【車屋四六】今ならヒンシュクを買う煙草点火器

コラム・特集 車屋四六

どこの国でも、自動車とは初めは金満家御用達で次ぎに裕福な人達、そして中産階級から大衆へと普及していく。その過程は自動車発祥のヨーロッパから現在まで共通である。面白いことに、中産階級から大衆に広がる時期に入ると、車を飾るアクセサリー、そして用品、装備品が多数登場する。そしてそんな商品を扱う専門店も登場する。

何時だか紹介したことがある黒タイヤを白タイヤに変身させる“カスタムホワイトリング”なども、その種の商品。中には意味のない物、ただ飾り立てるだけの物、もちろん役立つ物、種々それぞれである。

憧れの車が手に入った。嬉しさのあまりに飾り立てる気持ちは判らぬではないが、飾りすぎて安全面で心配になるようなものある。まあ無意味でも役に立たなくとも本人満足ならそれで良かろう。

いずれにしても車が実用品段階に入ると、無意味に飾ることもなくなり、実用装備品の人気が高まる。日本は大分前からその段階で、中国は飾り立ての段階が始まったようだ。

写真のプレサライトは、1961年頃、日本の飾り立て時期に入った頃の物である。その頃の日本、60年にはスバル360、セドリック、三菱500、マツダR360、コロナ二代目。1961年は、日野コンテッサ900、パブリなどが登場し、車の大衆化が訪れた頃だった。

灰皿もライターも無いのが当然の今では考えられない商品。運転しながらタバコが出てくるのは便利だった

その頃に生まれた多くの用品の中、協同産業から発売されたプレサライトは“運転中ボタン一つで火の点いた煙草が自動的にとびだしたらどんなに便利でしょう・おまけにシガレットケースまで付いている”という便利用品。

何のための用品かは既にお判りだろう。そして、こんにちでは使えないフレーズ「愛煙家の安全運転のために」と結んでいる。

取り付けは簡単で、器用な人なら自作できる。まず運転席から手が届きやすい場所(主にダッシュボード上)に取り付ける。マイナスアース車なら、本体にネジ留めして、プラス電源はシガーライターから取る。

上の蓋を開いてから⑫のネジで愛煙の煙草の長さに合わせ調整する。煙草を20本いれて蓋をする。④を下方に開くとホルダー⑥に煙草が一本出て、ヒーター③が自動点火→10~20秒で完全に煙草に火が点いたら取り出して、喫煙を楽しむ。

煙草を取り出したら、早く蓋を閉めないと、ヒーターが焼けきれるおそれがある、と云うのが装置の説明。全て自動でというのは見事だが、最終段階の蓋閉めが手動というのは如何なものか。だが、当時の町工場の技術からすれば、これでも優れものだった。

いずれにしても、嫌煙禁煙が大手を振って歩く時代の今では考えられない用品だが、男は煙草を吸うのが当たり前みたいな頃としては当然の用品だった。しかし、取り付けた車に出会うことは滅多になく、ヒット商品にはならなかった。ハンドルを握りながら煙草を出してくわえる→ライターで火を点ける。自己満足的だが、一連の手慣れた動作には不便を感じなかったし、またそれが格好良かったのである。

プレサライトはアイディア倒れ。喜んで客が飛びつくと判断したのが浅はかだったが、実用上は問題なしだった。だが、火花が強くなる、燃費が良くなる、エンジン内部が綺麗になる等々、古今東西、今でも出ては消えて行く用品は、害はないが益もなしというのがほとんどで、中には有害な物もある。この種の商品選びは慎重に。

こんな広告が出た1961年頃の日本は、車大衆化の幕開け時代だが「地球は青かった」の名言で有名なソ連のガガーリン大佐の人類初有人人工衛星に、日本中が驚いた年でもあった。