベルリンと呼んだりする。また、同じような車を指して、セダネットとかベルリネッタなど呼んだりもするから、どれが正しいのか判らなくなってくる。

このベルリネッタは、今でもイタリー車のカタログで表示されていることがある。いずれにしても、馬車の時代にはもっとたくさんの言葉で区分けされていたようだが、そんな文化がない日本人の私に、詳しく説明ができないのが残念だ。

リムジンをドイツ語ではインネンレンケルだと、元駐ドイツ大使館勤務で自動車評論家の故高岸清が教えてくれたことがあったが、フランス語ではコンデュイット・アンテリウールと云うそうだ。

いずれにしても、どれもが馬車時代の型式用語だが、ほとんどが死語になってしまった。が、死語が復活する事もある。例えば、大分前にマツダからコスモ・ランドーと呼ぶ車が登場した。

ランドーは、屋根が開く高級車で、幌のS字型ジョイントが格好良く、ランドージョイントと呼んで高級車のCピラーを飾るのにしばしば登場する(霊柩車にも)。マツダもそれに習ったのだ。

また、横の窓が四/六枚を分類して、フォーライト、シックスライトと呼ぶのが20年ほど前甦ったが、こいつも50年代まで使われていた英語形式の呼び方だった。

言葉が違えば呼び方が変わるのは納得できるが、同じ英語でイギリスとアメリカで違うのは困る。例えば、イギリスでサルーン、アメリカでセダン。フードがボンネット、ルーフがトップ。

更にアメリカでDOHCはイギリスでツインカムシャフト=ツインカム、V12気筒がダブルシックスとツインシックス、コンバーチブルがドロップヘッドと続くと、お前ら何考えているんだ、同じ英語同士、しっかり話し合えッと云いたくなる。

が、これまでの長短リムジンは、いずれもオーソドックスな正統派リムジンである。有る程度量産してカタログがある私のキャデラック75は格式が高い方で、インペリアルリムジンだが、最高の格式はプルマンリムジン。メルセデス600はそのものズバリ、600プルマンとカタログに記載していた。

最近では、そんな長大なリムジンより更に長いリムジンが有り、2009上海自動車ショーにもたくさん出展されていた。私もワシントン観光で、運転手付きチャーターリムジンに乗ったが、あんな不便で乗りづらい車はない。

立派なバー、大音響のステレオ、シャンデリア、内装はキャバレーもどき。それでも仕方がないと諦めたが、乗降が最低。そんなリムジンの大半は、ドアのある最後部から運転席背後までの片側に4~5mの長いベンチシート。奥に座ろうものなら、たどり着くまでの道中の長いこと。天井が低いから頭を下げて中腰で歩くか、シートの上を尻で滑って行くか、いずれにしても大変な労働である。年寄りはギックリ腰のなりそうだ。

さすがに日本ではあまり見かけないが、見栄っ張りな中国の金持ちには流行るかもしれない。

2009上海自動車ショーで見つけた長大リムジン:大きな物が好きな中国富豪を目当てに何種類か出品されていた。が、フォーマルなリムジンと異なり、室内は豪華だが実用上は使いにくい

おすすめ記事