【車屋四六】世界初の量産スポーツカー?

コラム・特集 車屋四六

1960年代初頭、スポーツカーといえば本場はイギリス、そしてドイツやイタリアで、日本製は世界で通用せず、というよりも日本人の我々でさえ馬鹿にしていたという方が適切な表現である。

が、それが一変したのが63年。切っ掛けは5月の日本グランプリレース。日本中の誰もが、勝つのはトライアンフ、MG、ポルシェなど、お馴染み世界の一流スポーツカーと思っていたところ、とんだ飛び入りが独走優勝したからである。
日本ダットサンクラブの田原源一郎が駆る、フェアレディー1500が、終始先頭を切りながらゴールに飛び込んだのだ。(写真下:フェアレディーを一躍有名にした日本GP優勝車1500SP、ドライバー田原源一郎所属NDC東京のステッカーが左後方に)

 

フェアレディー1500(SP型)は、ブルーバードをベースにセドリックの四気筒1500を搭載して、前年85万円で売り出したばかりの新鋭スポーツカーだった。

その日から日本での認識を変えたフェアレディーは、レース場の常連になって活躍開始、やがて早さが売り物のブルーバードSSSの心臓を移植したフェアレディー1600(SR型)へと進化する。

サーキットを走り回り、順調に成長を続けたSRは、67年にフルモデルチェンジして2000に変身する。
それまでのSPとSRの活躍の場は日本国内だったのに対して2000は、国内は無論のこと、スポーツカーのメッカである、アメリカ市場攻略に出発する。

その頃アメリカ市場に橋頭堡(きょうとうほ)づくりを着々と進めていたのが、お馴染み片山豊米国日産社長で、トヨタでさえ休眠中の米国市場で、成功を手にしつつあった。(橋頭堡=兵法用語で、敵を攻撃するための足がかり)

片山さんのモットーの一つに「儲からなくもいい企業イメージアップにスポーツカーが必要」というのがある。で、2000をアメリカで売りながら、本国日産に希望を出し、やがて世紀の傑作フェアレディーZの誕生につながっていく。

2000が登場した頃、アメリカ市場で活躍していたスポーツカーといえば、ベンツ、ジャガー、ポルシェ、トライアンフ、MG、アルファロメオ、コルベット等々。

そんな夢のような市場に投入されたフェアレディー2000が走り出すと、ライバル達がネを挙げ始めた。
日本では通用するが「アメリカではねぇ」と日本人自身が半信半疑だった日本生まれのスポーツカーが、実は世界最高水準の性能を備えていたのである。

直列四気筒SOHC1982ccエンジンは、ツインチョーク型ソレックスキャブレターを二連装だから一気筒当たり一個という機構で145馬力を発生。五速型変速機は最新のポルシェシンクロ型。性能を上手く引き出せば、0-400m加速が15.4秒、最高速度205㎞という世界トップレベルの俊足だったのである。

そんな高性能スポーツカーに更なる驚きは、88万円(日本)という安い販売価格だった。
が、安さの秘密も判れば簡単のことだった。世界のスポーツカーのほとんどは、好事家(こうずか)相手の少量生産だから当然手作りだが、フェアレディーは量産を前提に開発されていたのである。

結果として、フェアレディー2000は、世界で初めての、大量生産スポーツカーだったのである。
アメリカでも、安ければどんどん売れる。すると走り屋ばかりでなく、二人乗りロードスターとしてツーリング愛好者達にも売れはじめ、通勤にさえ使われるようになる。

となると、次なる課題は純粋スポーツカーではなく、GT=グランツーリスモの開発である。
ここで我々が「おとっつぁん」と呼び尊敬するアメリカ日産の御大、片山さんの出番となる。日産本社開発陣に要望をだし、69年に誕生したのが、フェアレディーZだった。

Zは快適なグランツーリスモだから、フェアレディー2000はスパルタンな古典的スポーツカーとしては日産最後の作品となる。
一方、Zの方は片山企画が見事に的を射て、売れに売れて、なんと総売上高100万台という驚くべきスポーツカーになるのだ。

で、アメリカ全土に、Zファンが生まれ、Zクラブが生まれ、いまでも活躍している。
そんな連中は片山さんを“Zの父”=ファーザー・オブ・Zカーと呼んで、いまだに慕っているのである。

片山豊アメリカ日産社長が工場に贈ったZ旗、米国での成功を祝し感謝の気持ちを込めて(日本海海戦で有名なZ旗は船の備品でA~Zまでを表示する信号旗の1枚

世界市場を席巻したフェアレディー2000が生まれた67年、日本はGS(グループサウンズ)人気絶頂期だった。当初エレキギターを弾けば不良視されたGSなのに、NHK紅白歌合戦にブルーコメッツが出演、ブルーシャトーを唄って話題になった。
ついでに、67年、人気の日劇ウエスタンカーニバルに登場した新顔を並べると、タイガース/沢田研二、テンプターズ/萩原健一、モップス/鈴木ヒロミツ、カーナビーツ、ビレッジシンガーズ、ゴールデンカップスなど。