【車屋四六】ジープは世界的な代名詞

コラム・特集 車屋四六

進駐軍が乗り回すジープは、見れば見るほど珍竹林な姿をしていた。大箱徳用マッチの四隅にタイヤを付けただけ。が、そんなジープは、戦争中の僅か四年間で46万台も生産されて、アメリカばかりか同盟各国にも貸与された。

それが世界の戦場を走り回り、やがて連合軍が勝利したから有名になり、四輪駆動車の世界的代名詞になってしまった。昔スクーターが来ればラビット、今でも軽飛行機が墜落すればセスナ機墜落というように、四輪駆動車を見ればジープになってしまったのである。

そんな有名なジープも、生い立ちを聞けばがっかりするだろう。米軍が、慌てて作った兵器だったのである。また、四輪駆動の元祖でもない。

四輪駆動の歴史はとても古く、それは20世紀初頭にまでさかのぼる必要がある。少しの差だが、一番は、速いのが命のレーシングカー。二番が走れない所を走るための自動車だった。

前者は1902年登場のオランダのスパイカーだが、結局性能は発揮されず、その後も30年代にブガッティ、戦後も何度か登場するが、どれもが不成功で、アウディ(クワトロ)のラリーカーあたりでようやく陽の目を見るようになる。

乗用車の四輪駆動は、今では珍しくもないが、その世界初は富士重工のスバルだ。一方、走れない所を走る四輪駆動の元祖はオーストリアのダイムラーで1903年登場。

もっともスパイカーもダイムラーもガソリン自動車での話で、電気なら1900年にポルシェが、また蒸気機関なら1800年代初頭までさかのぼる。

戦争に四輪駆動をと考えたのは、兵器造りでは天才のドイツ軍。1939年にドイツ軍がポーランドに攻め込んだ時に、これは大変と気が付いたのがアメリカ陸軍だった。

いわゆるドイツ軍の有名な電撃作戦で、急降下爆撃機シュツーカの猛爆の後、なだれ込む戦車軍団の中を走り回る、小さな車に気が付いたのである。

慌てたアメリカ陸軍は、早速採用を決定。自動車メーカー4社に試作を打診したのが、太平洋が未だ平和だった1940年7月のこと。さすが自動車王国のアメリカ、僅か三ヶ月後の9月に試作車を持ち込んだのがバンタム社。次いでウイリス社、そしてフォード社の試作車も納入された。

試験の結果は、バンタム車が最優秀だったが、バンタム社はオースチンセブンのライセンス生産で生まれた小会社だから、米軍の大量需要には無理があり、発注先はウイリスに。

これは正解で、最終的にはウイリスでも生産が間に合わず、フォードも参加することになる。三菱が開発したゼロ戦も生産量では中島飛行機が多かったように、ジープの生産量も最終的にフォードの方が多かった。で、終戦までに46万台が戦場に送り出された。

戦場に送られたジープは、米軍はもちろん、英国、オランダ、フランス、中国等々、当時は連合軍の仲間だったソ連にまで貸与され、世界の戦場を駆け回ることになる。

で、後方基地、戦場、何処にでもジープが走り、連合軍が占領された街を開放すると、勝ち誇って入場してくるのがジープ、そんな最後の国が日本だった。

ということで、自動車なんかに興味がなく、自動車の名前などまるで知らない人達でも、ジープだけは憶えてしまったのである。

ジープは敗戦後の日本では進駐軍の乗り物だったが、やがてワンマン首相吉田茂の、自称、警察予備隊の誕生で、やはり軍用四輪駆動車が必要になるのは、近代装備上当然の要求だった。

それに応じて、トヨタジープ、日産ジープ、三菱ジープが誕生。トヨタも日産も、この時点で四輪駆動車を総称して、英語でジープなのだと思っていたのだ。

トヨタジープ:警察予備隊(現自衛隊)の要請でトヨタが開発したジープ。トヨタはWWⅡ中、南方での分捕りジープを元に開発した経験があった。が、終戦で生産せず

で、登録商標であるとの指摘で、トヨタはランドクルーザーに、日産はパトロール(後にサファリ)と改名、ウイリスのライセンス生産の三菱だけがジープを名乗ったのである。

当時の警察予備隊は米軍の子分みたいなものだから、共同作戦が必要になれば、ということであろう、採用されたのは米軍と同じ三菱製ジープだった。

その後、本家のジープは、朝鮮戦争、ベトナム戦と戦いながら改良進化して、姿も変えていった。やがて、クライスラーの傘下に入る頃は、昔の面影を僅かに残すのみとなってしまった。

人間年を取ると、物を見る目、価値観が変わって来るようで、焼け跡を走っていた、あの珍竹林な姿を「あれは美しかったんだ」と思うようになってきた。

ジープの開発コンセプトは無駄を省いた兵器らしく合理的で、例えばウインドーを倒すと、フロントフェンダー、リアホイールハウスに四輪を乗せて何段にも積み重ねられる事も後で知った。

太平洋戦争時の傑作・一式陸上攻撃機の開発主任・本庄季郎が話してくれた。「機能をとことん追求して生まれた機械は結果的に美しさも備えている」と。

ジープは、正にそれが当てはまる機械だった。

日産ジープ:警察予備隊の要請で開発した日産ジープ。日産もトヨタもジープは四駆を指す代名詞と思っていた。が、登録商標のクレームで、日産はパトロール、トヨタはランドクルーザーと命名。予備隊用は三菱に決まり、両社民需に転換する