【車屋四六】ステイションワゴンのルーツ

コラム・特集 車屋四六

昔と云っても90年代のこと、日本のRVブームの頃、気がついたらステイションワゴンもその仲間に入っていた。
それまで日本では、ワゴンと呼べば低俗車扱いで、上等車が好きな人達の乗り物ではなかった。
が、欧米では呼び方が異なっても、高級ステイタスな乗用車で、アメリカでステイションワゴンと呼ぶ車が、ポピュラーになったのは第二次世界大戦以降のことである。
で、そのルーツを探ってみれば予想外に古いことが判った。

物の本によると、ステイションワゴンを商品名に使った初めはフォードのようだ。そこで、手元の資料を探したら、28年に5台を販売という記録が見つかった。
有名なフォードT型がA型に変身した年で昭和3年だから、共産党の機関誌“赤旗”創刊の年である。

産声を上げた28年は、たった5台だったが、翌29年になると4954台と売り上が伸びるので、物珍しさで買ってみたら、えらく便利な乗り物と話題になったのだろう。

そして30年は3799台、31年3018台と安定した売り上げを維持したのである。当時ワゴンの値段は、30年は650ドルで、31年には625ドルと下がっている。
値下がりは量産効果と思われるが、その頃のA型の値段が435ドルだから、ワゴンという車は高額商品だったのである。

当時のフォードカタログには“ウッディーボディー・ステイションワゴン”と御大層なネーミングで表示されている。
名前の由来は写真を見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)。私所有の一番古い写真は32年型だが、観音開き4ドアセダンのキャビン部が総て木製だと云うことが判るだろう。(写真上:ラスベガスのインペリアル自動車博物館で見つけたフォード木製ワゴン32年型。人形はヘンリーフォードのつもりか?)

この32年、フォードA型はB型に進化したが、それまでは
高級車専用だったV型8気筒を、大衆車フォードが搭載して話題を提供した年でもある。

50年頃のフォード・ステイションワゴン:ドア、後部パネル、リアハッチが木製。後マーチン飛行艇エンジンはフォード製かも?

高嶺の花のV8を大衆車レベルに引き下ろすには、フォードの工夫があった。90度バンクV8のシリンダーブロックのワンピース鋳造技術を開発して、コストダウンを果たしたのである。

で、32年型では、直四3200cc50馬力とV8の3600cc65馬力の2本立てになる。ちなみに直四型はフォードB型、V8型をフォード18型と呼んで、フォード製品のシリーズ名に、数字を使うようになった始まりのようである。

さて33年、フォード・ステイションワゴンの売り上げは、直四B型の369台に対して、V8の18型が1654台、フォードファンは、好感を持ってV8エンジンを受け入れたようである。

その後フォードのステイションワゴン人気は右肩上がりで、34年4636台、36年7044台、37年9304台と伸びていった。
試乗で人気が上がれば、当然ライバルが登場するが、他メイカーのステイションワゴンも、ほとんどが木製ウッディーワゴンだった。

木製ファンが増えて乗用車にまで:終戦直後(46~48)の戦前型フォード・コンバーチブルがベース

以後しばらくの間、ワゴンと云えば木製が定番に。が、WWⅡ以後、コストダウン競争が厳しくなると、木製から鋼板プレスになるが、外側に木を貼ってウッディーワゴン風に仕上げる手法が長いこと続くのである。
が、更にコストダウンが必要になって登場するのが、木目のシールを貼る手法だが、最後には塗装で、ということになる。
いずれにしても人は木が好きで、木に郷愁を感じているのだろう。