【車屋四六】ラリーをやるには金がいる

コラム・特集 車屋四六

スピードパイロット4万円、ツインマスター4万円、トリップマスター2.7万円、トリップメーター1.6万円。
65年/昭45年頃のハルダの広告は、世界のラリースト御用達の車載計測器だった。1個4万円!…大卒初任給3.5万円、鰻重550円の頃なのだから、大変高価な装備品である。

当時ハルダの輸入代理店はパラマウント商会。いまホンダ本社がある青山一丁目交差点の、246を渋谷に向かった右側、神宮絵画館入口手前、自動車用スポーツ用品で知られた店だった。

三菱ミラージュを開発した来栖南(きすな)主査の言葉を思いだした(当時の三菱は世界のラリーで活躍中)
「ラリーに勝ちたいなら名前に{ソン}か{ネン}の付くドライバーを高額で雇えばいい」…昔から、北欧ラリードライバーは常に一流で、そんな北欧のスエーデンが生んだのが名品ハルダだった。

が、値段も一流、欲しくても手が届かない高嶺の花…原付バイク5万円強、高卒初任給ならトリップメーターがやっと。で、ハルダはプロのラリーストか、ラリー道楽の金満家御用達用品だった。

スピードパイロットとは、変速機からの車速と内蔵時計で走行中の平均速度を自動計算表示。ツインマスターは、二個のトリップが個々に操作でき、重視機能は一発でゼロに戻ることだった。

本格的装備なら、もう一つ必要…ホイヤーのストップウオッチ二個ひと組をインパネにセットすれば、一応完璧だった。で、欲しいものを揃えれば、数十万円だから、たまったものではない。

当時、ブルSS/72万円、コロナ16S/77万円、ベレット16GT93万円、カローラ/49万円、私がベスドラで優勝時のサニー/46万円などと較べても、ハルダ+ホイヤーは高嶺の花だった。

が、貧しいラリーストは手持ちのストップウオッチ、無ければ車の時計や腕時計。速度計のオドかトリップメーターで距離を読み、時間と時間を対比で平均速度を算出。
計算は、タイガー計算機などは上等な方で、普通の計算尺かラリー用円盤型計算尺などを使う。浅草九月の若旦那などは得意の算盤。ときにはナビゲータが筆算というのもあった。

タイガー計算機はこの手の計算機の代名詞だった

私がベスドラで優勝したサニーには、高価な三種の神器装備だが、実は借り物。第一回日本GPで活躍した宇田川武良氏からハルダのセット、現在時計業界では大御所の本間誠二さんからホイヤーを、ということだった。

近頃、公道ラリーは危険だからと開催できないが、当時は激しいラリーが相次ぎ、私の時も箱根の夜道、しかも霧の中を100キロメートルでとばし、丹沢の林道を80キロメートルで、というように滅茶苦茶で、日本アルペンラリーでは「崖から落ちた」という話しも聞こえてきた。

余談:SCCJ(日本スポーツカークラブ)のラリーで、最高速度60㎞の指示に、警察から「60㎞では遅れを取り戻せないはず」と指摘され、次のラリーから最高測度指示が59㎞になった。
が、私の経験では、踏切で列車の通過待ち後、時速100㎞、死に物狂いでとばして平均時速59㎞に戻すまで、相当の時間を要した。(当時法定速度上限は全国60㎞)

ハルダは、そんな時代に活躍したラリー界のブランド商品、誰もが仰がれたが、金満家御用達、高価な高嶺の花だった。

竹とセルロイド製のヘンミ計算尺