【車屋四六】リムジンと呼ぶ自動車のあれこれ

コラム・特集 車屋四六

リムジンと云っても、いろいろある。王侯貴族、世界のVIP御用達のオーソドックスなもの。TV、オーディオ、冷蔵庫はまだしも、電話、FAX、はたまたハイテク玩具のような物が一杯詰まって後席が大人の遊び場みたいな奴、いろいろとある。

近頃では、アメリカによく見られる馬鹿みたいに長い観光用もあり、挙げ句の果てに天井にはシャンデリア、クソも味噌も一緒、十把一絡げ(じゅっぱひとからげ)でリムジンと呼んでいる。

とりあえず日本で、馬車からの伝統をひく、フォーマルなリムジンを身近で探せば、天皇家ということだろう。ちなみに天皇の自動車は御料車(ごりょうしゃ)と呼ぶ。

現在ドイツのダイムラーベンツ博物館にある、赤と黒のメルセデス1935年型リムジンは、戦前(WWII)戦後を跨いで活躍した。戦前の天皇家はベンツを好んだようで、1932年型二台、35年型を三台購入している。

戦後の購入は、1952年型キャデラック75型リムジン。次がダイムラー・ストレートエイト1953年型で、平成天皇が皇太子時代に、エリザベス英国女王の戴冠式に列席し、帰国の折りに持ち帰った。ダイムラーは、戦前に1920年型を二台購入している。

次がロールスロイス・シルバーレイス1957年型。そして1961年型ロールスロイス・ファンタムV。この時代になると日本の懐もゆとりが出たのか、シートを陛下の体格に合わせた特注品になる。

ロールスロイスは気に入られたようで、ファンタムVは1963年型も購入。ちなみに、ロールスロイスと天皇家のとの関わりは、昭和天皇が摂政治時代に始まり、好んで使用された1921年型はオープンだった。

リムジンでは、1920年型が二台御料車として購入され、その後、1932年型、1935年型と相次いで、数台が納入された。他に、宮内省は、1935年、36年、37年、38年とパッカードを購入しているが、これは主に天皇行幸時の供俸車(ぐぶしゃ)として使用された。(供奉車=お付きの車)天皇行列は鹵簿(ろぼ)と呼ぶ。が、戦後、GHQにマッカーサー連合国司令官を訪問した時には、米国製パッカードを使用している。

さて、世界の自動車生産国に追いつけ、追い越せと頑張り、日本の実力が付くと、宮内庁からプリンス自動車に、天皇の御料車開発が依頼されたが、一度は辞退した。が、再度の依頼で受注した。

で、本格的リムジンが完成するが、その顔はプリンス自動車最後の作品、グロリアの流れを汲んでいた。このプリンスロイヤルと名付けられたリムジンは、1961年以降、宮内庁に五台納入されたが、外務省と日産自動車にも一台ずつ保管されている。その後プリンスと日産の合併で、日産プリンスロイヤルと呼んでいる。

ちなみに、プリンスロイヤルが納入された後、何処かの金満家が「幾らでも良い是非一台」と申し入れたが「畏れ多いこと」と、丁重に断ったそうだ。

プリンスロイヤル:1966年イタリア・クワトロルオーテ誌掲載の紹介記事。プリンス自動車製だが合併で日産プリンスロイヤルに。全長6155x全幅2100x全高1770㎜。車重3200㎏。8座。V8OHV、6373㏄、3ATは低速巡航と安全を考慮してGM製を採用

ちなみに、日産プリンロイヤルには霊柩車もあり、昭和天皇はもちろん、モータースポーツ普及のため日本グランプリの総裁として、鈴鹿や富士にも足を運んで下さった高松宮殿下の葬儀にも使用された。
さて、身近な天皇家リムジンの話が長くなったが、フォーマルなリムジンは各国の王家や元首御用達の必需品である。が、イギリスやアメリカ、ドイツ、日本など、自動車の生産規模が大きな国はよいが、規模が小さい国、また非生産国(世界ほとんど)は、親分のためにといったところで造ることが出来ない。

で、かつての日本のように、気に入ったリムジンを買うということになる。その大半は、やはりロールスロイスだが、1950年代に登場したメルセデス600プルマンリムジンは、ローマ法王も特注したように、各国の王、元首のお気に入りで、タイに行った時に、王様ご愛用車を写真に撮ったこともある。

リムジンは、欧州車ばかりかと思うと、そうではない。アメリカも本場である。で、親米派の各国元首はキャデラックリムジンに乗っている。もちろん、フォードやクライスラーにもリムジン仕様があった。

特にパッカードは有名で、ルーズベルト大統領も愛用、またアイゼンハワー大統領がキャデラックを採用するまで、長いことホワイトハウス御用達はリンカーンのリムジンだった。ちなみに、ケネディ大統領もリンカーンである。

イラン革命で亡命したパーレビ国王は、キャデラックを特注したが、その完成が亡命直後だったので、納車できずに困っているという話を聞いた。何年か経って競売に掛けられたそうだ。もちろん装甲車で、夜間ゲリラに襲われた時には、運転手が暗視鏡を掛け、ライトを消して暗闇を突っ走れる仕掛けになっていたそうだ。

リムジンはカタログにないが、どうしても自国製リムジンを、というのがフランスの愛国者ドゴール大統領。戦前フランスは、高級大型車の名産地だったが、戦後は中・小型車ばかり。そこで、シトロエンDS19の特注品を造らせて愛用していた。

此処で登場するのが、高級車など造る技術がないのに、国威に掛けて自前のリムジンをと、造ってしまったのがソ連と中国。

スターリンが乗っていたZISは、どう見てもパッカードにそっくりだったが。それ以外に高官用なのであろう、ZIMとかZILとか、何種類かのリムジンが登場している。

更に、乗用車生産能力がない時代に、立派な大型リムジンを開発したのが中国。毛沢東愛用の”紅旗”は堂々とした姿をしている。もっとも、初期の頃は、エンジン、変速機などパワートレーンはアメリカ製を流用していたらしい。

紅旗:特に全長が長い毛沢東主席専用車。58年~78年にかけ必要に応じて生産。前Wウイッシュボーン/後リーフリジッド。V8、OHV,5700㏄、210馬力。AT。最高速度180km/h。北京ショーで

社会主義国のトップ達が立場上「自由主義国からのリムジンでは」と敬遠したということも考えられるが。

これらホイールベースが長い大型リムジンは、三列目の折り畳みスペアシートか固定シートがあって、3+2+3=8人乗りで、エイトパセンジャー・リムジンと呼ぶが、運転席と後席との間にパーティションがないのもあり、こいつはエイトパセンジャー・セダンと呼んで区別する。

セダンの方は、デカイのが大好きという、自分で運転する大金持ち用の車のようだ。昔、テキサスで、カーボーイハットのオトツァンが自分で運転しているのを見たことがある。
最後に、イギリスでは、長い間ダイムラーが王室御用達だったが、エリザベス女王の時代になって、ロールスロイスに変わった。