【車屋四六】三船敏郎とグラン・プリ

コラム・特集 車屋四六

この冊子の表紙は1997年5月、手元に届いたグッドイヤーニュースの表紙。グッドイヤーは、長いこと世界一のタイヤメーカーだった。その会社の協賛で映画グランプリは製作された。

映画は1966年に撮影されて、日本での封切りはテアトル銀座。当日は警視庁のブラスバンド演奏、そしてホンダF1が展示されて話題となった。

F1の展示には理由があった。表紙の白いのがホンダF1で、ドライバーは、当時売れっ子俳優のジェームス・ガーナーだが、側に立つ黒いスーツ姿が三船敏郎である。

映画で三船は矢村を演じるが、矢村は本田宗一郎がモデル。カンヌ映画祭で羅生門の受賞以来、三船の名は世界に知られていたが、ハリウッド映画には、これが初出演だった。

テアトル銀座の初日:三船敏郎にレーシングバイクに跨がり解説するのは本田宗一郎

有名俳優は三船やガーナーだけではない、手前の赤いフェラーリV12に座るイブ・モンタン。また対戦するドライバーは本物のF1ドライバーで、有名サーキットを転戦するという物語。

華を添える女優は、チャーミングなエバー・マリー・セイント。

後方2台は判別しにくいが、グリーンはローラかロータスで、車種不明の赤い方には初期ホンダワークスで活躍した、ロニー・バックナムが座っているようだ。

映画は、フランケンハイマー監督の手で1966年に完成。アカデミーサウンド賞とサウンド効果賞、編集賞を受賞だから迫力満点、観客はワイドスクリーンに引き込まれて興奮した。

とにかく本物マシーンを現役F1ドライバー操縦で、本物のサーキットでのバトル、やらせでない実感は迫力満点だった。

ちなみに出演の本職F1ドライバーは、フィル・ヒル、グラハム・ヒル、ブルース・マクラーレン、当時のトップレーサー達だ。

この映画迫真に迫るのは、F1コンストラクターが協力、本物のレース撮影は六カ国に及んだ。また、リッチー・ギンサーやヨアヒム・ボニエ、ボブ・デュラントなど、F1の一流がアドバイスというのだから、すべて本物なのである。

それまで二輪では世界に知られたホンダも、四輪では未だ世界に通じるホンダではなかった。が、1965年に世界の視線を集めた。

世界中が至難のわざと諦め境地のマスキー法排気ガス75年規制を、世界で初めてクリアしたからだった。

9月発表のCVCC方式は、12月に適合のお墨付きが出ると、早速技術供与契約をしたのはトヨタだった。

年が明けた1966年7月フォード、9月いすゞ、そしてクライスラーとファミリーが増えた。一方、本家のホンダは、1967年にシビックCVCCが登場して、早速日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝く。

さて、困ったのは映画登場のホンダF1の車種が判らない。片側に四本の排気管があるから直四かV8だが、66年当時のホンダRA273はV12/3ℓ420馬力なのである。

それならと映画関連で調べたら、ホンダF3を改造したようだと判った。また、迫真の走行シーン撮影にはフォードGT40を撮影用に改造し、コースから飛び出すシーンでは大砲を使ったという。

更にドライバー目線の撮影用カメラは、NASAの協力で耐震カメラを開発。近頃TV中継に登場の車載カメラの源流のようだ。

リッチーギンサー操縦メキシコGPでF1初勝利のRA272/1.5ℓV12/ホンダの初勝利はF1タイヤ供給368勝を記録するグッドイヤータイヤの初勝利でもあった

いずれにしても、映画王国に君臨する世界のハリウッドと、世界最大タイヤメーカー、グッドイヤーとのコラボだったからこそ完成した豪華映画だったと思う。