【車屋四六】BMWが造った鍋と釜

車屋四六 コラム

ヒルデブランド&ウオルフミューラー社=H&W社が世界初量産二輪メーカーで、そのエンジンの発注者がリリエンタールだということを既に伝えた。ということは、最初、H&W社の開発目的は航空エンジンだったことになる。

このように脱線した航空エンジンメーカーもあるが、初志貫徹(しょしかんてつ)航空エンジン一筋というメーカーもある。1917年創業のBMW社だが、その前身はラップエンジン製造会社(RMW)で、航空&船舶エンジン開発目的で1913年に創業。が、第一次世界大戦中にドイツ軍の要望だったのだろうか、BMWと改称して航空エンジン専門メーカーの誕生となる。

で、BMWのエンブレムは飛行機に由来する。丸に十文字は回転するプロペラ+青はバイエルン地方の青い空&白い雲。ちなみに、BMWはバイエリッシェ・モートレン・ヴェルケ=バイエル航空発動機製造会社ということだ。

ドイツ軍の傑作と定評のフォッカー後期モデルには、ダイムラーやベンツとBMWがあったが、500基ほど納入されたBMWの評判は上々で、有名な撃墜王リヒトフォーフェンはBMW185馬力を好み、BMW社に個人で感謝状まで贈ったと伝えられている。

ちなみに、対戦相手のフランス鸛(こうのとり)飛行隊の撃墜王、ギンメールのスパッド戦闘機はイスパノスィーザ180馬力。鸛飛行隊は、エースパイロットだけを集めた部隊で、ギンメールの撃墜数は54機。この飛行隊には6機撃墜の日本人エースパイロットが居た。滋野男爵である。欧米では5機撃墜でエースと呼ぶのが習慣。(スパッド戦闘機:イスパノスィーザ180馬力、最高速度196km/h。有名なコウノトリ飛行隊御用達=写真トップの胴体中央の鸛に注目)

いずれにしても、WWIはドイツの敗戦で終わり、ベルサイユ条約でドイツの飛行機製造が禁止される。こいつは日本の敗戦後と同じで、幸か不幸か敗戦は乗用車産業の発展に結びつく。

飛行機エンジン専門のBMWが、敗戦のトバッチリを受けたのは云うまでもない。が、仕事は続けなければ従業員が食えなくなる。で、戦後の必需品である生活用品を造るのだが、得意な金属加工技術を生かして、鍋や釜のたぐいも造ったと聞く。

が、飛行機が造れない不満を解消する技術屋も居た。なんと内緒で飛行機を飛ばして、現在のジェット旅客機レベルの高度約1万メートルにまで上昇して高度記録を作り「ざまぁ見ろ」と鬱憤を晴らした。その技術屋の名は、後の世まで語り続けられる、マックス・フリッツだった。

もっともBMW機が飛んだ1919年は終戦の年だから、既に開発を終えていた飛行機を、禁を破って?強引に飛ばしてしまったのかもしれない。そこへいくと日本の技術屋は従順だ。トヨタの長谷川龍雄は、開発した高々度戦闘機の初試験飛行予定が終戦の日だったが、飛ばさずに米軍に引き渡した。

が、強引な技術屋も居るには居た。ホンダF1の名監督・故中村良夫。開発を終えたジェットエンジンを、戦後、限界試験で壊れるまで回してデータを収集して、溜飲を下げた。

戦闘機の隼や疾風、爆撃機の呑龍など、名機を生みだした中島飛行機が、戦後、富士重工に変わる過程で、日本最高の技術屋にスクーターや軽自動車、はたまたバスを造らせたように、BMWも秀才技師フリッツに、バイクの設計を命じた。が、フリッツは、飛ばずに地上を這い回る機械には興味がなく、逃げ回ったそうだ。

古今東西“悲しきものは宮仕え”というように、フリッツも嫌々仕事を始めたそうだ。が、意を決して仕事を始めれば、本気になるのが技術屋の本性。1923年にバイクは完成した。

そのBMW-R32は、バイク界最高の傑作となった。“論より証拠”という諺(ことわざ)通り、空冷水平対向二気筒、シャフトドライブという基本構造は、WWIIのドイツ機甲軍団で活躍したばかりでなく、世界のレース場を駆けめぐり、今に至るまで変えようもないほど完璧なものなのである。

マックス・フリッツ技師の傑作BMW R32:空冷水平対向2二気筒、B63x S 68mm、493㏄、圧縮比5、8.5hp/3800rpm。シャフトドライブ。変速機:前進三段。車重122㎏。最高速度90km/h

R32を発売した年、飛行機エンジン屋としては自棄のヤンパチ、どうせやるなら地上を走る道具を、もっと造ろうと決心したのだろうか、1928年に四輪乗用車ディキシーを発売する。が、こいつは、世界的ベストセラー、オースチン・セブン800㏄20馬力のライセンス生産で、それが本格的自動車メーカー、BMWの誕生である。

19世紀末に発明された内燃機関は、20世紀に入り、自動車はレースで、飛行機は戦争で、急速な進化を続けるが、航空エンジンについては、次回に触れることにする。

ディキシー:オースチンのライセンスで既に製造していたドイツの会社を丸ごと買収してBMWは本格的自動車メーカーとなる

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