【車屋四六】むかし自動車はガス灯で走ってた

コラム・特集 車屋四六

自動車の前照灯=ヘッドライト(英国ヘッドランプ)は、LEDやディスチャージランプなど、近頃ベラボーに明るくなった。
それ以前、12ボルト時代、いや6ボルトの時代でも、初めて見たシールドビームは、明るさにビックリしたものである。

終戦後も含めて40年代、日本の自動車は電球に反射鏡という昔ながらの前照灯が多く、敗戦の日本を走り出した進駐軍ジープの明るさにたまげたもので、それがシールドビームだった。
同じ6ボルトなのに、戦争中走っていた日本のやつは、山小屋のランプのように、ほんのりと明るいというていどのものだった。

が、6ボルトの時代は、WWⅠが終わった頃からだから、かなり古い歴史の持ち主である。その6ボルトに至るまでにも、自動車には、いろんな照明器具が登場している。

1894年/明治27年に登場の、ベンツ・ベロにもライトが付いているが、光源はローソクだった。自動車では前照灯と呼ぶが、これでは走行中に前は見えないだろう。暗夜の中、歩いている人や、馬車・馬に乗る人達に、自動車が居るよと知らせる道具でしかない。

が、自動車は急速に進歩しながら速度も上昇する。その進化に比例して前照灯も進化した。ローソクの次ぎは、灯油ランプである。これとて明るさはそれほどではないが、後期には反射鏡やレンズも付いて、暗夜の道路なら、かなりな威力を発揮しただろう。

ランチェスター(英)のは20世紀初頭のだが、ランプ職人の作だろうが見事なほど美しい。下に灯油タンク、上部に熱気抜き、手の込んだ反射鏡もある。かなり明るかったことが想像できる。

20世紀初頭のランチェスター/英の灯油ランプ:排気口沢山ということは発熱量が多かったようだ。反射鏡も進歩している

車の速度上昇は止まるところを知らず、となれば更に強い光が必要になり次ぎに登場するのがガス灯である。
が、明治の頃からの都市ガスを使う照明ではない。正しくは、アセチレンランプ、日本ではカーバイトランプと呼んでいたやつだ。

こいつは1900年に米国で特許が成立してから、急速に世界に広まり、小型に出来るので自動車にそして自転車にも使われた。
原理は、カルシュームカーバイトの小塊に、水を滴下してガスを発生させて燃やすのである。炭化カルシューム=カーバイトは、生石灰とコークスを電気炉で熱して簡単安価に造れるようだ。

明るさは水の滴下量で調節するが、2秒毎に1滴ぐらいがちょうど良いと、昔聞いたことがある。
昔と云っても、今のようなポータブル発電機が普及するまでの縁日などでは、それぞれの屋台が装置を持って照明に使っていた。
昭和の中頃までを知っている人ならば、憶えているだろう。

20世紀に入り、普及を始めた自動車のアセチレンランプは、はじめガスのノズルは一本だったが、やがて二本になる。Y字ノズルが見えればそれで、レーシングカーにも使われたのだから、そうとうに明るかったのだろう。

ちなみにアセチレンランプが活躍したのは、20世紀初頭から10年代までで、電球ランプの登場で、またたく間に消えていった。
その節目は、急速に技術が進歩した、WWⅠだったようだ。

だいたいのガス発生装置は箱状で、インパネの下とか、ステップの上とか、運転手か助手が水量コントロールをやりやすい所に置いてあるものが多いようだ。

ベルギー生まれの高級車ミネルバ1912年型:明るそうなアセチレンランプ。車幅灯は灯油ランプ。運転席横に可動型探照灯が装備されている